瀬崎祐の本棚

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イリプスⅡnd  30号  (2020/03)  奈良

2020-05-03 17:13:30 | 「あ行」で始まる詩誌
 29人の詩作品、2編の論考、短歌、俳句、それに書評、エッセイ、小説と豊富な内容で191頁。

 「交差路」渡辺めぐみ。
 そこは生者と死者が交差する地点で、同時に、助けをさしのべる手と酷薄に無関心な視線が交差する地点でもあるようだ。そんなさまざまな人の気持ちが慌ただしく交差している。

   涙は深く
   シリウスの瞬きに預けられていた
   あの日の刻(とき)が
   杖となる
   人もわたしも
   見えないこの杖を穢すことはできない

 しかし、作品の終わりになって、作者は他者に対する感情をどこか遙か高みのようなところへと昇華させようとする。その意思によって、「彼らの魂を/宇宙(そら)の果てまで/運び出せ」と、作品が描かれ終わったときには、作者の中に何らかの形で残っていたわだかまりのようなものも昇華されている。書くことの意味はこうして成立する。

 「滑り台」紺野和代。
 夢物語のようだ。あらわれる光景や出来事の説明はなく、何のために書き留められたのかという意味も不明のままである。しかし、そういった事柄が生じてしまったのだからこそ書き留めたくもなるし、理屈を考えることなく提示された光景を楽しむ面白さもあるわけだ。話者は教師のようで、一生懸命授業をしようとするのだが、生徒たちは質問にことごとく鸚鵡返しで聞いてくる。まるですべてが自分の分身でもあるかのようだ。踊り場の壁に空いた穴から話者は滑り降りていくのだが、
 
   私だけがどんどん滑っている  足を踏ん張らせて止まろうとするけれど どんどん
   傾斜がきつくなって止まれない  底なしの滑り台

 装幀を担当している倉本修が、「装幀ノ夜」という連載エッセイを書いている。これまでに手がけた装幀にまつわるエピソードなのだが、知らない世界を垣間見るような驚きもある。佐々木幹郎と松本健一の囲碁を観戦した話も面白かった。
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