瀬崎祐の本棚

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「地上十センチ」34号(2024/06)/「CROSS ROAD」23号(2024/05)/「空離須」4号(2024/06)

2024-06-28 17:51:17 | 「た行」で始まる詩誌
個人詩誌3冊を紹介する。

「地上十センチ」は和田まさ子発行。18頁で表紙絵は毎号カラフルで楽しいフィリップ・ジョルダーノのもの。今号のゲストは尾久守侑だった。
「新宿」和田まさ子。マッサージをしてもらうと皮膚がやわらかくなり苔が発育してきた。世間と接触するには、皮膚よりも苔の方が快感なのでおとこに水を掛けてもらう。そして胞子を飛ばして女子学生たちも苔玉にしてやる。東京の中でも猥雑な街である新宿に出現した苔が楽しい。

   新宿
   ゴッホの自画像は苔むしている
   ざらりとした世界の果てに生きながらえて
   ニンゲンたちを
   呼び止めては立たせ
   冷え冷えと見ている

「CROSS ROAD」は北川朱実発行。16頁で表紙写真は今はなくなったというジャズ・カフェの夜景である。毎号、ジャズプレイヤーと作家についてのエッセイが載る。今号はディジー・ガレスピーと高井有一だった。
「三月の砂」北川朱実。公園の砂場では男児が丸い玉を作っては「バクダン!」と叫んで崩していた。人は、どうしようもなく何かを壊す生きものなのだろうか、と思えてくる。夕暮れになり私も帰る。

   男児はあれからどうしたのだろう

   小さな泣き声が
   ゴッホの黄色のような
   ことばにできなかったものを連れて

   淡い光の中を歩いていく

話者のなかにもある破壊衝動が見つめられている。

「空離須」は吉田広行発行。A4用紙を三つ折りにした体裁。
「EIGA・栄華の日々」と題したエッセイでは、ビクトル・エリセ監督の新作「瞳を閉じて」を紹介していた。あのアナ・トレントも55歳になったとのこと。観なくては。
「春のらせん」吉田広行。春には何人もの人が発っていく。らせんのような激しい風も吹くのだ。

   だが わたしたちはどこへも
   たち去らない
   この光の
   澱のなか
   別れるべき息を送りだし
   なにかあたらしい
   空間へ
   切り開かれてゆくことを希望いながら

春という季節のなかでどこか途惑っている話者がいる。明るく軽やかな季節の中に潜んでいる死のイメージが切ないものを連れてくる。

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