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好きなことを好きなだけ楽しみたい欲張り人間の雑記帖

ヴォーグで見たヴォーグ グレース・ミラベル著

2017年12月29日 | 人生の知恵
「ヴォーグ」と言えば、男であっても知っている著名なファッション雑誌。映画『プラダを着た悪魔』のモデルとなった編集長のアナ・ウィンターが有名だが、この『ヴォーグで見たヴォーグ』の著者であるグレース・ミラベルは、アナ・ウィンターの前の編集長だった人。ファッション・ジャーナリストがどんなことをするお仕事なのか、そしてどんな素質が必要なのかを上手く表現してくれている。

生地の「触感」を、ストッキングの「色調」を、ドレスの「輝き」を、また外観の「質感」を語ることができるジャーナリストは、ファッションジャーナリスト以外いない。素材が「つや消し」かどうかに多大な関心をよせ、「ナチュラルな鈍い光沢」のジュエリーとはどんなものか、それを写真に撮るにはどうすれば良いかについて長々と話し合うのもファッションジャーナリストだけだ。ファッションジャーナリストは、ゴールドの縁取りがついたスエードをねじって造ったベルトを、ツイードのジャケットウェストで結ぶと、ツイード地に高級感が出て、「質感を作る」ことを知っている。脚の色とコートの裾との色調をどう融けこませるか、また透けないストッキングが靴の光沢をどれだけ引き立てるかも知っている。(中略)ファッションジャーナリストはファッションに論理を見出し、ファッションに歴史を見つけることができる。

それだけではなく、この人の仕事に対する意識や、女性の社会進出についてもしっかりとした意見を持っているのが分かる。

どんな仕事をするにせよ、何かを売ることには変わりはない。そして究極ではあなた自身を売っているのである。

自分の名前以外何の影響力も持たない、陳列台に並べられたような女性にわたしは興味は無かった。そんなのは一昔前の上流社会の感覚だ。現代アメリカで上流社会に入るには才能がものをいう。

私は現実を生きる生身の女性の感覚を「ヴォーグ」に取り戻そうとした。(中略)女性たちは働き、遊び、行動し、踊るー世界の中で重要な何かを成し遂げ、楽しんで着ることができる服を着る。読んで楽しく、何かしら啓発されるところのある雑誌にしたかった。ああ、そうだったのかとぱっと目を見開からされるような思いで「ヴォーグ」のページをめくってもらいたい。


そんな意識の高い人であっても、ヴォーグ誌の編集長を解任された人事には納得がいかないらしく、後半部分では、その時代からのファッションの流れやファッション・ジャーナリストの仕事の仕方、そして何よりもアナ・ウィンターに対する皮肉と批判が、軽い調子ではあるがしっかりと書かれている。

そのころからファッションがしだいに服の本当の良し悪しではなく、デザイナーの個性を反映したイメージで売れるようになってきた。有名デザイナーをめぐる夢のような逸話を作り出せれば、それがライセンス。ビジネスの直結してくる。デザイナーの名前で服が売れることが重要だった。(中略)ファッションは大声でわめき立てなくては、ファッションにならなかった。ファッションは富!ファッションは力!

アナ・ウィンターが編集長の椅子を得るために、オーナーに「枕営業したという噂」があるとも書いている。これは上手い書き方だね。単なる「噂」でしかないから、本人が名誉毀損として訴えられる可能性をなくしつつ、「何かあったのかもね!」という裏事情をしっかりと読者に印象付けている。それでも、アナ・ウィンターはしっかりと地位を固めて、映画のモデルにもなることで、著者のグレース・ミラベルよりも有名になってしまったのは事実だけどね。

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慶州鍋が美味い

2017年12月28日 | 美味しいを愉しむ
仕事仲間との年末打ち上げで来たのがここ、『いずみ田』 

〆めの慶州鍋が美味いのはもちろんだが、前菜もお洒落で目も舌も愉しめる。


いわしの磯辺巻き、ゴマサバと美味い魚が続いた後に出されたのが美桜鶏の西京味噌焼き。

ホンワカとした西京味噌の味がして酒が進む、進む。

この店の素晴らしいのは料理に加えて、酒揃えが良いこと。飲み放題(2200円追加)で各種の日本酒と焼酎が飲み放題。ビールもあって、なんと琥珀エビスまで飲み放題なのだ。

私のお奨めは、東洋美人尾瀬の雪どけ。東洋美人は山口のお酒で、2016年にロシアのプーチン大統領が来日した際に、安倍首相が夕食会を兼ねた会談で振舞った由緒正しいお酒だそうです。そんな能書きは別にしても、とっても美味しいお酒が飲み放題メニューに入っていることに感激!!

帰るときに店主自らお塩を手渡ししてくれるのも嬉しい。我が家の手料理に欠かせない塩になっています。
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『つるかめ助産院』 小川糸著

2017年12月24日 | 読書雑感
先週に引き続き、小川糸の小説を読みました。読書中に感じるホンワカとした幸福感をもっと味わいたくなって。小川糸の小説には中毒性があるのかも...

設定は前作同様に、これと言って特技があるわけではない、どちらかというと不器用な女性主人公が男に捨てられる。今回は、結婚していた相手が突然蒸発してしまうというピンチだ。蒸発した理由は全く分からず、途方にくれるままに、結婚前に二人で訪れた離島に旅立つ。ひょっとしたら、相手がいるかもしれないなどと、根拠のない勝手な一縷の望みを抱きながら。もちろん蒸発した夫がいる訳もなく、彷徨ううちに島で唯一の助産院を営む助産婦から声を掛けられ、島で過ごすようになる。ここから島での生活をおくるうちに、マッサージが得意なことを発見し、人に役立つ自分を見つけることで、世の中での自分の居場所が確立される。この知らず知らずの自分探しが、小川糸の小説の第二の特徴だね。『食堂かたつむり』では料理で人を癒す能力に開花してたし。

回りの人たちとの暖かな交流が進も、自分が至らなかったことや足りなかったことに気付く。そして、月が進み、出産となった時(そうなのだ、主人公は妊娠していた)、蒸発していた夫が帰ってくるというハッピーエンド。自分が失っていたものを取り返すというのが第三の特徴。『食堂かたつむり』では、うしなった声が戻ってきたし。

人間の優しさや思いやりが満ち溢れているがために、読んでいて幸せな気持ちになれるのだが、それにしても文章がすばらしい。ものの例えが普通ではない。たとえば、

海は、何か青くなる薬を人工的に加えて混ぜたような、不自然なまでの青さだ。

バラの花びらが舞い降りてきそうな夕暮れの空だ。夕日に照らされ、海が一面ピンク色に染まって見える。遠くから眺めるだけの海は、本当に美しかった。

もう何十年もあけたことのないお蔵の戸を、無理やりこじ開けた瞬間みたいに、私という暗闇へ強引に光が差し込んでくる。

心拍は、真夜中に光る灯台のようだ。赤ちゃんが、ここにいるよ!と大声で知らせてくれているようで心強い。

なんて気持ちのいいお天気だろう体中の細胞が、両手を伸ばして万歳をする。すべての景色が光っている。島中の緑という緑が、歓声を上げているようだ。


ちょっと間違えると大袈裟でワザとらしい表現に堕ちてしまうところだが、寸前で止めることがコツなのだろう。そして前回も書いたが、主人公の感情をストレートに言葉にして書き出していることで、こころの動きが直に伝わってきて、読んでいるこちらの心が鷲掴みされる。

さて、次は何にしようか...
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食堂かたつむり 小川糸著

2017年12月13日 | 読書雑感
読んでいるうちに、なぜか幸せな気分になる。周りの空気がなんだか微かにピンクがかって、ほんわかした幸福感が自分を包んでいるような、一種の高揚感と言ってもよい不思議な心地よさに満たされるという不思議な感覚を味わせてくれる上質な物語だった。

小川糸著の『食堂カタツムリ』

恋人に捨てられ全財産持ち逃げされた主人公が、不仲の母親が住む生まれ故郷に出戻り、そこで自分に残された唯一の特技である料理をなりわいにしながら、自分を取り戻すとともに、回りの人々を幸せにしていくという、これだけ語ると何の変哲もないストーリーなのだが、これが見事な自己再生(こんな言葉では陳腐すぎて適さないが)の一大絵巻となっている。一人称で語られる物語は、フィクションでありながらも、主人公(倫子)の人間としての活力と自信、他人に対する愛情を取り戻す一大ドキュメンタリーであるかのような素晴らしい出来栄えとなっている。

何よりも文章がキラキラ煌き、上質の酒を飲んだ後の余韻のような心地よさが押し寄せてくる。その心地よさに浸っていたいがために、物語の先が気になりつつも先に進みたくないという矛盾した感情の中で、読書したのは初めての経験だった。

著者の小川糸の文章には、スケールの大きな比喩と色彩感覚あふれる言葉遣いがあふれている。


暗闇の中にうっすらと映る自分の『目を見つめたまま、思いっきり大きく口を開けてみる。まるで、一口で大量の魚を呑むザトウクジラみたいに、モノクロームの景色を続々と飲み込んでいく。

その時、虹色の色彩をまとった若かりし日のお妾さんの残像に、ほんの一瞬だけれど、触れたような気がした。

私はまだ前日の闇の匂いが色濃く残る時間に起き出して、準備を進めた。



そして、主人公の感情を衒いも無くストレートに書き出すことで、小説ではない別物であるかのような印象が強くなっていく。

幸せだった。
幸せすぎて胸がつまり、呼吸困難になって死んでしまいそうなほど、幸せだった。

私にとって、料理とは祈りそのものだ。(中略)私はこの時ほど、無上の喜びを感じたことはない。



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