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神はおれのことなどなんとも思っちゃいまい。

2013年11月10日 | パルプ小説を愉しむ
『ロンドン・ブールヴァード』が気に入ったので、ケン・ブルーエン(ブルーウンとも書くらしい)の作品、『酔いどれに悪人なし』を続けて読んでみた。前作に引き続き、いや前作以上に主人公のジャックはアル中でヤク中でしかもろくでなしだ。交通違反をしたアイルランド下院議員を殴ったために警官をくびになり、私立探偵もどきの仕事を始める。アイルランドで私立探偵という職業が成り立つかどうか自体、主人公自身が懐疑的に思っている。物語が始まって間もない頃ジャックはこう言う。

アイルランドに私立探偵はいない。アイルランド人はそんなものになろうとは思わない。
 -こんな書き出しでは、まっとうな探偵小説やミステリーになるであろうことは200%ありえない。物語の性格をあからさまにして読み手に小説のイメージを早々と持ってもらうにはいい手だ。そして続けてこう言う。

ある朝目を覚まし「神はわたしに発見者となれと仰せになった!」と叫んだわけじゃない。神はおれのことなどなんとも思っちゃいまい。
神には本物の神とアイルランド版の神がいる。だから神は無責任でも許される。興味がないんじゃなく、わずらわされたくないだけだ。


神をも恐れぬ所業とはこのこと。モラルもへったくれもないろくでなし野郎だが、どこかに可愛らしさがある男だ。行き着くところまで行っても、それなりの価値観を堂々と表明している男は、何らかの共感を得られる点が見つけられるのが小説だ。だからピカレスク小説というのが存在するのだろう。現実世界ではこうは行かない。

主人公のジャックはとんでもない呑み助で始終酔っている。酔っ払う程度も酩酊などという可愛いものではなく泥酔だ。記憶が飛んだ上ゲロを吐く。何度も吐く。ベッドのシーツの上に、寝転がったまま服の上に。しかもヤクもやる。ヤクをやった時の効果も見事に伝えてくれるが、醒めた時の感覚も強烈に伝えてくれる。

友人、知人にはいい人間もいるが、類は友を呼ぶでとんでもない奴も多い。

世の中には映画の登場人物みたいな人生を送っている連中がいる。サットン(ジャックの友人)の場合はさしずめ、出来の悪い映画みないな人生を送っているといったところだ。

依頼された事件を見事に解決する手並み拝見という物語ではない。なにせ解決しようという意志はあるが、酒を前にするとそんな意志など何処かに吹っ飛んでしまう奴だから。だから正統派ミステリーであるはずもない。ロクデナシが酒とヤクでヘロヘロになる中、あちこちで拘わりあう人物や出来ことを愉しむ小説だ。

アル中でヤク中ではあるが、主人公はなかなかの読書家だ。この作家が作る物語の主人公はやたらに本を読む。友人(これまたロクデナシの一人)は、小説ならエド・マクベインにかぎる、などとほざく。エド・マクベインが悪いんじゃなくて、こんな小説まで登場させる作者の選択の広さに驚く。

小説ほどではないが音楽も語る。エルビス、イーグルス、ジェイムス・ラスト、ザ・ロイヤルズ、ディクシーズ、アリソン・モイエなんて名前が挙がる。大半は知らない名前だ。アイルランドで流行ったのだろうか。U2についても薀蓄が語られる。小説、音楽、映画などをちりばめることで、主人公のキャラクターに共感できるものが生まれるとともに、「何だ、この男、ちょっとは奥深いところがあるんじゃないか?!」と思わせてくれるのだろう。いい手だ、覚えておこう。






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