瀬崎祐の本棚

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詩誌「イリプスⅡnd」  37号  (2022/07)  大阪 

2022-09-09 22:30:27 | 「あ行」で始まる詩誌
「坊主めくり」中堂けいこ。
坊主めくりといえば百人一首の絵札を使った遊びであるが、ここに広がるのは、絡みついてくるような肉体的なものである。魅力的な隠微な猥褻感が漂っている。

   なだらかな臀部の丘陵では 桜が咲き乱れ そこいらで
   小人たちが るると踊る 豊かな親族である彼らは
   その来歴を口ぐちに述べる るる るる 縷縷
   すうっと視線がはずれ
   縮図とは視覚との闘いである とレヴィナスの言

捨て台詞のように「めくると見えるかもしれない 次の『美』」と言われると、この危うい遊びをいつまでも止められないではないか。

「被災地 --行き交っている風の声を聞きました」渡辺めぐみ。
辛いことに、今や“被災地”と言われる場所はいくつも存在するようになってしまった。この作品の被災地は、グランドゼロという語があらわれることからあのニューヨークの同時多発テロの現場のようだ。

   整備されることで失われたものと
    返ってくるものと
     その両方を動かして
      死者が立っている
       礫のようにその数を数える者がいる

それぞれの被災地は個々の歴史を担っていくわけだが、その底流には普遍的な深い悲しみと悔やみがある。鎮魂に終わりはないことをあらためて感じさせてくれる作品だった。

評論「日常の中の危機意識 --長谷川龍生の初期詩編から」神田さよ。
長谷川龍生は18歳の時に敗戦を迎えている。その頃に自覚的に詩を書き始めていた彼は、朝鮮戦争の勃発、警察予備隊から自衛隊への移行などの不安定な社会・政治情勢の中で詩を書き続けていく。彼の主張は、「日常のなかで、危機意識を持たない人間がどうして現代詩の考察ができるのか」という言葉に要約されているという。読み応えのある論考であった。

今号で第二次の「イリプス」は終刊とのこと。次号からは第三次へ移行し、季刊発行になるようだ。
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