光山鉄道管理局・アーカイブス

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鉄道ミステリとNゲージ37 「準急皆生」とキハ26

2021-07-24 05:17:43 | 小説
 鉄道ミステリとNゲージネタから
 今回は光文社文庫版日本ペンクラブ編「殺意を運ぶ列車」に所収の天城一作「準急皆生」を取り上げようと思います。

 天城氏の作品はこれまで「急行さんべ」と「寝台急行月光」のニ作を取り上げていますが、いずれも時刻表を駆使したトリックが出色です。
 今回の「皆生」は作者にとっても自信作だったそうで、実際読後感もなかなか充実しています。

 江迎登志子殺しなんか似た様なものさ。はじめに犯罪計画の誤算がある。次に警察の捜査がいささかイージーゴーイングで、一人の刑事に引きずられた形で容疑者を逮捕してしまう。弁護士がこの穴を察知してあわやというところまで警察を追い込むんだが、図に乗りすぎて不覚の誤算。やれやれ勝ったかと思っていると、十年すぎたときにキー・ウィットネスの突然の出現。いやはや全く振り廻されたね。脱線に次ぐ脱線さ。それでも万事めでたく収ったというんだから「皆生」ならぬ怪奇な事件さ。
(上掲書113Pより引用)

 と言う島崎警部(天城氏のシリーズのレギュラーの探偵役)の述懐から始まる本作は1964年8月、東京でファッションデザイナーの江迎登志子の死体の発見から幕を開けます。やがて浮かんだ大阪在住の容疑者は中国地方の山行に出かけていて帰途に乗るはずだった準急の皆生に乗り遅れたために犯行時間帯に東京に行く事ができないと言うアリバイを主張します。

 従来の時刻表アリバイのほとんどは「犯行時間帯に特定の列車に乗っていた」と言う主張をするものですが、本作では逆に「特定の列車に乗り遅れたために現場に行けない」点をアリバイにしているのが特徴です。
 捜査陣も当然「皆生」より早く東京に到着する方法がないかを探すところを重点的に調べ始める訳で短編ながら時刻表トリックの醍醐味が凝縮しています。

  私なんかも帰省や上京の折に目的地まで行く行程の設定でスマホの路線検索ソフトを常用しているのですが、5つくらい並ぶ候補を見ていると「あっ!その手があったか」というような意外性のあるルートが表示されて驚かされる事があります。

 昔の時刻表トリックの大半はまさに「その手があったか」の意外性が肝な訳ですが、今ではスマホが秒殺で意外なルートを表示してくるのですから、時刻表トリックは形なしもいいところ。
 ましてや天城氏の作品では時刻表の印刷形態までトリックの材料に使う作品がありましたから、純粋にルートと所要時間を計算する検索ソフトの前にはひとたまりもありません。
 検索ソフトの存在は間違いなく旧来の時刻表トリックを絶滅させつつあります(とはいえ、検索ソフトのロジックの裏を掻く形でのトリックはまだ可能ではないかと個人的には思っているのですが)

 それに天城氏の作品の場合はトリックと同じくらいに皮肉と逆説に満ちた人間描写にも意を用いており、そんな点も魅力となっている点を見逃せません。

 作品の話でずいぶん引っ張りましたが、作中に登場する「皆生」というのは三原ー出雲市間を走る準急列車。
 1964年9月の時点ではキハ26とキハ28、キロ28の4両編成による運用がされていました。つまりキハ55系の1エンジン車とキハ58系の1エンジン車で構成された編成という事になります。
 キハ28も繋がっていた点から考えるとキハ26はいわゆる準急色では無かったのではないかと思われるのですがあいにく当時の写真がなかなかヒットしないので確証はありません。

 さて、キハ28もキハ26も1980年代初めにNゲージでリリースされています。

 キハ28の方はキハ58と共にエーダイナインとTOMIXがほぼ同じタイミングで発売、競作になったという曰く付きのモデル。
 TOMIXの方はアイボリーがプラの地色で幾分安っぽい感じでしたがエーダイの方はアイボリーも朱色もきちんと塗装されていたので質感の点でアドバンスになっていました。一方で車体はエーダイがキハ58の流用だったのに対しTOMIXはキハ28専用のボディを起こしており考証面ではTOMIXに分があります。

 キハ26の方はエーダイ倒産後に生産と販売を引き継いだ学研からキハ55と同時リリース。こちらは競合製品もなかったために21世紀になって  TOMIXがキハ55系をリリースするまでレアもの扱いだったそうです。

 私の手持ちのキハ55系は主に最近のTOMIX製なのですが、不思議な事に(でもないか)店頭ではキハ26ばかりが売れ残っていたためにほぼ全てがキハ26になっています(笑)、まあ、今回のようなネタには好都合ではありますが。