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コージーミステリを読み耽る愉しみ その7 荒野のホームズシリーズ(スティーブ・ホッケンスミス著)

2023年07月03日 | パルプ小説を愉しむ
シリーズ2作目の『荒野のホームズ、西へ行く』では、どうしても探偵になりたいオールド・レッドにつきあってビッグ・レッドともども大嫌いな鉄道会社に雇われる。西部横断鉄道が度々ならず者に襲われるのは、社内にスパイがいるに違いないと考えた保安主任が採用したのだった。探偵の端くれになれて列車に乗り込んだものの、鉄道嫌いのオールド・レッドは乗り物酔いで苦しむ一方。最終車両の展望デッキで吐いているオールド・レッドと介抱しているビッグ・レッドは列車から転がり落ちた人の首と首なし死体を見つける。急ブレーキをかけて列車を混乱に陥れたために車掌から大いに怒られつつも、殺されたのが手荷物係であったころから殺人事件として独自捜査を始めるものの周りからは白い眼と軽蔑の眼差ししか得られない。社内販売員の少年の手を借りつつ捜査していると、又もや列車は急停車する。今度は列車強盗の登場。鉄道捜査員としての務めを果たそうとした2人は強盗団からぶちのめされるが殺されはしない。強盗団の頭2人は、鉄道会社を糾弾する声明を列車内で発表するや、何も奪わずに立ち去っていく。これもシャーロックを尊敬するオールド・レッドにとっては謎解きのためのデータの一つ。字は読めず、人とのコミュニケーション(特に女性とのコミュニケーションが苦手な田舎者のカウボーイだが、推理する能力は一級品。物語は弟のビッグ・レッドの語りで進んでいく。強盗団の頭2人は、先に盗んだ100本の金塊を手荷物車両に隠してサンフランシスコへトンズラしようと画策して、その手引きをしていたのが車内販売員の少年だった。美貌にして勇敢な女性乗客、ダイアナ・キャヴェオを人質とした3人は、客車を切り離して出発するところを、ビッグ・レッドと伝説の探偵で今はただの酔っ払い、バール・ロックハートが追う。運よく強盗団の2人を倒したビッグはダイアナと一緒に列車から飛び降りる。スピードが最大限に上がった列車は難所で脱線して大爆発。金塊は溶けて峡谷の隙間の下へ入っていく。次の駅で出迎えた鉄道会社の保安主任は、金塊話と強盗団の頭2名が死んだことを隠そうとし、2人に黙っているようにいうが、気にいらない2人は断って無事に仕事を馘になる。事件解決とと汚れ仕事を断ったと言う自負を持ったまた、2人はまたもや探偵になるために活動し始める。

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兄貴は生まれてからまだ27年しかたってないってのに、そのすべての年が大荷物となって背中にくくりつけられているみたいに、しおたれている。

あんたたち二人もおれと同じくらい嫌われているみたいだな。
ハンサムで魅力的だと、嫌われることもあってね。


手洗い所に入ったおれは、すぐに自分の顔を鏡で確かめた。そのあまりの凄さに鏡が割れなかったのが不思議なくらいだ。

彼の筆が見事なタペストリーを織り上げるとしたら、おれの不器用な文章がつくるのはつまらない糸の結び目みたいな代物だ。

ゴマをあまりにすりすぎたせいで、ゴマはペーストになっちまいそうだった。

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『荒野のホームズ』
19世紀のアメリカ西部を舞台に、社会の底辺にいると言ってもよいカウボーイの兄弟二人(一日1ドルの日雇いで仕事を探しているくらいの社会の底辺度合いだ)が大活躍する、風変わりなことこの上ないミスマッチさがコメディ風味を生み出しているミステリ小説だ。この兄弟、とても仲がよく互いを認めて支えあって生きている。何せ、他に居た兄弟姉妹のみならず、両親までも洪水で亡くしてしまった境遇だから。兄は27歳だが72歳と言っても通じるくらいの風貌と弟は言うが、シャーロック・ホームズの大ファンにして、ホームズの観察眼と推理力を真似て事件の真相に迫っていく。弟の役割は、一つは力仕事。ビックレッドと呼ばれているくらい大柄(本人の伝によると、家の屋根には背が届かない程度の大柄らしい)で、しかも字が読める。この特技を活かして、雑誌に掲載されているホームズの活躍を兄、オ-ルド・レッドに読み聞かせた結果、兄の異才が覚醒したようだ。弟、ビッグ・レッドの目と口を通して、物語は進む。カウボーイらしく無駄口を叩くのが大好きで話がしょっちゅう横道に逸れるのだが、それが又カウボーイのお話しらしくて興が乗ってくるというもの。

仕事にあぶれた二人が雇われたのが、訳有りの牧場。所有者のイギリス貴族が遠くにいるのをいいことに、働いている男どもはやりたい放題で資産をちょろまかしている。そんなところに所有者であるイギリス貴族の一団が現れ、事件が勃発。蛇のように邪悪で疑り深い雇い主の目を掠めながら、オールド・レッドは証拠集めを進めて、見事にいけ好かない貴族の爺さま一団と雇い主たちを鼻を明かしてくれる。

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牧場で雇われているコックはスエーデン人で英語があまり話せない。その様子が、カウボーイ的にはこのような表現になるようだ。
「どうやら、そいつの喋る英語は、魚が口笛を吹いたらこんなもんだって程度らしい。」
こういった変てこだが愉しい比喩や言い回しが随所に出てくるミステリはそうは無い。西部のカウボーイとホームズ流推理、この二つ自体がアンマッチなのだが、その上字すら読めない無学なカウボーイとなるとミスマッチさが増大されてこの上ない愉しさになる。それが、このシリーズの持ち味です。
コメント
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