瀬崎祐の本棚

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詩誌「雨傘」 9号 (2021/04)

2021-04-28 08:56:33 | 「あ行」で始まる詩誌
 杉中昌樹と坂多瑩子の二人誌。今号では3人のゲストがいる。

 吉田義昭「廃村の記憶」は4行6連からなる散文詩。抗うことのできない自然の摂理に翻弄された村を詩っている。村の拠り所は神社であり、祭が人々を結びつけていたのだろう。しかし、海が荒れ、山が崩れる。「土地が揺れることは村が冒涜されること」なのだが、人は災害から逃げることしかできない。

   地面が移動する度に、村も少しずつ海の方に移動した。海面も上昇し、確かに浜がなく
   なってきた。危険な海から離れろと言われても、神社が移る土地は半島には残されてい
   ない。

 そしていつしか「村は地図からも消え、私の祭の記憶も消えかけた」のだ。作者の故郷に対する強い思いがこの作品にはある。それと同時に、我が国のいたるところで同じ事が起こる可能性があり、作者のその思いは一個人のものから普遍的なものへと続いていくのだ。

 坂多瑩子「机のキズ」。中学生だった話者は自分の机にナイフでつけたキズを見つける。話者の中学には夜間部もあり、この机を使っている夜間部の生徒がつけたわけだ。私もキズを追加する。すると次の朝にはまた線が加わる。こうして会ったこともない相手との交流が始まったのだが、

   いつだって
   終わりはとつぜんやってきて
   なにがどうしたなんて
   からだいっぱい心配したことだって
   とっくに忘れて生きている

 私は机のキズを必死に消そうとする。最終連は、「いいわけしながら生きている/キズつけたことはなかったことにはならなかったけどね」でもそれは、会ったこともない友達との秘密の共有であり、机にキズをつけていた自分をおそらく後悔はしていないのだろう。むしろ、昂揚していたその時の自分を切なく思っているのではないだろうか。そうでなければ、この作品も生まれなかったことだろう。
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