瀬崎祐の本棚

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詩集「持ちもの」 草野信子 (2021/02) ジャンクション・ハーベスト

2021-04-08 15:49:48 | 詩集
 第8詩集。91頁に21編を収める。

 「どんぐり」。おとこの子の十年くらいまえの記録映像を観ている。その子は落ちているどんぐりをひろっているあいだに、おかあさんや妹とはぐれてしまったのだ。「かがんで うつむいた/たった それだけのあいだに」だ。おとこの子の手のなかにはいまもまだいくつかのどんぐりが見えるのだが、子細に映像を観ると、

   ほそい腿のうえ
   ひろげたり とじたりしている
   手のなかにあるのが 銃弾であることを知る

 この最終連ではっとさせられる。どんぐりだと思って幼かったおとこの子がひろったのは銃弾であり、そこから、おとこの子がかがんだその瞬間に母妹は銃弾に倒れたのではないかというイメージが重なってくる。映っている情景だけを静かに語っているのだが、この作品の底の部分に横たわっている重いものに気づかされる。

 このように、作者の作品は常に社会的な視線を軸にしている。山羊の声に混じって届くキャンプシュワブからの射撃訓練の音を聞き「めへぇ えっえっえっえっえっ と/わたしは鳴いてみ」たり(「山羊」)、嘉手納基地の見えるホテルのテラスでは戦闘機が頭上を飛んでいき「ひっそりとした基地の深夜に/あの轟音が 眠りを殴打しにくる」のだ(「ガイドブック」)。

 「風の吹く日々」。風にさくらのはなびらがはこばれてくる。風がベトナム料理の匂いをはこんでくる。大袈裟なものではなく、日常生活のなかを吹く風がある。

   見えるものも 見えないものも

   かくれているものと かくしているものと

   なにが はこばれているのか
   風も わからないもの と

 見えるものと見えないものの差は、あるいはほんの些細なものかもしれない。しかしその差を感じ取ることがきっと大事なことなのだろう。かくされているものとかくしているものは、よく似た顔つきをしているかもしれないのだし ・・・。
 「運河」については詩誌発表時に簡単な感想を書いている。
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