瀬崎祐の本棚

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詩集「北浦街道」 魚本藤子 (2023/10) 土曜美術社出版販売

2023-12-08 18:32:11 | 詩集
第6詩集。93頁に22編を収める。
詩集タイトルの北浦街道は国道191号線の区間愛称のようだ。高島鯉水子による表紙カバーにもそのルートの一部が組み込まれている。

向きあったものたちへ向ける眼差しが静かでやさしい。相手を大切に思い、触れることも我慢しているような繊細な感情が美しいのだ。
「手紙」では、郵便受けに届く手紙がたてる音から「言葉には重さがあるらしい」と思い、そして「押し花」では辞書に挟まれた葉書に書かれた文字が時の流れの中で生きていると思っている。、

「エレベーター」。エレンベーターで五階まで上がるときにガラス張りの窓から見える欅の大樹がある。登るにつれて見えるものは変わっていき、太くて温かい幹があり、濃い葉の茂みがある。そしてついには枝が先細り、未知の空が大きくなってくる。

   こんなふうにさびさびと立っていたのか
   木は人の手の届かないこんな高さで
   寂しさに耐えていたのだ

「菜の花」は「もう少ししたら/花になるものを食べる」とはじまる。蕾の中には「これから花を開かせようとする」勇気がみちており、それを食べるのだ。なるほど、動物、植物の違いを問わず、命をいただくというのはすべからくそういうことなのだと思わされるフレーズである。話者は風に揺れる菜の花畑の光景も目にして、

   これから花になろうとするものを食べる
   瞬時に
   頭から足先まで
   アブラナ科アブラナ属の
   しんとした強さとかなしみが駆け巡る

命の連鎖は、その種族にとっては個体の断絶という側面を持つが、大きな世界にとってはどこかへ繋がっていくことになるわけだ。

詩集の最後に置かれた「返信」では、封筒に入ったままの小さな種を詩っている。いつかその種を蒔き芽がでたら、そのことを手紙に書くのだ。「きっと文字は少し弾んで木の香りがするはずだ。」

詩集全体に言葉を大切にする気持ちが漂っており、その根底には命への慈しみがあった。
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