塩野七生著の『ローマ人の物語 ⅩⅡ』に以下のような文章があった。
実力主義とは、昨日まで自分と同格であった者が、今日からは自分に命令する立場に立つ、ということでもある。この現実を直視し納得して受け入れるには相当な思慮が求められるが、そのような合理的精神を持ち合わせている人は常に少ない。いわゆる「貴種」、生まれや育ちが自分とは掛け離れている人に対して、下層の人々が説明しようのない敬意を感じるのは、それが非合理だからである。多くの人にとってより率直に胸に入ってくるのは、合理的な理性よりも非合理的な感性のほうなのだ。
富士通のように、元社員によって書かれた本も出ているし、新聞・雑誌を含めて日本企業における実力主義に解説がなされています。実力主義自体は組織に緊張感をもたらす効果があるものの、成果を測定する指標に恣意性が入る事が多いために不公平感が残る。総じて、実力主義にはメリットがあるものの、改善すべき点が多い制度である、というように扱われています。
しかし、塩野七生が喝破したような人間の本質から見据えた実力主義の問題点を指摘したものは今までになかったね。私のいる部署には、40代後半の上司に仕えていた50代後半のおじさんがいました。このおじさんも元は管理職だったのですが、役職定年という制度によりある日突然部下のいない担当に格下げされてしまった人でした。実力という面からすると、私が見ても40代後半の方ができる。でも、この50代後半のおじさんから見ると、40代後半とは言え年下の上司に仕えることが面白いはずが無い。何かと文句をつけ、反対し、仕事も自分の好きなようにしていましたね。塩野七生が言うところの合理的精神を持ち合わせることは難しいことを地でいったような光景でした。
結局このおじさんは出向で外に出る事になった。行った先は官庁の外郭団体で、上司は更に若いはず。ですが、キャリア組の官僚という肩書きがあれば、塩野七生が言うところの「貴種」とも言えるはずで、割り切って従えるのかもしれない。
これからは若い上司が増えてくる時代になるのでしょうが、人間の本質を理解しない表面的な理屈だけでは、エンパワーメントは成功しないんだろうと思う。経験を積めばそれだけ才能があると思うのは人の常であり、机上のお勉強でのみ知識を積み増した人間には太刀打ちできない強さがある。また、大きな格差を受け入れる事が難しく、却って労働意欲を殺ぐ結果になりかねない実力主義よりも、年功序列という制度は人間性を考慮した結構良い制度だったのかもしれないとも思えてくるようになりました。優れた人間とそうでない人間とに大きな給料差はつけずに、責任の重い職務を与えることでやりがいや将来のポジションを約束していくということは、長い目で見ると組織全体のエンパワーメントという点で優れているのではないだろうか。悪の代名詞、日本を駄目にした欠点だらけの制度という扱いを受けている年功序列ですが、皆が悪く言えば言う程、へそ曲りな私は年功序列に良い点を見つけ出したくなっている今日この頃です。
実力主義とは、昨日まで自分と同格であった者が、今日からは自分に命令する立場に立つ、ということでもある。この現実を直視し納得して受け入れるには相当な思慮が求められるが、そのような合理的精神を持ち合わせている人は常に少ない。いわゆる「貴種」、生まれや育ちが自分とは掛け離れている人に対して、下層の人々が説明しようのない敬意を感じるのは、それが非合理だからである。多くの人にとってより率直に胸に入ってくるのは、合理的な理性よりも非合理的な感性のほうなのだ。
富士通のように、元社員によって書かれた本も出ているし、新聞・雑誌を含めて日本企業における実力主義に解説がなされています。実力主義自体は組織に緊張感をもたらす効果があるものの、成果を測定する指標に恣意性が入る事が多いために不公平感が残る。総じて、実力主義にはメリットがあるものの、改善すべき点が多い制度である、というように扱われています。
しかし、塩野七生が喝破したような人間の本質から見据えた実力主義の問題点を指摘したものは今までになかったね。私のいる部署には、40代後半の上司に仕えていた50代後半のおじさんがいました。このおじさんも元は管理職だったのですが、役職定年という制度によりある日突然部下のいない担当に格下げされてしまった人でした。実力という面からすると、私が見ても40代後半の方ができる。でも、この50代後半のおじさんから見ると、40代後半とは言え年下の上司に仕えることが面白いはずが無い。何かと文句をつけ、反対し、仕事も自分の好きなようにしていましたね。塩野七生が言うところの合理的精神を持ち合わせることは難しいことを地でいったような光景でした。
結局このおじさんは出向で外に出る事になった。行った先は官庁の外郭団体で、上司は更に若いはず。ですが、キャリア組の官僚という肩書きがあれば、塩野七生が言うところの「貴種」とも言えるはずで、割り切って従えるのかもしれない。
これからは若い上司が増えてくる時代になるのでしょうが、人間の本質を理解しない表面的な理屈だけでは、エンパワーメントは成功しないんだろうと思う。経験を積めばそれだけ才能があると思うのは人の常であり、机上のお勉強でのみ知識を積み増した人間には太刀打ちできない強さがある。また、大きな格差を受け入れる事が難しく、却って労働意欲を殺ぐ結果になりかねない実力主義よりも、年功序列という制度は人間性を考慮した結構良い制度だったのかもしれないとも思えてくるようになりました。優れた人間とそうでない人間とに大きな給料差はつけずに、責任の重い職務を与えることでやりがいや将来のポジションを約束していくということは、長い目で見ると組織全体のエンパワーメントという点で優れているのではないだろうか。悪の代名詞、日本を駄目にした欠点だらけの制度という扱いを受けている年功序列ですが、皆が悪く言えば言う程、へそ曲りな私は年功序列に良い点を見つけ出したくなっている今日この頃です。