瀬崎祐の本棚

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青い花 94号 (2020/05) 埼玉

2020-06-02 23:00:56 | 「あ行」で始まる詩誌
33人の同人は東北から九州までの全国にわたっている。112頁で、31編の詩のほかにエッセイ、書評を載せる。

「古本屋で」長谷川忍。
今は埋められてしまった川跡に残る橋の親柱ををめぐっている。地名からすると浅草とか隅田川とかの近くなのだろう。時代が移り、古本屋もなくなり、「人間がつまらなくなったのだよ」と嘆く人もいたのだ。

   スカイツリーは
   界隈のどこからでも見える
   もうすぐ立春だというのに
   寒風は時間軸を抉る
   闇の底で激しい渦を巻く。

気の向くままの散策はときに時の流れをまたいでいるようだ。作家とは誰のことだったのだろう。

「火の鳥島」古賀博文。
0~4の5章からなり10頁に及ぶ作品。夥しい数のペンギンに似た海鳥が火山島へ押し寄せる。そして多くの犠牲を払いながら火口で火炎龍の出現に立ち会う。

   火炎龍の羽化を見とどけた海鳥たちは
   きっと全身を焼け焦がしながら
   産婆かあるいは詩祭の役割を果たしたのだ
   その苦役の賜物として晴れて新たな住処を得たのだ

神話のような体裁の作品だが、この物語を、たとえば新しい詩作品が生みだされることになぞらえることもできるかもしれない。暑さに耐えて燃えるものを迎えいれなければならないのだ。

「貘」柏木勇一。
新しい年の初めに何ものかに立ち向かう決意があったのだろう。あるいは眠りの中では逡巡するなにかがあったのかもしれない。作品タイトルの貘といえば人の夢を食べて生きるとされる空想上の生きもの。貘に悪夢を食べてもらえば、二度とその悪夢は見ないとも言われる。しかし話者はそんな貘の存在を払いのけようとしているようだ。

   わたし自身を解体する刃
   それは言葉 言葉 言葉 言の葉 言の刃
   まだ詩を書ける

己を見つめ尽くすために、己を言葉で検証しているのだろう。最終連は、もう夢に脅かされることはなくなったということか。
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