みちのくの山野草

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「賢治を憶う㈠」 堀籠文之進

2022-04-18 12:00:00 | 賢治渉猟
《ヤマルリトラノオ》(真昼岳、平成30年7月19日撮影)
もう止めませんか、嘘かもしれない賢治を子どもたちに教えることは。

 先に私は、〝村人〟において、
   (賢治に対して)「不作の損害賠償を貰ひ度いと言つた人」がいたことは間違いなかろう。
と述べたが、このことを裏付ける証言がその後見つかったので、今回はそのことを投稿する。

 その証言とは、堀籠文之進の追想「賢治を憶う㈠」 の中にある、次のような証言である。
 当時は封建制が強くまた貧富の差が多きかつたので、彼は貧しい農民の生活向上の為に頼まれゝば農村を廻り農事講演や農事相談会に出かけた。私も一緒することがあつたが、賢治の出席する会場は何時も満員だつた。彼は何処に出かけるにも弁当持参で絶対に謝礼や特別接待をうけなかつた。彼が学校を退いてから花巻市郊外にあつた生家の別宅に羅須地人協会を設けて農民指導に当たつたことは彼の全集で広く知られているが、昭和の初め天候不順で彼の指導した多くの農家も凶作であつた。彼はこのことを非常に苦慮し、他人から借金をしてお詫びに包金を差出して廻つた。彼の農事指導は失敗だつたと評する人もあるが、あの頃の科学力では如何に賢治が心魂を傾けても避け難い時代であることを理解すべきではなかろうか。
             〈『宮沢賢治とその周辺』(川原仁左ェ衛門編著)171p~〉
 もちろん、「」とは賢治のことである。実は、堀籠と懇意だった人から、堀籠は控えめで誠実な人だったと私は教わっていたのだが、この「賢治渉猟」シリーズを続けてきたせいだろうか、堀籠もなかなか言うべき事はちゃんと言っていたのだと認識を改めた。それはもちろん、この証言からは、
   (天候のせいだったかもしれないが)羅須地人協会時代に賢治が農事指導した多くの農家が凶作であったこと。
および、
   そのことに責任を痛感した賢治はそれを詫びてお金を渡した。
ということが導かれるからだ。そして、
   あの頃の科学力では如何に賢治が心魂を傾けても避け難い時代であることを理解すべきではなかろうか。
という堀籠のこの付言は、ある座談会での阿部繁の発言、
 科学とか技術とかいうものは、日進月歩で変わってきますし、宮沢さんも神様でもなし人間ですから、時代と技術を越えることはできません。宮沢賢治の農業というのは、その肥料の設計でも、まちがいもあったし失敗もありました。人間のやることですから、完全でないのがほんとうなのです。
             〈『宮沢賢治の肖像』(森荘已池著、津軽書房)82p~〉
と符合している。とかく賢治のやったことに対してはバイアスが掛かりすぎて良心的に解釈されて、事実が歪められがちだが、冷静に考えればこの二人の言は当然のことである。それは、いかな賢治といえども時代を超えられないのだから。まして、堀籠も阿部繁も共に賢治と花巻農学校で一緒に過ごした同僚であり、『新校本宮澤賢治全集第十六巻(下)補遺・伝記資料篇』の141pによれば、それぞれの担当教科の中に、
  堀籠文之進:作物、肥料、土壌、作病、虫害、園芸、林学、畜産、病虫害等
  阿部繁:養蚕、農製、博物、気象
とあり、この二人は賢治のことをよく知っている農業の専門家の証言だからなおさらにである。

 どうやら、賢治の稲作指導や農事指導は、それほど完璧だったわけではなく、上手くいかなかったことも少なからずあった、ということを受け容れるしかなさそうだ。併せて、先に〝賢治の農業実態はどうやらこうだった〟で述べた、

 佐々木多喜雄氏のこれらの論考、「文学関係者がみた賢治の農業」と「農業関係者が見た賢治の農業」とによって「賢治の農業実態」をほぼ知ることができた。つまり、
 中央文壇関係者の見た賢治の農業実態は、伝聞や賢治作品等をそのまま事実としたが故に生じた、本当の姿からは遠くかけ離れたものであり、しかも、そもそも農業関係者が賢治の農業実態に触れたものが殆どないということから、それは自ずから賢治の農業実態はそれ程のものはなかったということを意味するので、
   賢治の農業実態はそれ程のものではなかった。
と結論せざるを得ない
ということを知った。ひいては、
   賢治が羅須地人協会でやったことはそれ程のものでもなかった。

という結論を、やはり私は受け容れねばならぬのだと、改めて覚悟した。そしてまた、〝羅須地人協会時代の賢治の稲作指導等のまとめ〟において述べた、

 賢治が羅須地人協会時代に近隣の農民たちのために、まして貧しい農民たちのために為した稲作指導の実践はそれ程のものでもなかった。

という評価もまた、である。

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