みちのくの山野草

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たしかに「一日に玄米三合」と改竄されていた

2023-02-07 12:00:00 | 賢治渉猟
《コマクサ》(2021年6月25日撮影、岩手)
 
 以前から、終戦直後の国定教科書に採用された賢治の詩「雨ニモマケズ」が「一日に玄米三合」と変更されていたということを聞いて気になっていた。そこで、当該の教科書を探してみたならばそれはこのような教科書だった。
【1 国定教科書「中等国語一」(昭和23年2月7日修正発行)】

     〈 国定教科書『中等国語一 ⑴』(吉田矩彦氏所蔵)〉
 ちなみに、その
【2 国定教科書「中等国語一」の目次】

には、タイトルはひらがな表記になっており、
【3 「三  雨にもまけず」】の中身

もひらがな書きに変えられていた。しかも、たしかに、「一日に玄米三合」と改竄されていた
【4 〃の続き】

【5 同教科書の奥付】


 このあたりの経緯については『修羅はよみがえった』によれば、中地 文氏は『教育面における「賢治像」の形成』の中の(二)「文部省著作教科書登載」に、石森延男の言として次のようなことを載せている。
 戦後、わたしは、国定の国語教科書としては、最後のものを編集した。終戦前に使用していた国語教材とは、全く違った基準によってその資料を選ばなければならなかった。日本の少年少女たちの心に光りを与え、慰め、励まし、生活を見直すような教材を精選しなければならなかった。そこでわたしは、まずアンデルセンの作品を考えた。(中略)日本のものでは、賢治の作「どんぐりと山猫」を小学生に「雨にもまけず」を中学生のために、「農民芸術論」を高校生のために、それぞれかかげることにした。この三篇は、新しく国語を学ぶ子どもたちの伴侶にどうしても、したかったからである。
             〈『修羅はよみがえった』(宮澤賢治記念会、ブッキング) 92p~〉
 さらに、中地氏は同書で、
 とはいえ、教科書編纂の過程で、連合国軍総司令部民間情報教育局の係官から「雨にもまけず」の「玄米四合」を三合にするようにと言われ、宮沢家に了解を取りに行ったのは石森延男であった。そのときの状況を回想した「「麦三合」の思い出」に、石森は「一字のために全文を削除されるより、少しの改めをしても、その精神を、子どもたちに味ってほし」かったと記している。
             〈94p〉
と紹介している。
 さりながら、他人の作品を書き変えるということははたして如何なものだろか?と私は眉をひそめてしまう。もちろんそれは私のみならず、たとえば小倉豊文もそうだ。ちなみに、彼は、
 この詩に対する敗戦後の今一つの問題は、戦時中に国民の「国策」協力に利用されたのと同様、占領下の義務教育改革による新学制の文部省編纂中学校用国語教科書に採用されたことであろう。内容が変わっても権力体制に奉仕するのが官僚の常であるとはいえ、この採用に当たって原文に「一日ニ玄米四合ト……」とある所の「四」を「三」と変改したのは失笑以上の何物でもなかった。主食配給一人一日二合五勺であったことを、既に当時を知らぬ人の多くなっている現在の為に書き添えておこう。
             〈『「雨ニモマケズ手帳」新考』(小倉豊文著、東京創元社)149p〉
と論じていて、その批判は辛辣だが、小倉は歴史学者だからなおのこと、
    原文に「一日ニ玄米四合ト……」とある所の「四」を「三」と変改したのは失笑以上の何物でもなかった。
という批判に私たちは謙虚にならねばならないだろう。
 石森の気持ちも多少分からぬわけでもないが、「一字のために全文を削除されるより、少しの改めをしても、その精神を、子どもたちに味ってほしかった」からといって、時の権力体制に奉仕するかのように受け止められてしまう恐れもあるこのような行為をするということは如何なものであろうか。それも、あろうことか文部省の役人が為したのだから、そんなことをしたら子ども達に申し開きができないのではなかろうか。それゆえ、小倉が嗤っているのは尤もなことだと私には思えてしまう。

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