瀬崎祐の本棚

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詩誌「天国飲屋」 2号 (2022/11) 神奈川

2022-12-09 18:58:09 | 「た行」で始まる詩誌
魅力的な女性の書き手5人が集まった詩誌。表紙絵は色彩が溢れているようなヒルダ・ポウグル・ガルシアの「遊ぶこどもたち」。故・小柳玲子氏が発刊された画集の中の絵のようだ。

「船と風鈴」北川朱実。
夜明けの海、出航する漁船、操舵室の天井から下がるガラスの風鈴。そのガラスの中には海で溺れた少年の灰があって、その「乾いた生命は//澄んだ悲鳴となって/海峡を渡り//インディゴの空深く/帰っていくのだろう」と詩われる。点描のように描かれたそれらを受けて、話者の中の海が波立っていく。

   大きな尾ヒレを追って泳ぐうち
   水に迷い

   何かが一つ見えなくなった

   その日
   人と別れた

短く切れる言葉と言葉、事象が跳んでいく連と連、それらの間を埋めている空白部分に滲んでくる叙情を堪能する。最終部分は、「船が海道をまっしぐらに帰ってくる//深い/大きな入れものに向かって」

「スースーする」坂多瑩子。
話者は夜更けの鏡の中に死んだ母親の顔をみる。話者は母親に背中のどこかを食べられていて、そこがスースーするのだ。この”スースーする”という言葉には、ただ寒いだけではない欠落感を伴った感覚が伴われている。その欠落感を抱えたままで話者はは親に似てきた自分の顔と向き合っている。

   おかあさん
   死ぬのはいいけど
   美少女のあたしをつれていって
   残りかすみたいなあたしを残していったね

   そのせいで
   あたしの書くものはいつも消しゴムの消しカスでいっぱい

自虐的なユーモア感覚が、なんとも切ない。

長嶋南子が「ヤマンバな日々」と題して小柳玲子氏の追悼文を書いている。三十年近い付き合いだったとのことで、あっけらかんとした書き方なのだが、小柳氏に対する敬愛の念がしみじみ伝わってくるものだった。
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