瀬崎祐の本棚

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一歩 4号 (2020/04) 岐阜

2020-04-06 15:41:10 | 「あ行」で始まる詩誌
 中神英子の手造りの個人誌である。A4用紙を二つ折りにして36頁。一面に桜花があしらわれた和風の用紙を表紙、裏表紙に使い、きれいな糸での和綴じ製本である。ご自分で撮った鳥や蝶の写真も4葉挟み込まれていた。

 詩は2編。その中の「雷鳴の轟きの中で」は90行余りの作品。
 まひるなのに話者は夜を感じている。そして「山の中のこのちっぽけな家に/大海原の見渡せる岬があると感じ」ている。話者はそこで初老の人と「いつか必ず会おうと約束した」のだ。何のために会わなければならないのか、そんなことは跳びこえたところに話者はいるようだ。そして話者のどこかにある「一艘のうち捨てられた舟」を見つけて船出しなければならないのだ。海は話者の中に在るのであり、一艘の舟を、

   思う度、痛みに似た悲しみが湧いて
   それは遥か彼方の
   乾ききったあるいは水浸しの曠野の業という気がする
   舟も誰かも
   うち捨てて行かねばならなかった
   私のどこかに、だ

 「私の宿命のようなあなた」に会うことを希求しながらも、それが会うことの出来ない存在の者であることも私は判っているのだろう。私の中に在るものには私は会うことはできないのだろう。それでも望み続けている話者がここにいる。

 11頁にわたる「あとがき」には、亡くなった中村哲医師への思いや、韓国映画「JSA」の感想が書かれていた。
 かなりの手間ひまをかけた(私も個人誌を手造りしているのでよくわかる)気持ちのこもった個人誌である。どれぐらいの部数を制作しているのだろうか。
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