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コージーミステリを読み耽る愉しみ その21 リリー・ウーとジャニス・キャメロン(ジャニータ・シェリダン著)

2022年05月13日 | パルプ小説を愉しむ
”リリー・ウーとジャニス・キャメロン”というシリーズ名は私が勝手につけた名前。なぜなら、このコージーミステリーにはシリーズ名がなかったから。著者のジャニータ・シェリダンは1974年に68歳で死亡している。著作も少なく、本作『翡翠の家』を含めて4作。あとはドロシーダドリーとの共著がある他、TVや映画の脚本書きを生業としていたとのこと。

リリー・ウーという名前から分かるように中国女性が主要な登場人物の一人。ハワイから移ってきたキャメロンとルームシェアをするのがリリーで、ルームシェアする建物を調べるためにキャメロンが選ばれたらしいことが読んでいて分かる。とは言え、ハワイ時代にキャメロンが働いていた大学学生寮にリリーがいたという偶然もあったが。ルームシェアする相手としてキャメロンが相応しいかを判断される面談がリリーの叔父の家でなされるのだが、その際の部屋の記述が気に入っている。

黒い羽目板の壁には刺繍をした絹の布がかけらていて、桃色の絨毯が部屋の奥まで敷き詰められている。彫刻を施したチーク材の家具の上には、紅石英や翡翠のランプがあった。部屋の中がかなり暖かいせいか、白檀の香りがそこかしこに漂っている。立派な蒔絵の衝立の向こうに、窓があるのかもしれない。

部屋のイメージを目に浮かぶように書いてくれること、しかもその部屋はゴージャスであること。これが私の欲しいもの。先日の『ブラッドオレンジティーと秘密の小部屋』にはこの手の記述が不足していたのだと分かった。

リリーの両親は裕福な漢方薬店を営んでいたが、知人に財産を騙し取られて落ちぶれた。騙した本人が刑務所から出所したので、娘のリリーが当人が住んでいた建物に間借りするための必要なルームシェア相手を探していて、キャメロンに白羽の矢が立ったのだった。関係者の一人にされてしまったキャメロンも何かあると気付きはしたが、リリーの言うがままに振る舞う。信頼が半分、好奇心が半分といったところか。本音をうまく隠して調査を進めるリリーも賢そうだが、それを見通したキャメロンの頭脳もなかなかのもの。

建物の管理人として入り込んでいたチャールズ・チャドウィック(リリーの親を騙した当人)は建物の地下で殺されて事件が起きる。間借り人の7人の中に犯人がいる。リリーが冷静沈着に調べ進む様子にキャメロンは気付いているが、深く問い詰めるような真似はしない。不思議な同居人程度として心配していると同時に何か裏があることに気付いている。そして二人目の殺人が起き、2つの事件が関連している連鎖が判明すると犯人が分かる。そして、リリーの両親に財産が戻り、リリーが幸せな暮らしに戻るとともに、キャメロンも家族の一員として迎え入れられる。

読んでいる中、リリーは探偵業を営んでいる女性なのかと思ったのだが、そうではない。両親のメンツを立て直すために叔父たちの助けを借りて動いているだけの勇敢で賢い素人なのだと分かる。時代は戦争が終わってから左程年月が経っていないころ。NYの騒然とした街並みの描写はないものの、静かに物語が進んでいくタッチは読んでいて快かった。

ほんの表紙に、深紅のチャイナドレスの裾を翻した女性のシルエットが描かれている。セクシーでありながらエレガントなデザインであったことに目を奪われてこの本を図書館で借りることにした。この本に出会えたことはラッキーだった。

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「彼女はチャイナドレスを着ていた。金糸で模様をあしらった白いレースのドレスは、実にエキゾチックな感じがする。黒い髪は中国風にオイルで整えられ、小さな頭がいっそうつやつやして滑らかに見えた。きれいな三つ編みで束ねた髪は、うなじのあたりで翡翠や真珠をちりばめた金色のピンでとめられている。耳元でゆれている翡翠のイヤリングは、海のように深く透き通った緑色に輝いていた。」」
これです、この描写。この4つの文章がなくても物語の進行には何の差しさわりもないが、あることによって俄然と彩りが帯びてくる。しかもさりげない描写でありつつも、リリーの家族の裕福度のみならずその場の雰囲気が手に取るようにイメージできる描写。表紙の挿絵に加えて私がこの作家を気に入った理由です。

「愛のささやきと勘違いしたもの。経験という名の神のお告げだったのかもしれない」
若いころの失恋を吹っ切っている様が分かる。「経験という名の神のお告げ」という比喩が美しい。このような表現ができる著者がもっと多作であればよかったのにと思わずにいられない。

コメント
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