瀬崎祐の本棚

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生き事  7号  (2011/秋)  神奈川

2011-10-13 18:45:40 | 「あ行」で始まる詩誌
 「海町」岩佐なを。
 独白体で語られる270行を超す長い作品。ある時期の回想から始まり、みなが海水に浸りたがる夏の海町が舞台。見えるものや、触れるものについて語っているのだが、一番の関心事はそれらに反応する自分の感覚である。

   腰掛けるとパラフィン紙は
   膨らんでヒトガタに育つ
   合い席するとき挨拶をしないひとたち
   紙としてやってくるので
   それを咎めだてする気にはならない
   ひらりひらり
   むっくりむっくり
   むしろこれも「食卓の縁」なのだから
   乱れずやさしい自分であるべき

 与えられた状況を楽しんでいるとも見えるのだが、そんな自分の足は地についておらず、不安感で揺れ動き続けているようだ。
 やがてものかきになりたかったらしい海町の叔父が登場してくる。死んだその叔父のノートから「ヴェゴル」という動物の鼻声が聞こえ始める。ここからはこのヴェゴルが作品を支配する。それは世界のあらゆるところに蔓延っている植物のようでもあり、臭い匂いを放つ動物のようでもある。ヴェゴルによって世界は汚濁にまみれていくようなのだ。
 その正体や本性が判るはずもなく、とても悪い後味を残しながら(といっても決して貶しているわけではありません)、作品は私(瀬崎)の目の前から去っていった。
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