瀬崎祐の本棚

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詩誌「2CV」 6号 (2023/12) 富士見市

2023-12-05 17:13:31 | ローマ字で始まる詩誌
谷合と河口の二人誌で14頁。

「始まりの雨、終わりの雨」田尻英秋はゲスト作品。
孤立した沼の聖堂のような水面は陰鬱な抽象画のようで、世界に挑戦しようとした私は世界から逆襲される。

   取り残されてしまった うその世界から
   けれど取り残されていたのは自分の抽象だけだった
   私の肉体は私に先んじて進んでいった
   走っていった
   倒れていった
   それは私の甘い皮膜に侵入して
   私を内側からかみ砕いて行った

敗北感、無力感。その渦の中で私はあなたを追い、同時にあなたから逃げているようだ。

「シャトー」谷合吉重。
房総にある石造りのシャトーでの探検譚、あるいは夢想譚である。仮眠の傍らには見知らぬ女があらわれ、病院とも教会ともつかぬこの場所の院長には犯した罪を告白させられる。

   書かれないことを、やめないものへの郷愁
   お前の限界が、そこに横たわっているのだ
   だが未来が永遠にやってこないということは少なくとも
   永遠というものに近づくことはできるということだ
   礼拝堂の窓から、射しこむ西日が院長の顔に翳を作り
   わたしの頬が、にわかに温まって来るのが感じられた

まるでゴシック小説のような神秘的なものも漂わせて、いったい、話者はこれから贖罪に向かうのだろうか。

「時計の中」河口夏実。
タイトルからすれば、線香花火に照らされた「ちいさな人びと」というのは2本ないしは3本の針のことなのだろう。彼らが森の妖精たちのように跳びはね、闇と光が交差しているこの時計のなかの世界は、見事に外のこちら側の世界と完全に拮抗した存在のものとなっている。その提示も美しい。最終連は、

   にぎやかな
   庭から
   しずかな道に
   笹で編まれた
   舟が出てゆく
   月の明かりがさっぱりとして
   花に絡まる
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