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コージーミステリを読み耽る愉しみ その17 ニューヨーク五番街の事件簿(マライア・フレデリクス著)

2021年02月19日 | パルプ小説を愉しむ
シリーズ第一作を読んでから半年も経過していないのに、細かい事柄は頭から抜け落ちている。年のせいもあろうが、このシリーズは他のコージーミステリーとは異なり、主人公のジェインは完璧すぎる。完璧なレディース・メイドのジェインにだけスポットライトが当たっているのがこのシリーズの特徴だ。一緒に事件を解決するパートナーとなる新聞記者はいる、一緒にお屋敷で働くメイド仲間もいる、理解深い雇用主のお金持ち上流階級家族も登場する。でも、すべての人が刺身のつまでしかない。ジェインが完璧すぎて、ジェインの周りをある建物や景色程度にしか回りの人々の重要性がないとしたら、半年も経っていなくても細かい事柄が頭から抜け落ちるのは仕方がないよね。

第二作『レディーズ・メイドと悩める花嫁』では、雇い主家の長女が結婚することとなったものの怖気づいている。元々自分に自信を持てないタイプの女性であったのだが。お付のメイドとして結婚式が執り行われる屋敷に同行するジェインだが、そこで殺人事件と遭遇する。その屋敷に住んでいるのは、花婿の叔父家族。生まれたばかりの子供のナニーがある夜に喉をかききられて殺されてしまう。外部からの侵入者か、屋敷内にいる人間の犯行か。冷静沈着、頭脳明晰、マナーの完璧、すべてにおいて申し分のないジェインが調べて回った結果、犯人が明かされる。

第二話の特徴として、何十年も経った後でジェインが1912年を振り返るところがプロローグ、そして同じく何十年後かにメトロポリタン美術館で使えていた屋敷に飾られていた絵を娘と一緒に見にやってくるジェインがエピローグとなっている。そう、昔を回想する体になっているのが、第二話のスタイル。1912年はタイタニック号が沈んだ年で、その事件もジェインが働いていた上流社会ではごくごく身近な事件として登場している。社会での出来事を上手く織り込みつつ、時代背景を設定している異質なコージーミステリといったところか。


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事情がとても込み入っていてここでは説明できないけれど...
これには驚いた。ある章の書き出しがこれだったのだが、まるで実際の立ち話であるかのような言い回しだ。ちっとも小説っぽくない。こんな手を使うなんて、作者は手馴れだ。

悪いやつらがいないと言い募ったところで、善良な人たちを助けることにはならないんだ。
確かに!見たくないものから目を背けたところで解決にはならない。平和がいいと願っていても、それをぶち壊す国や人間がいる以上、理想だけを口にするだけで理想が実現するわけでないことと同じだね。

この世界に生まれてくることが、最初の人生の現実なんじゃないかしら
男女同権が叫ばれ、女性も投票権を与えられるべきという動きに対して、ある男が「男は世界に立っている、男は人生の現実と向かい合っている、女と違って」と言ったことに対してのジェインの反論。自分に都合の良い身勝手な論理を思い知らせてくれる。こんな調子にジェインは完璧な存在なのだ。


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シリーズ第一作の『レディーズ・メイドは見逃さない』 レディーズ・メイドと言えば、『英国王妃の事件ファイル』シリーズ(リース・ボ-エン著)の主人公のレディ・ジョージアナがダメダメな自分のメイド、クイーニーに対して「レディーズ・メイドだったら...」とご指導している際によく出てくる台詞です。

ダメダメ・メイドのクイーニーとは違って、このシリーズの主人公、ジェイン・プレスコットは良くできる優秀なレディーズ・メイド。言われたことはもちろん、言われなくてもメイドのプライドに賭けて率先してお仕事をやり遂げる様は完璧なくらい。そのジェインが、新しく雇われた新興リッチ家族(要は、旧家からは成金と呼ばれている家族)のお世話とすることとなった。大人しくパッとしない長女と違って、次女は美人で快活。その次女が、地元一の名家であり金持ちである御曹司と婚約することとなったが、この御曹司の素行が宜しくない問題児。幼い頃からの家族同士で付き合っているお隣さん(ジェインはかつてこの家のメイドもしていた)の娘と婚約するであろうと世間様は見ていたのに、よりによって成金の娘と婚約することとなって一波乱。当人同士も色々とあるようだ。

肝心の婚約発表パーティの日に、婚約相手の男が自宅で殺された。自分が使えている婚約者が怪しいという噂も立ってしまい、たまたま第一発見者となったジェインの出番と相成る。素行の悪い名家の息子、捨てられた形となるお隣さんのお嬢さま、そして自分よりも年下の継母の存在、父親が経営する会社が昔起こした事故を糾弾する社会主義活動家たち、ジェインに協力するのか自分のためなのかが不明なゴシップ新聞記者、こういった人間たちが登場する中、ジェインは冷静にきっちりと事実を追って事件の真相に辿り着く。やはり、父親の会社が起こした昔の事件が大きな要因になっていた。

コージー・ミステリーの分野に入る物語ではあるものの、他のコージーとは大いに異なる。ジェインの立ち振る舞いが完璧だし、物語の進行もごく普通のミステリー小説っぽい真剣さで進んでいく。コージー・ミステリーの主人公の多くは欠点が魅力であり、また物語を面白く愉しませてくれる役を持っているのだが、このシリーズにはそれは期待できない。有能で優秀なメイドが自分の明晰な頭脳と使命感を持って事件を解決している筋立て。

超リッチな家族の別宅の描写の中にあった一文:
どこまでもつづくように見える緑の芝に立つ建物は、自然界を支配しているようだ。まるでいまにも、古代ローマの巨大な円柱のうしろから神が姿を現し、嵐雲を払いのけたり風邪を呼び込んだりしそうな趣がある

洒落てはいるが、ユーモアというよりも冷徹な目を通して得られた感想という趣を感じる。そう、ユーモアを愉しむのではなく、ジェインに求められている完璧な役割を果たす姿を期待するのがこのシリーズの愉しみのようだ。
コメント
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