瀬崎祐の本棚

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詩誌「折々の」 60号  (2023/11)  広島

2023-10-10 16:50:25 | 「あ行」で始まる詩誌
「ジャコメッティの前に」八木真央。
その折れそうになるまで余分を削り取られた像の前で、話者もまた問われていることを感じているのだろう。本当に必要なものだけを残した線のような存在になれるか、と。その問いかけの厳しさに、話者は像の前で立ち尽くしているようだ。

   一本の歪な線として発信する激しさに滲む 孤独
   折れそうに直線的である事が内包するかなしみ
   それらが横倒れぬように支え受け止める 土台の
   重厚な佇まいとバランスに 何時しか 心跪く

「蓑虫」橘しのぶ。
わたしは蓑虫に「一緒に暮らさう」と誘われる。そして「短冊に文字を綴って/貼り合はせて作った蓑」の中で縄跳びをしたりひとつのベッドで眠った。やがて文字には翅が生えてくる。その翅を空っぽのドロップ缶に詰めてゆすると「花の散る音」がしたのだ。最終部分は、

   四角い窓から
   蛾が一頭、飛び立った
   とんでもない。
   飛ばない、わたしは、
   飛べない。

蓑虫の雄は飛ぶが、翅を持たない雌の生涯は蛹の殻の中だけにあり、やがては地上に落下して死んでいくとのこと。そんな雌雄が特異な生態をとる蓑虫を題材にして、幻想的な愛の物語を作り上げている。

「動力機」松尾静明。
それはエスカレーターを動かす度に「鳴くような泣くような ひとつの声を背負」うのだ。作品にはその”声”が擬音語としてくり返しあらわれて、大変に効果を上げている。作品に絡みついてくるようなその音の感じを損なうことを恐れて、ここではそれは引用しない。

   ここを選んだのでもないのに この世界のここへ置かれている
   どうしようもない約束のようなこの場所から
   昇っていくでもない降りていくでもない ひとつの声を背負っているもの

何か辛い宿命を負った存在のものが描かれているのだが、それは作品を書いた者、また読んだ者にのしかかってくるものでもあるようだ。
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