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好きなことを好きなだけ楽しみたい欲張り人間の雑記帖

発達障害「グレーゾーン」の子の保育

2025年06月14日 | 読書雑感
発達障害の子供の問題は、社会生活を営む中で他の人よりも困難がトラブルが多いこと。つまり、個人の中にある「障害」ではなく、個人と周りの間に存在する「障害」が問題なのです。

発達障害の可能性がある子供の多くは独特の行為や態度から「付き合いにくい」「協調性がない」と盛られます。そのことで反発を買ってしまいます。周囲の反感に囲まれて暮らしていると、人の敵意や悪意に過敏になり反抗的で攻撃的な性格になってしまいことがあります。この状態は発達障害の二次障害、または愛着障害と呼ばれています。

子供の教育や保育において大事なことは「診断をつける、つかない」ではありません。「子供の気になる行動」を通して、子供の個性や「今育ちつつあるところ」を見つけてあげることです。

発達障害の三つの分類by文部科学省
1. 注意欠陥/多動性障害(ADHD)
 特徴:衝動的で大人しくしていることや、母親や先生の話などに注目し続けることが困難
 主なトラブル:授業中に立ち歩く、話を聞かない/覚えない、忘れ物が多い
2. 自閉症スペクトラム障害
 特徴:興味関心の幅が狭く他人との社会的関係の形成や維持が困難
 主なトラブル:友達ができない、同級生の反発をかう、独自のルールで動く
3. 学習障害
 特徴:聞く、話、読む、角、計算する、または推論する能力のうち、特定の脳直だけが極端に低い
 主なトラブル:教科学習の成績不振、発表やプレゼン、司会などの役割ができない

人間の脳の進化過程
1. ワニの脳:身の周りのリスクを察知してリスク回避(衝動的な行動)を促す。自己中心的で周囲との協調や調和など一切考えない
2. ウマの脳:先行きを予測するために好き嫌いを獲得した
3. サルの脳:複雑な社会を作るようになった他者を理解する心である共感する力や自分の損得を判断する力を獲得
4. ヒトの脳:文字やパターン認識、計画性や注意の切り替えなどの課題遂行能力、衝動の抑制を司る脳を獲得

ADHDの世界:健常者は「今からこれをやろう」「これからあれをやろう」と言った目的意識や「これからやること」の記憶(展望記憶)に導かれています。ADHDの子供たちは、この目的意識や展望記憶にノイズがかかっているような状態なのです。

ADHDのタイプ
1. 典型的タイプ:気が散りやすく、手順を整えるのが苦手で行き当たりばったりで落ち着きがない行動が目立つタイプ。衝動的な行動を抑制して過大や計画に集中させる脳が未熟。
2. 不注意・無気力タイプ:典型的タイプから落ち着き⑦鞘衝動的な行動を差し引いたようなタイプ。全体的に無気力で子供らしい活気を欠けるように見えます。
3. 不安ー過集中タイプ:注意の切り替えが苦手なのがこのタイプ。必要以上にネガティブはことにこだわって、誰かに理屈っぽく反論したり、ずっと心配事を考えていた李という心理的な問題
4. ネガティブ優先タイプ:集中力に欠けることに加えて、悲観的でネガティブなマイナス思考に陥りがちはタイプ。
5. イラ立ち・学習不振対応:集中力に欠けるだけでなく、気分が変わりやすく頻繁に癇癪を起すことが目立ちます。気分の安定や怒りの抑制ができないあまり、身勝手なワニの脳やウマの脳が「自分だけよければいい」と暴走して残忍で暴力的な空想に囚われてしまうこともあります。脳のこの部分の成熟を見守るとおもに、癇癪を回避できる思考や行動のパターンを身に着けることも重要
6. 火山噴火タイプ:一見すると控え目に見えることもありますが、普段からスイッチがアヒルと多弁で早口になる。些細な刺激に敏感に反応する。騒音や光にとても敏感。一d何かにこだわり始めると融通が利かず、極度に反抗的になります。
7. 不安の強いタイプ:極度の心配や不安によってい典型的に見られるADHDの特徴が増幅されるようなタイプ。意識が心配事で占められてしまって、するべきことに集中できない、適切は手順を覚えていられない、といった事態に陥る。

子供の最大の個性は「成長する(変化する)」可能性をもっていること」です。そのため、向き合うためには、①子供は必ず変化すると信じる ②今育ちつつある力(発達の最近接領域)に注目すること。そして、何をサポートしたら何ができるのかを考える習慣を心掛けること。

子供の愛着の発達には古瀬を廻りの大人に祝福されることが重要です。子供にとっては個性を祝福される体験は自分の存在価値をsh九復される体験になります、大人は「いつかできる!」と信じて子供に向き合ってあげることが大切なのです。

成長する子に育てる3つのポイント:
1. 両親が子供と向き合い「何ができるか?」を一緒に探す積み重ねをする
2. 誰かと競うより「できること」に長期間一緒に集中して効力感を育て上げる
3. 効力感が社会で喜ばれる思内に結びついている

■ 興奮するこどもを導く目標
 <子供が興奮している時の目標>          <大人の態度・対応>

1. 自発的に冷静になって落ち着く             余裕をもって待っている
2. 大人の言葉がけでこともが止める            冷静にさとす
3. 子供が自発的に自分が何を求めているのか説明する    余裕をもってまっている/説明できたら褒める
4. 大人の言葉がけに応じて子供が求めていることを説明する 冷静に話し書ける、説明できたら褒める
5. 子供の起源が変わる他の何かに誘導する         雰囲気を変える話しかけをする、他の何かを用意する
6. その場から離れされてべつの場所に誘導する(タイムアウト) 別の場所につれていく
7. 強い言葉がけで子供を止める              強い言葉で諭す
8 罰を示唆しながら諭す                 有効な罰を用意する
9. 押さえつけて止める (物理的な危険をさけるために)   無理やり止めさせる
※子供が幸運しているときに余裕をもって「信頼して待つ」ことが重要

■ 子供を落ち着かせる言葉かけのコツ
まずは子供が示している意志に好意的な関心を向ける言葉かけから入る。例えば、「〇〇がやりたいのかな~」「今は〇〇が嫌なのかな~」など、ウマの脳の水鬼嫌いを想像して言葉にしてあげる ⇒ 心理療法では外在化と言われる方法の一つで、心の中の状態を外にだすことでヒトの脳をしげきして活性化するもの
何がしたいのかを子供が説明できると、大人と子供で共有できることが増えるので敵対関係が緩和される
タイムアウトの時間中は大人が無言で一緒にいてあげる。クールダウン後に「〇〇しちゃった」ことについてお話してもらうのもいい方法です。

■ やる気の方程式
欲求が満たされる × 価値を感じる × 自分は達成できるという自分への期待がある の掛け算でやる気は構成される


『言語化の魔力』 樺沢紫苑著

2025年06月07日 | 読書雑感
■ 悩みを分析する3つの軸
1. コントロール軸:悩みの根本原因を取り除かなくても、コントロール感があれば、「なんとかなる」という感覚が湧き、実際に行動にうつす精神的な余裕も生まれる。
 「無理」と思えば死にたくなる。「できる」と思えば楽になる。by樺沢紫苑
 コントロール感を取り戻す言葉: なんとかなるさ / できる! / やれることをやれる範囲でやっていく
2. 時間軸:過去や将来のことを考えて公開したり不安になるよりも、「今できることは何か?」が大事。
 過去を振り切り、今に切り替える言葉:それはそれとして 今できることは?
3. 自分軸:過去と他人は変えられない。未来と自分は変えられる byエリック・バーン

■ 悩みを解消する3つの方法
1. 対処法の検索で悩みを消える
2. スルーすることで悩みは消える
 スルーする言葉: へー / そんな人もいる / ありがとうございます
3. 悩みを再設定する
 ・本当に困っていることは?
 ・その悩みが解消するとあなたは満足しますか?
 ・その悩みが解消すると幸せになれますか?

■ 見方を変えれば楽になる
1. 視座の転換:視座を変えることで新たな情報を得られる(他人の視座、高所からの視座、別の地点からの視座、etc)
 注意点:① 事実と感情を分ける ② ロングショットで見る ③ 0/100思考から離れる
2. 他人の視座で見る:〇〇ならどうする? なぜ〇〇は××をしたのか? もしじぶんがその立場ならどうした?
3. 時間を味方につける:自分にできないと最初から諦めない。未来の視座を持って半年後、1年後の自分を信じてみる。半年後、1年後から逆算して今すべきことを明確にする。

■ 言葉にすれば悩みを消える
1. 頭の中のモヤモヤや苦しみを言葉にして吐き出すことで、悩みが解消して癒しが実現する
2. 言語化することで他人と共有でき、その結果共感や安心が得られる
3. 相談できれば楽になる:自己開示す勇気を持つことで相互の心が開いていく
4. 軽く「ガス抜き」をする感覚を持つ: 自分はできる / 今の自分でいい / 今の自分は最高 とポジティブな言葉を増やす
 ガス抜きの「話し方」のコツ:
  ① 気楽に話す ②解決しなくていい(ただ話すだけ) ③悩みを小さい内に流していく ④深刻にならない(笑いとユーモア) 
  ⑤ できる範囲で自己開示 ⑥ 気楽に話せる友人を1人以上持つ ⑦元気な状態でガス抜きをする
 ガス抜きの「聞き方」のコツ
  ①聞くことに専念する ②助言・アドバイスは不要 ③共感を示す言葉を言う(大変だね、私もそう思う) ④非言語の
   コミュニケーションを意識(相づち、アイコンタクト等) ⑤気軽に話せる雰囲気 ⑥フラットな関係性
5. 書くだけで楽になる:自分の悩みを簡潔明瞭にまとめることができらのなら、そのれは悩みの9割解消したのも同じ。
 整理⇒発散⇒客観視
 3行ポジティブ日記を寝る前につける(今日あった愉しかったできごとを3つ、1行ずつ書く)

■ 行動すれば悩みは消える:悩み⇒脳疲労⇒悩みという負の循環を断ち切る
 早起き、散歩、ゆっくり咀嚼が幸福物質セロトニンを活性化する
 ネガティブをポジティブに切り替える言葉:①とはいえ ②それはそれとして ③でも(それでも)

■ 悩みが消える究極の方法
1. 諦める:どうにもならないならそれ以上のもがきや努力は苦しみしか生まない。諦めるとは悩み続けることを止めること。
  しょうがない、 まあいいか、 そういうこともある
2. 他者貢献をする:ギブをすることでギブが返ってくる=好意の返報性の法則

『人と組織を巧みに組織と人を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」Deep SKill 』石川明著

2025年02月01日 | 読書雑感
仕事ができるとはどういうことか?「知識」や「ノウハウ」は仕事をするうえでの必要条件ではあっても十分条件ではない。では何が重要なのか?(中略)「人間真理」と「組織力学」に対する深い洞察力、そしてその洞察に基づいた的確な行動力。
■したたかに動く
1. 信頼資産:「ずるさ」ではなく「したたかさ」を磨く 信頼資産をためた上でしたたかな戦略を持つ
2. 裏切り:上司とははしごを外す存在である 道徳観に期待せず身も蓋もない現実を洞察する

自らがスポットライトを浴びる主役になってはいけない。自らは舞台に上がらずに筋書きをコントロールする「脚本家」のポジションを取らなければならない。
3. 意思決定:優柔不断な上司に決断を迫る そもそも上司とは意思決定したくない存在である
正論は自分を律するたえに用いるべきものであって、これを他者に押し付けようとしても反発されるだけ。上司に喜んで意思決定させるためには、①上司の「不」を軽減する材料を揃える ②意思決定しないことのリスクを理解させる ③将来像を描くことで背中を強く押す
4. 覚悟:勝負どころではあえて波風を立てる 角を立てた主張で社内の議論を深める
5. 達観:会社で深刻になるほどのことはない 困難な仕事を成し遂げるRPG思考
■人間関係を武器にする
6. 抜擢:弱者でも抜擢される戦略思考 才能・スキル・能力よりも大事なのは戦い方

大切なのはほかの人と同じことをせずに、複数のスキルを掛け合わせる
7. 専門性:専門性の罠におちいってはならない 普通の人の普通の気持ちを持ち続ける
ビジネスモデルとは事業として成立させるための手段であって目的ではない。ビジネスの目的な「世の中の不」の解消
8. 思考法:他者の脳を借りて考える プライドを捨てて人に頼ることで強い力が手に入る
「壁打ち」をすることで他者の視点や知見を取り入れた上で相手を巻き込む強力な根回しとなる
9. 話し方:敏腕ビジネスマンのように話さない 話が上手い人ではなく話ができる人を目指せ
自分が話したいことを放すのではなく、あいてが話したいことを引き出すような話し方を磨く
10. 協力関係:協力関係の網の目を張りめぐらせる 相手の「不」を解消することで大きなパワーを手に入れる
11. 他者貢献:親切なのに嫌われる人の特徴 さりげなく味方を増やす他者貢献の賢い技術

親切の押し売りは嫌われる。相手が思考を深めて答えを見つけ出す手伝いをする
12. 求心力:まず自分の起源をマネジメントする 求心力のあるマネジャーは上手に仕事を手放す
■権力と組織を動かす
13. 企画力:組織を動かすプロセスを企画する 社内で吹いている風を読み取り賢く利用する

企画とは、自分の目的を達成するまでの実行プロセスの設計図を描き出すこと
14.言語化力:上司の頭の中を言語化する 上司のフェアウェイとOBゾーンを明確にする
相手が頭の中で考えていることを言葉にして、相手が理解しやすいように整理して伝える能力を磨く
15.権力:権力を味方につける人の思考法 人間心理の機微を深く理解し権力との距離を測る
16.合理性:合理性の罠に陥らない方法 合理的に考えても結論が出ないときの思考法

何がしたいか、どうあるべきなのかの原点に立ちもどるためには意志を確認する
17. 効率性:効率化で墓穴を掘らない思考法 自分の仕事の本来の目的を徹底的に考え抜く
18. 対立:調整とは妥協点を探すことではない 対立関係を協力関係に帰るたったひとつの方法
■人間力を磨く
19. 嫌悪感:人間の哀しさを理解する 好き嫌いに左右されず自分の感情をコントロールする方法
20. 失敗:やり切った上での失敗には価値がある 一流の経営者が評価する表面的な成功よりも大切なこと
21. 使命感:使命感が最強の武器である 怒りを使命感に昇華すればどんな困難も乗り越えられる

『ゴールド・コースト』 ネルソン・デミル著

2025年01月19日 | 読書雑感
共産主義は死に、アメリカの資本主義は悪い咳をしている。となると、いったい何が、だれが、地を引き継ぐのか?かの聖なるハニングズ師が説くような”柔和なるもの”ではない。宿主が生きているあいだしか生存できないめるざーのような寄生虫でもない。(中略)スタンホープ一族のような人たちは生き残るかもしれない。長期間くいつなげるだめのどんぐりをご先祖さまが蓄えておいてくれたからだ。ベラローサのような人間は、もし森の中の新しい狼どもと話をつけることができれば、生き延びる可能性もある。レヴォリューション(革命)ではなく、エヴォリューション(進化)。アメリカとはもともとそういう国なのだ。

月曜の午後遅く、われわれは日に焼け、疲れ切って、スワナカ・コリント・ヨットクラブへ帰りついた。船は人間関係に対する一種のリトマス試験紙である。外界から遮断され、せまい船内で起居をともにすると、必然的にあ、温かいきずなが生まれるか、でなければ反乱や殺人に追い込まれる。ポモナック号をもとのねぐらに係留したとき、わがサッター家の家族はみなたがいにほほえみ合っていた。海が奇跡を行ったのだ。だが人間は永久に会場にとどまっていはいられない。それに、大多数の無人島は盲腸の緊急手術の設備に×。だから我々は舟を繋ぎ、自分自身をエレクトロニクスの命綱に繋いで、喧噪と絶望の人生を送るのである。


主人公のジョン・サッターの一人称で描かれるこの小説『ゴールド・コースト』 、上下巻併せて900ページ以上となる長編小説だが、こんな調子でジョンならではシニカルで冷めた目で世の中と人々を眺めたコメントが車道の砂利石のようにちりばめられながら話が進んでいく。アメリカ建国時代から続く名家の出身でイェール大学とハーバード・ロースクールを出た税務を専門とするNYの弁護士。妻は、サッター家よりも遅くアメリカへやって来たものの巨万の富を稼いだ富豪の娘にして美人。ロングアイランド島に建つ妻の両親が所有するスタンホープ屋敷お屋敷は、新宿御苑よりも広い200エーカーという広さ。もとより、ロングアイランドという土地自体が由緒正しい家系であるとともに唸るほどの金を持っていないと住めない土地。そんな金の匂いがプンプンする設定の中、スタンホープ屋敷のお隣の豪邸にアメリカ最大のマフィア組織のドンが引っ越してくる。この男がいまにもワルといった佇まいと口調と話法でジョンとスーザンの夫婦を魅了していく。二人が別々な方法で、このドン、ベラローサに惹きつけられてやがて破滅の道を徐々に進んでいく、というのが物語の大筋。最後は、ベラローサの愛人となっていたスーザンがベラローサを射殺して終わる。ベラローサに命の貸しがあるジョンがベラローサに言わせた台詞がスーザンを殺人に追い込んでいったことが分かる。そう、ベラローサは大物ドンになりあがった人物にふさわしく、言動によって人を操ることに長けている。一方、ジョンはそんな手練手管の裏を見透かすほど頭が切れるが、ベラローサの魅力に抗しがたくどんどんと深みにはまって最後は破滅へと突き進んでいく。ジョンの場合は、ベラローサの魅力が半分で、残りの半分は自分が育ち属する社会階層に対する心の奥底にある反発心とがあるようだ。そして最後は、逆にジョンがベラローサに対する「貸し」をネタに、ベラローサにスーザンへの台詞を言わせるという立場の逆転がなされる。命の「借り」があるベラローサはその台詞がもたらし結末を予期していたのだろうと思う。どちらも頭が切れる人物なのだから。二人の男たちの互いに裏を見透かした上での生き様を追い求める”大人の男”であることがこの物語を更に魅力的なものにしている。

『神道はなぜ教えがないのか』 島田裕巳著

2024年12月16日 | 読書雑感
開祖も、宗祖も、教義も、救済もない宗教が神道である。

宗教の役割ということを考えた時、真っ先にあがるのは「救済」ということであろう。(中略)神道においては、翠杭、救済ということは前面に出てこない。(中略)日本人は、神道に対して、現状がそのまま無事に続いてくれることや、少し状態が改善されることを望みはするものの、今抱えている悩みや苦しみから根本的に救ってもらうことを望んだりはしない。

日本の神話全体を考えた時重要な事柄は、最初に天地を創造した主体が不在だという点である。(中略)「国生み」という日本の国土を創世する過程は記されているものの、天地がいかに創造されたか、それについては語られていない。

神道と仏教は、片方が生の領域に深くかかわり、もう片方が死の領域に深くかかわることで役割分担をおこなうことが可能になった。

世界の宗教の中で、出家が制度化されているのはキリスト教と仏教だけである。それもこの二つの宗教では、現実の俗なる世界とは根本的にことなる聖なる世界の存在が前提となっているからである。

日本の神の自由な動きは、遷宮ということに留まらない。頻繁に見られるのが、「勧請」、あるいは「分霊」という行為である。

神社が「神のための場所」であるのに対して、寺院は「人のための場所」である。



『観察力を磨く名画読解』 エイミー・E・ハーマン著

2024年12月11日 | 読書雑感
大事なのは-
●全体を捉えつつも細部をおろそかにしないこと
●複雑さをおそれないこと。結論を急がないこと
 一層ずつ順を追って分析する。得られた情報には重要度によって優先順位をつける。
●疑問を持つ心を忘れないこと
 発見は漏れなく言葉にすること。他の人にはまったく見えていないかもしれないのだから。
 もっと明確にできないか、重要な情報を引き出す質問は何だろう、と自分に問いかけよう。
●客観的事実だけを扱うこと
 感情や憶測で事実を濁らせてはいけない。事実を正確に伝えたいのなら、意識して客観的な表現、数字、色、大きさ、音、位置関係、材質、場所、時間など。事実に裏打ちされていないものをすべて主観的な表現だ。また、否定的な表現を肯定的な表現に変えるのも、客観的に話すコツだ。”うまくいくとは思えない”よりも”こっちの方法を試してみたらどうだろう”の方が耳を傾けやすい。

練習方法
●腕時計やハンドバッグ、水筒など普段の生活で使うものを選び、1分間集中して観察する。観察が終わったら、それを見えないところにしまって、特徴を全部書き出す。色、形、素材、ロゴ、寸法など、できるだけ詳しく書き出す。そしてモデルにしたものを取り出してさっきより長い時間、観察する。先程気付けなかったことにきづけるかどうか?
●二度見る。私たちの目は、新しくて革新的でわくわくするものに引っ張られる。だからなんでもない場面に隠れている平凡なものをきちんと見るには、意識して注目しなければならない。まずは、全体を見渡してから、改めて一つを見直す。できるならば角度を変えるといい。近くで見て、遠くから見る。周囲を歩いて視点を変える。ふつうでは見ないような角地から見れば、なんということのない眺めに、変わったものが含まれていることに気付けるかもしれない。
仕事をしていて壁にぶちあたったときには、席を立ち、外に出て、今起きていることを観察しよう。それが脳を活性化させ、五感を冴えわたらせ、壁を超える方法を教えてくれる。
●観察のポイントは、”誰が”、”何を”、”いつ”、”どこで”。 ”なぜ”は最後にする。”なぜ”は疑問の中で最後まで明らかにならないことが多く、手に入らない答えを探して右往左往する前にいまある情報(誰、何、どこ、いつ)に集中すること。

アートとコミュニケーションのあるべき姿は似ている。アートとは招待することー自分の思考に他者を招待して、自分が見たもの、どう見たかを他者に知らせることなのである。コミュニケーションも全く同じなのではないだろうか。

『優雅なハリネズミ』 ミュリエル・バリベル著

2024年08月19日 | 読書雑感
文明とは、抑制のきいた暴力にすぎず、人類はサルの攻撃的性格を永遠に克服できません。なぜなら我々はサルであり、苔寺の椿の花を楽しむことを知っても猿でありつづけるからです。教育の役割はまさにそこにあります。教育とは何か?人類の欲動を紛らわすものとして苔寺の椿の花をたゆまず与えていくことです。人類の欲動は決して止まらず、生き続ける命の脆い均衡を脅かしつづけるからです。

言葉は人間の財産であり、言葉を使うという社会共同体の発展は貴重な産物です。(中略)社会において選ばれた者たちは、貧しい者の宿命である隷属状態とは別の運命にあり、ゆえに言葉の素晴らしさを大切にし、守っていくという二つの使命があるのです。

最も高貴な概念は、最も野蛮で下衆なものから生まれるということなのでしょう。”美とは相応しくあることだ”という崇高な考えが心に浮かんだのです。美学とは、すこし親権に考えれば、相応の道、つまり確かな形の直感に対応した武士道のようなものへの通過儀礼以外の何ものでもないと分かります。(中略)私のように取るに足りないものの偉大さに昆布された者は、本質的でないものの核心までそれを突き詰めます。するとそこに、平凡な衣に飾られたそれが、ありふれた現実と”これがあるべき姿である”という確実性、、”まさにこの通りである”という確信の構造が浮き上がるのです。

『ターシャ・テューダー 人生の楽しみ方』 食野雅子著

2024年06月24日 | 読書雑感
私は、社会通念より自分の価値観に従って生きてきました。夢にすこしでも近づくような努力を重ねていたら、いつしか夢が実現したのです
ほかの人がすることに惑わされず、自分がしたいことを、自分がいいと思うようにすればいいのよ。
世の中の憂鬱は影にすぎない。そのうしろ、手の届くところに喜びがある。人生は一度きり。楽しまなくてはもったいないと考えたターシャはそのためのヒントをたくさん提供してくれています。
幸福になりたいというのは、心が充たされたい、ということでしょう?不幸だと思えばそれまで。それより、今、自分がいる状況が一番だと思ってみると、違う風景が見えてくるかもしてません。
ちょっと周りを見回してごらんなさい。やろうと思えばできる楽しいことが、たくさんありますよ。
近道を探そうとしないこと。価値のあることはみな、時間も手間もかかるものです。大量の食器洗いや片付けも含めてターシャはこうしたイベントを心から楽しんだのです。
やりたいことがあったら、すわっていないで、始めてみたら?何もしなければ、何も生まれないわ。
なんでも、やればやるほど上達します。
急ぐことがよいとは思いません。私は何でもマイペース。仕事も、納得するまで時間をかけます。
完璧じゃなくていいのよ。「私は何か一つを完璧に、というより、興味のあることをいろいろやりたいわ」
これまでの人生は無駄だったと思うより、残りの人生を、これまでのぶんまで楽しんで。
つらい時こそ想像力を働かせて。想像力を働かせて楽しいことを考えていると体が軽くなり、それまで見えなかったものが見えてくる気がします。
やりたくない仕事や、付き合いにくい人と会うような時は、楽しいことを考えながらするの。
何かに夢中になるのは大事なことです。なんでもいいの。それが人を前に進ませます。
あきらめてしまったらおしまいよ。世の中は動いているの。一緒に歩み続けていたら、何か見つかるわ。
見慣れた空の星だって、年に一度しか見られないと思えば感動するでしょう?
一夜にしてできる庭なんてないのよ。見ごたえのある庭にするには、最低でも12年はかかります。
予定が狂うなんてこと、いくらでもあるわ。よい方に狂うことだってあるでしょう?
状況のせいにしない。楽しいことなら素直に愉しみ、困ったことなら「そんなもの」と達観して前に進めばいいのです。
年齢と共に体が変化するのは当たり前。変化した自分を受け入れてしまえばいいのでは?
年をとっても、できることをたくさんあります。
年を取ればとるほど、人生は楽しくなる気がします。
何事にもそれに適した季節があります。若者には若者の季節が、高齢者には高齢者の季節が。
心は一人ひとり違います。その意味では、人はいつも一人なのよ。
これまでどんなに楽しい時期があっても、そこへ戻りたいとは思わないわ。年を重ねることはもっと楽しいことだから。
いつまで生きるかは運命で決まっているのよ。あがいてもだめ。賢く生きるしかないわ。
楽しみを見つけようとすることはいつだって必要です。
どの季節にも、それぞれの良さがあるわ。
仕事の手を休めて、植物の葉が揺れるのを眺め、小鳥の声に耳を傾ければ...。
夢をもちましょう。そしてその夢を、良識的に、現実的に追いかけましょう。
ユーモアは、人を笑顔にさせ、幸せにし、人の営みを豊かにします。
親が子供にしてやれる大切なことは、子供時代に楽しい思い出をたくさんつくってやることです。
本は、さまざまな異国へ連れて行ってくれるすばらしい乗り物です。
やりたい仕事は、労働ではなく、楽しみになるのよ。
何か能力を身に着けたいと思ったら、心から願い、チャンスを見つけて努力し続けること。
うまくいかなかったら、手を休めてほかのことをする。あせらず、努力することよ。
最初から恵まれすぎているより、足りないくらいの方がいいこともあるわね。
感謝や喜びを感じたら、相手はわかっているだろうと思わず、伝えてあげて。
まわりに美しいものがあると、気分が変わります。
私は人生をバケーションのように過ごしてきたの。一刻一刻を楽しんでね。















『弁護士ダニエル・ローリンズ』(ヴィクター・メソス著)

2024年05月05日 | 読書雑感
「人生をどう生きるかは、たった二通りしかないのよ。ジム・モリソンかジョン・ロックフェラーか」
「どういうこと?」
「アートを生きるか、プロジェクトを生きるか。ロックフェラーは幼いころから、自分の目標を意識していた。その目標の周りに人生を築いていったの。自分の進む道はかくあるべしと決めて、自らレールを敷いてその上を走っていったのよ。(中略)そして、モリソンは正反対の人生を歩んだ。キャンバスに絵を描くように生きていったの。感情的で創造的で私的な美しい絵のようにね。喜びも悲しみもmあらゆる経験がタペストリーのように、その絵に織り込まれていった」

わたしは人生など偶然の連続にすぎないと思っている。宇宙の片隅にあるこの星にたまたま生命が誕生し、生き物たちはひたすら奮闘しただけなのだと。

裁判とは闘いであり、昔は貴族同士が武器を持って実際に決闘を行っていた。やがて殺しあいに嫌気がさし、代わりに闘ってくれるものを雇うようになった。原題の訴訟弁護士は、元をたどれば傭兵だったのだ。

『京都の平熱 哲学者の都市案内』 鷲田清一著

2024年04月30日 | 読書雑感
京都人がこれまで「得意わざ」と密かに自負してきたもの:
 めきき:本物を見抜く批評眼
 たくみ:ものづくりの精緻な技巧
 きわめ:何事も極限まで研ぎ澄ますこと
 こころみ:冒険的な進取の精神
 もてなし:来訪者を温かく迎える心
 しまつ:節度と倹約を旨とするくらしの態度
対抗評価軸(オルタナティブブ)がいっぱいある街いいると、ああ都会にいるのだなあとおもう。アブナイ両極端、これ以上行ってはいけないリミット、それらがはっきり設定されている街ではmそうそうかんたんに残虐な事件は起こらないと思う。人生の避難所と実験場とがいたるところにある街では、ひとはかえって堅実になるように思う。型にうるさい街、型を外すとあぶないことをよくしっている街では、たんなる型破りはバカにされるだけだ。

ひとにも旬というものがあるのだろうか。あったのだろうか。青年、想念、熟年、老年・・・・。それぞれの季節(とき)にそれなりの旬があるはずなのに、旬は「盛り」に取って変わられた。元気の満ち溢れている季節、青年から壮年にかけてを人生のピークとし、そのあとは下り坂という、なんとも貧相な一直線のイメージで人生が描かれる。そしてそんな下り坂でも「元気」を(年齢不相応に)保っていることが、まるで理想のように語られる。「アンチ・エイジング」だとか「サクセスフル・エイジング」だとか。

じっさい、これほど気質もカルチャーも、さらには言葉も異なる百万都市が、それぞれ30分もあれば行き来できる距離にあるというのは、世界でも例がない。これに奈良を加えれば、世界でも屈指の地域である。関東のようにいろんな都市が東京を中心に同心円になるのではなくて、つまり地方に行けば東京度がしだいに薄まっていくというのではなくて、それぞれにじぶんところが最高と、プライドをもって思い込んでいる多中心的な地域は珍しい。文化が何重にもなっているのである。(京都・大阪・神戸の「三都物語」に関する筆者の考え)


コージーミステリを読み耽る愉しみ その25 ルーシー・ストーン主婦探偵シリーズ(レスリー・メイヤー著)

2024年04月08日 | 読書雑感
またまた一話飛ばして第七話『感謝祭の勇敢な七面鳥』へ。地元のアメリカンインディアンの末裔たちの中に、メティニカット族としての誇りを持ち一人孤高を守るカート・ノーランが殺された。孤高の人。別の言い方をすると人付き合いが下手で小難しい奴。メティニカット族の末裔に人々からも浮き上がっていたカートだが、殺されるような人ではないと信じるルーシーが調査を始める。メティニカット族は部族としての認定を連邦政府に求めようとする動きがあり、その裏にカジノ建設の計画があるという噂がたつ。カジノなど必要ないと考える住民、異形な近代建築物を建てたくない住民がいるものの、賛成派もいる。部族としての認定がなされると、認定が優先されるためカジノ建設を阻むものはなくなる。そんな中でもカート殺害だった。カート自身は部族認定は望んでいたが、望んでいた部族の博物館建設が消えてしまったことに根に持ちカジノに反対だった。同族の誰かの仕業か?実は、カジノ建設を請け負っていた会社の経営者が、邪魔になったカートを殺したのだった。しかも部族の貴重な武器を使って。事件を嗅ぎまわっていたルーシーも邪魔に感じた建設会社経営者はルーシーの殺害も計画。間一髪のところで助かるきっかけを作ってくれたのは、イベントで優勝した堂々たる七面鳥だった。それが題名にもなっている。

相変わらず、事件捜査以上にルーシーを取り巻く家族の生活、村の生活がお話の半分以上を占める。例えば、大学に行ったトビーが感謝祭で友人3名と戻って来てリビングルームをひっちゃかめっちゃかにする模様、娘3名たちのいがみ合いや村に住む友人たちとの交流などなどの合間に事件解明の動きをする。これって決してミステリではなく、アメリカのとある田舎の村の生活の一端を殺人事件を絡めてお話にしたシリーズだ。

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第四話は図書館の蔵書にはなかったので飛ばして第五話『バレンタインは雪あそび』へと進む。アメリカ北東部、ニューイングランド地方のバレンタインの時期だから冬の真っただ中での事件。地元の図書館の理事を引き受けたルーシーが最初の理事会に参加するために図書館に行ったその時に、図書館で働く司書が殺される事件が発生。警察からは独自捜査などしないようにきつく申し渡され、その気であったルーシーだが、もう一人の理事のヘイデンまで亡くなってしまう。警察の見立ては、ヘイデンが図書館に収納されていた価値ある歴史もののピューター製のタンカード(蓋付きジョッキ)を盗み、それに気付いた司書を殺した上で罪の意識に耐えきれずに自殺したというもの。ヘイデンの人柄をよく知るルーシーには納得がいかず事件に首を突っ込むこととなった。調べていくと、地元の名士で立派な人物と思われていた残りの5人の理事たちもそれぞれに事情を抱えており、高潔な人物だとは言えないことを知るようになる。一人ひとりに探りを入れだすルーシー。レシピ盗用で訴えられていたケータリング業者、口が達者な弁護士、胡散くさいと人々から言われている建築請負業者、元大学総長はギャンブル依存症で借金まみれだった。そしてルーシーの身の周りに起こる不審な出来事。大雪の後で坂道で橇遊びをしていたルーシーの4人の子供たちが大型ピックアップトラックにあわや轢かれるかのニアミスに続き、ルーシーの愛用者スバルが炎上するという事件が起こる。横領で逮捕された元大学総長が図書館のお金に手を出していたかを夫のビルに調べてもらえないかと理事の一人の弁護士から依頼されたルーシーが書類を持って家に帰った翌日は記録的な大雪となる。そこへ理事の一人である建築請負業者のエドが、図書館の屋根から雪下ろしをしたいので手伝って欲しいとビルを連れ出す。胡散臭さを感じたルーシーが図書館の新棟増築書を見たところ必要な資材が納入されておらず、粗悪品が代わりに使われていることを見つける。夫のビルが危ないと図書館へ駆けつけたルーシーが見たものは、屋根の上でもみ合う二人の内の一人が屋根から落ち、勝ち誇ったようなもう一人はずさん建築の犠牲となって崩れる屋根とともに落下する姿だった。ビルは雪の吹き溜まりの上に落ちたので無事だったが、エドは助からず。こうして真犯人が見つかり司書とヘイデンの嫌疑をルーシーは無事に晴らすことができた。


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連続して第3話『ハロウィーンに完璧なカボチャ』へ突入。このシリーズの面白さを探すとすると、決してミステリーや犯罪解明ではなく主人公の主婦、ルーシーの日常生活を垣間見る合間に事件の進展を追うといったところか。今回は前作から1か月半後の出来事。地元の歴史的な建物が放火されて所有者の妻であり内装改築に熱心であった妻が焼死体で発見される。それ以前にも放火と見られる火事が何件か発生しており、田舎町のティンカーズコーヴに住むルーシーは好奇心と正義感を募らせて事件を嗅ぎまわる。その後も歴史ある建物が放火により全焼してしまい、ハロウィーンの夜にパーティが開かれていた旧家の屋敷が燃える。子供のオムツ鞄を置き忘れていたことに気付いたルーシーが取りに戻ったその時、ルーシーは殴られ部屋に閉じ込められて建物に火が回り出すという好タイミング。ハロウィーンのいたずらをしようと外出していた子供たちが気付いて911通報し、ルーシーは間一髪で救出される。被害者という立場になったルーシーは病院から抜け出す際に、火事の被害にあった地元の不動産業者の知人の車に乗せてもらったところ、この男が放火犯で、ルーシーを車に閉じ込めて焼き殺そうとしたその時、夫のビルが駆けつけて救われる。放火犯も逮捕されて一件落着。

素人の主婦探偵ルーシーの事件の見立てというのがこれまた偏見に凝り固まったとしか言いようがないもの。焼死体で発見された女性の夫が、エアロビクススクールを共同経営する女性と不倫しているという理由で犯人だと疑い、その後地元の古いガソリンスタンド所有者を犯人扱いする。自分の気に食わない人間を勝手に犯人扱いして周辺を嗅ぎまわるのだから探偵というよりも田舎町のお節介おばさんといった方が似合うキュラクター。真犯人が判明してからも、一方的に犯人扱いした人々に謝ることもなく、彼らの不法行為やモラルに反する行為が社会的成敗を受けるというルーシーにとって都合のよい物語進行。本当にこんなお節介おばさんが身の周りにいたら堪らないという気になってきたところだ。アメリカ人独自の偏見の持ち方という観点からこのシリーズを読むのもいいかもしれない。

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第二作は『トウシューズはピンクだけ』。第一作で主人公のルーシーが働いていたのは地元のカタログ通販会社の電話注文受付だったのに掛けて、題名が『メールオーダーはできません』となっているのは理解できる。この2作目では、妊娠中のルーシーが仕事を辞めて主婦業に専念しており、二番目と三番目の子供(長女と次女)が習っているバレーの発表会に控えているという設定になっている。そんな折、長女と次女のバレーの先生の先生で、引退してはいるが元は高名なバレー教師だったキャロ・ハットンが突然失踪する事件が起きるところから物語が始まる。事故か自殺か、それとも殺害事件か分からないままに、ティンカーズコーヴでの日々は色々なことが起きながらも過ぎ去っていく。ルーシーの友人の一人であるフラニーは、頑固さと意地悪さゆえに地元民のほとんどから嫌われているモリル・スラックが経営しているスラック金物店で働いている。一生懸命働いても最低賃金から給料が上がることはなく、挙句の果てに売上と在庫をごまかしているとモリルから一方的に決めつけられてしまう。売上と在庫が合わなくなったのは、モリルの孫のベンが手伝いに来るようになってから。ベンは見るからに柄の良くない仲間とつるんでいて、良からぬことをやっているよう。ベンの盗みの証拠を捉えようと、フラニーはルーシーから借りたビデオカメラを店内に見えない場所に設置したのだが、モリルに見つけられてしまう。店の売上をごまかした金で買ったビデオと決めつけた頑固者のモリルはビデオを取り上げて返さない。業を煮やしたルーシーが返却を求めて店に乗り込んだところ、当のモリルがな殺されている現場に出くわす。しかも凶器はふーしーのビデオカメラだった。容疑者として拘束されたのはフラニー。人を傷つけることしかしてこなかったモレルが死んだことで葬儀の日は半ばパーティのような雰囲気。キャロの失踪とモレル殺しは関連があるのか?キャロの自宅に入ったルーシーが目を付けたのは、キャロの古い写真アルバム。昔の写真を見ているうちに引っかかるものがあるのだがそれが何かは思い出せない。もやもやした気持ちを引きずりながら娘たちのバレイ発表会の準備を進める。前作ではクリスマス直前の準備の慌ただしさ、今回はバレイ発表会直前の準備の慌ただしさというルーシーの日常の暮らしが物語の背景となって物語は進行する。ある時、自分たち家族の古い写真を見ていたルーシーは、キャロのアルバムにあって別荘の背景の滝が、自分たちも言ったことのある滝であることを発見。キャロの弟子のバレイ教師、タティアーナと一緒に別荘を訪れたところ、キャロはフラニーの弁護士に殴られて重体。フラニーの弁護士は、キャロの友人の元夫にして、自己所有欲が強いだけではなく身勝手で変態。元妻に対するDVだけではなく、自分たちの幼い娘に対しても性的暴力を加えていたのだが、立証できなかったために娘の親権は夫に属し、元妻は自分の娘の誘拐容疑で刑務所に入れられていた。そんな状況を知っていたキャロ、元教え子の娘を連れて誰にも言わずに自分の別荘に匿っていたのだったが、ルーシーの家にあったアルバムを垣間見た元夫の弁護士がその場所に気付いて追ってきた結果キャロに対する暴行が起きた。暴行の現場には間に合わなかったが、キャロと幼い娘を保護することに間に合ったルーシーは、娘を自分の子供と偽って自宅へ連れて帰る。もちろん弁護士のDV男もそれに築いてルーシーの家へ行ってルーシーを殴る付けて娘の居所を吐かせようとする。その瞬間、モリルの息子の妻、アンマリーが拳銃を持って乗り込みルーシーを救う。弁護士を撃ってしまったアンマリーは、警察での事情聴取時に義理の父親殺しを自白する。これでフラニーの嫌疑も晴れ、弁護士のDV男は逮捕され、娘の誘拐で刑務所に入っていたキャロの教え子も出所できて娘と平和に暮らすことができるようになった。これらすべてルーシーの「大きなお世話」ゆえの結末。最後の最後のシーンは、ルーシーが四番目の女の子を出産する場面でめでたしめでたしとなる。

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「ルーシー・ストーン主婦探偵シリーズ」というタイトルは私が勝手につけたもの。コージーミステリを読み進めて、25番目のシリーズの第一話は『メールオーダーはできません』 原題は『MISTLETOE MURDER』といってクリスマス直前という季節感あふれるタイトルだが、日本語でミッソルトーといってもピンとこないので、カタログ販売会社の電話注文受付係として勤める主人公にあやかってのタイトル。

クリスマス直前のメイン州の田舎町、ティンカーズコーヴにあるカタログ通販会社のカントリーカズンズのコールセンターは大忙し。全国から電話注文が押し寄せ、ルーシーを始め従業員たちはせっせと入電をさばいている。仕事が一服して、眠気覚ましに雪が降りだした駐車場に出たルーシーは、アイドリングしたままの一台の車の排気口から出たパイプが車内に引き込まれているのを見つける。社内の駐車場での自殺事件と思われたが、社内にいたのはカントリーカズンズの社長。業績が悪いわけでもなく、何の不自由もない生活をしている(ように見える)地元のスーパーリッチ社長がクリスマス直前に自殺する訳がない。特に、新しい経営陣に代わった途端に人員整理が行われたとあっては、一従業員として納得がいかず、経営を巡ってのいざこざの線も疑ってしまう。事実、新社長となった弟は、長い間兄の影に隠れて日の目を見なかった存在だったし、自分の出世が頭打ちになっていると感じていたはずのルーシーたちの直属の上司である部長も打開策としてこの事件に手を貸した疑いがある。多分に妄想的ではあるが、好奇心が人一倍旺盛なのがコージーミステリの主人公の特徴。子供3人を抱えて毎日の生活に追われるルーシーは田舎町らしいゴシップあさりの噂話に余念がない。そうしているうちに、友人のバーニー・カルペッパー巡査が地元でも有名な曲がりくねったアイスバーンの道で自動車事故を起こしてICUに担ぎ込まれるという事態が起こる。危険は場所として知られた箇所だが、バーニーはそのことを熟知しているし運転技能には疑いがない人物だったために、単なる事故ではないと疑いが益々大きくなるルーシー。病院へお見舞いへ行った帰り道、近道をしようと地元教会の横手を通ったその瞬間、教会前に飾られているオブジェを見てピンとくる。芸術家である牧師の妻は、宗教活動には手を貸さずにアート作品を作っていた。その一作品が教会の庭に飾られているのだが、黒く塗られた像はが抱き合っている2人の男女にホースがぐるぐる巻きにされているというもの。ホースを触った途端、そのホースが深夜の駐車場で排気口から車窓の中に引き込まれていたホースと同じものと気づく。作者を探して教会内のアトリエにないったルーシーはそこで牧師の妻の自殺死体を発見。牧師妻が残した遺書には、夫の牧師と死んだ通販会社社長の妻との不倫関係が暴露されていた。バーニーの自動車事故も、ホースが同一であることに気付いたバーニーを消そうと、牧師が仕組んだものだった。

探偵事務所を構えるアガサ・レーズンや女王陛下から真相究明を依頼される貧乏お嬢さまとは異なり、この主人公のルーシーは事件究明に割く時間が圧倒的に少ない。妄想ともいえる興味本位の疑念を次々に思い浮かべながら毎日の生活に追われるように日常を過ごしている。「生活感あふれるミステリ」という言葉が本の裏表紙に書かれていたが、このシリーズの特徴を挙げるとしたら「生活感あふれる」という言葉だろう。事件の結末が唐突ではあるものの、ミステリとしてよりも生活感あふれる田舎町の日常風景を楽しめる作品でした。

使いすぎでクレジットカードの番号がすり減って消えてしまうのではないかと心配になるほど、すさまじい勢いで買い物を片付けていった。
子育て、主婦業、通販会社の深夜電話受付係として忙しい毎日を過ごす上に、夫を亡くして活きる気力も持てない母親をクリスマスに家に迎えて面倒を見るルーシーが、空いた時間を見つけて家族のためにプレゼントを買う場面が目に浮かぶようだ。

「こんなものを食べちゃいけないんだけど。吹き出物ができちゃうわ」
「人生、たまには危険なこともしなくっちゃ」

バーガーキングに寄ったルーシーと友人のスーの会話。脂ぎったハンバーガーが「人生の危険」という大袈裟な言い方も好きだ。

コージーミステリを読み耽る愉しみ その29 歴史と秘密のホテル・シリーズ(オードリー・キーオン著)

2024年03月26日 | 読書雑感
第2話『新米フロント係、支配人を憂う』では、アイヴィーが信頼と尊敬をささげている支配人のフィグが殺人犯として逮捕される。第1作ではアイヴィーが心を寄せているシェフのジョージが容疑者として拘留され、今回は支配人に容疑が掛かる。アイヴィーと関係が深い人物が容疑者になるというのがシリーズのお決まりらしい。ということは、第3話では父親かホテルのオーナーであるクラリスタが容疑者になるのかな。今回は墓石愛好会というサークルが年に一回の勉強会を開催するためのホテル1911に揃って宿泊することとなった。しかも、メンバーはホテル敷地内にある墓石も研究するらしい。施設内に墓石があるということは、祖先のお墓が施設内にあるということになることをアイヴィーは知って驚く。庭園に置いてある彫刻が実はアイヴィーの曽祖父と曾祖母の墓石なのだとホテルのことならなんでも知っている支配人が教えてくれた。それでは、身を持ち崩しこの豪邸を手放さなくてはならなくなった祖父と祖母のお墓も施設内になるのかと気になってくるアイヴィー。神経系の病気を抱えながらもこのホテルでアイヴィーが働く理由の一つは自分の祖先たちに関する情報を得るため。その手掛かりが身近にあったことを墓石愛好会が教えてくれた。良いことばかりではない。今回の事件は、墓石愛好会のメンバーの一人が殺されて起きる。事件発生時、メンバー全員は施設内の墓石巡りをしているところで、殺人事件があったスイートに上がることができたのはフロントに詰めていた支配人のフィグだけという状況証拠で警察に拘束されてしまう。有能この上ない支配人を失ってホテル運営は危機に。穴埋めのために予定外のシフトをこなしつつ、アイヴィーは敬愛する支配人のために真相究明に取り組む。

直前まで読んでいたのがアガサ・レーズンのシリーズだったため、スピード感溢れる特急列車から各駅停車に乗り換えたかのようなスローな物語進行に戸惑った。パニック障害を患う主人公のように、一歩一歩こわごわと着実に歩を進めるのがこのシリーズだ。それでいた妄想と紙一重の推理に基づいた行動が続くので、あっちこっちに振られる。それを地道に一歩一歩着実に踏み進めていくのだから、なかなか興が乗らない。半分を過ぎた頃からやっと面白さが出てくる。フィグが持っていた昔邸宅だったころの古い設計図があったことをアイヴィーが思い出し、設計図面から殺人が起こったスイートに行ける秘密の通路がないかと探ったところ、かつて使われていた料理用エレベーターがスイートルームのクロゼット奥にあることを発見。しかも、そこには急いでいた犯人が残したと考えられる衣服の切れ端が残っていた。それに、墓石愛好会のメンバにはそれぞれ何らかの不審ごとを抱えている。殺された女性の同伴男性は、愛好会メンバーである女性企業家出資者で、殺された女性はその会社の従業員だという。職場内での諍いかとも域や、企業家は被害者の姉だった。しかも、被害者が働きだす前にそのポストに就いていたのが同伴男性の前妻。どうも被害者が前妻の仕事を奪っただけではなく、愛人の地位も得たらしい。そんなこんなで関係者全員が犯人であってもおかしくない状況の中、事件にかかわりなさそうな老婦人2名のうちの1名が犯人であることが判明。はるか昔、大学時代に論文の課題テーマを盗まれた恨みを晴らすべく犯行に及んだのだった。被害者の同伴男性がその女性から研究テーマを盗み、それ以来学会で出世街道を幕臣。盗まれた女性はさえない高校教師として長年勤めていたのだが、夫に去られる事件からすべての不幸の始まりであった研究テーマ盗用を許せなくなり、今更ながらだが復讐の鉄槌を下した。殺された女性は、不法労働者が雇用することで会社の金を着服し、それを上司である経営者の夫に貢いでいたと言うドロドロの関係が明かされるのだった。

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20世紀初頭にアメリカ大富豪が建てた屋敷を改装して営業しているブティックホテルがテネシー州の東南部のチャタヌーガーにある。古き良き時代の南部を思わせる佇まいに魅せられたオーナーは、富豪一族が残した1911年撮影の写真の通りの装いとマナーとを従業員にさせることで時代趣味を徹底させている。フロントデスクの上には1911年の新聞が毎日印刷されて置かれている。そして、「ホテル1911」というのがこのホテルの名前。このホテルのフロント係として働いている28歳女性、アイヴィー・ニクルズがこのシリーズの主役。第1話は『新米フロント係、探偵になる』。アイヴィーはパニック障害を抱えているために大学を休学せざるをえなくなり、ホテルで働いている今でも、いつ発作が起きるかどうかを心配しながら綱渡りのような日々をおくっているという28歳だが、実はこのホテルを建てた富豪モロー家の末裔。自らのルーツであるこの屋敷を改装したホテルで働けることを誇りとしつつ、幼き頃に失踪した母の面影をホテルにだぶらせている。そんなアイヴィーが働いていた週末に、甲殻類アレルギーを持つ老婦人が食事中に死亡すると言う事故がおきる。警察が調査したところ、アナフィラキシーショックであることが分かり、有能シェフは拘留されてしまう。アイヴィーにとって幼馴染で、心理的に不安定なアイヴィーが心から信頼できる数少ない友人の一人を救うために、素人探偵として事件究明を心に誓うアイヴィー。当然のこととして、その日の宿泊者全員が容疑者候補。フロント係という立場を利用して部屋に出入りして、怪しい品々を探し出す。殺された老婦人は食品会社のオーナー社長で、いい年をしている一人息子を差し置いて今でも社業を取り仕切っている。夕食テーブルで被害者ときつい言葉のやり取りをしたもう一人の老婦人ローズも訳ありげで怪しい。一見非の打ちどころがなさそうな完璧マナーの一家4人家族、一人で滞在している実業家のヘマル、もちろん被害者の一人息子ジェフリーも遺産相続を考えると重要な容疑者だ。見つけた怪しい点を警察に届けるものの、警察はアレルギーが原因であることからシェフの有罪を信じてこれ以上の捜査をしてくれそうもない。捜査に一層の熱が入るアイヴィー。ジェフリーが郊外に土地を購入し、そこで違法なことをやっていることを見つけるアイヴィー。土地購入の取引を承認するかどうか決めるために被害者がわざわざシカゴから南部の街へ来ていた最中の事故である以上、土地購入を邪魔されたくない息子の容疑が濃くなる。そしてその近隣の土地を高級住宅地として開発して販売しようと計画しているヘマルにとって、ジェフリーの動物飼育施設は邪魔もの以外の何物でもない。ここに怪しい。その上、もう一人の老婦人ローズはジェフリーと恋仲のようだ。結婚に反対する母親に消えてもらうことができれば好都合。こんな風に、アイヴィーは次々と怪しい点を見つけていくのだが、これらは妄想と紙一重といってもいいくらい。ここにパニック障害という心の病を抱える主人というキャラクターがダブってくる。真犯人はホテルに出入りしている野菜製造所の従業員。ジェフリーの動物飼育施設によりオーガニック野菜栽培が不可能となる大打撃をこうむる農場経営者に恋している従業員が、海老のエキスを吸わせたじゃがいもをホテルに届けて調理させたというトリックだった。
妄想と紙一重の推理、そして大袈裟な譬えがこのシリーズの特徴と見える。例えば、
いっぽうジェフリー・スウェインは表面がでかってすり減ったタイヤのようだ。
ジョージはラクダ並みの辛抱強さと六人の子を持つシングルマザーの野心を兼ね備えている。
ボタンをとめ、一点の曇りもなく清潔で、おそらく手の込んだマスタードを食べている類の子供たちだ。
わたしは午前10時にツートンカラーのナメクジのようにベッドから這い出した。


分からなくはないが、イメージを思い浮かべるのに苦労する比喩であることが多い。その上、ユング心理学に多大な興味を有し大学で心理学を学んでいた人物として、ユング心理学をところどころにちりばめている。
ミズ・スウェインのふくれあがった自尊心と特別扱いへの期待について考えた。カール・ユングなら典型的なナルシシズムと言うだろう

ローズは殺された老婦人の息子と恋仲なのではなく、殺された老婦人と女学校時代からの友人であり恋仲だったと告白する。二人の恋は実らず、ローズは恋を心の奥底にひそめたまま独身を貫いたが、アメリアの方は結婚して子供を作った。2人の生き方をローズはこう言う。
「わたしは社会に背いた。アメリアは自分の心に背いた」


コージーミステリを読み耽る愉しみ その26 死ぬまでにやりたいことリスト(エリザベス・ベローナ著)

2024年01月04日 | 読書雑感
『恋人たちの橋は炎上中!』というのが第2話の題名。死ぬまでにやりたいことリストの完成に向けて努力中の仲良し5人組みの今回のテーマは「セクシーは写真を撮る」というもの。大昔にフランシーンの曾祖母が馬車の御者と身分違いの恋に落ちたという物語をもった地元の古い屋根付き橋で撮影をしていたところ、突然銃声が聞こえる。男が一人現れたかと思ったら倒れて河の中へ落ちる。助け起こしてみるとフランシーンの遠い親戚の男だと分かる。一体何をしていたのか、そして銃を撃ったのは誰か?ジョイはTVレポーターとして活躍しているし、メアリー・ルースはケータリング事業が上手くいって地元の物産展に出品中。物産展を手伝いがてら古い橋でピンナップ写真を撮っていたのであった。橋のすぐ近くに広がる広大な土地は、昔薬草から作った薬で莫大な富を築いた男のもので、男が稼いだお宝が土地に埋められているという噂をまことしやかに囁かれている。いまでもその噂を信じて土地に入り込む輩がいるらしい。フランシーンの遠い親戚もその一人なのか。ならば銃撃したのは土地所有者なのか。親戚の男は狙撃されていたわけではなかったが修養されていた病院で死んでしまう。狙撃に続いて起こったことは、写真撮影に使った由緒ある古い屋根付き橋が放火されてしまう。これもジョイがレポーターとして全国に伝えた最中にフランシーンのセクシー写真が世に出てしまう。前回のプールに落ちたサンドレス姿のフランシーンの写真も再び人々の記憶に甦る。親戚の一人が死に大事な思い出の橋が燃やされてしまったフランシーンを助けようと親友のシャーロットが今回も探偵役を引き受ける。メアリー・ルースの手伝いもそこそこに二人は情報収集に勤しむ。偶然に謎の土地所有者と知り合い招待される5人。在来植物を育てる温室を見せられている間に男の家が燃え出して男は行方不明に。これも全国へ中継することに成功したジョイはTVレポーターとしてキャリアを積み上げていく。死んだ親戚の男がポケットに入れていた液体入りの瓶、そして似たような瓶を男の妻も持っており、しかも男の車のトランクにも大きな瓶が入っていたことを見つけたフランシーンとシャーロット。瓶に入っていた液こそがその昔、莫大な富を生み出した薬として売られていた液体だった。しかもその液体は土地の一部にしか湧き出さない命の水で、これを飲んでいた土地所有者と親戚の男が経営する老人ホームに入っていた老女は、その昔に身分違いの恋をしたフランシーンの曾祖母と御者であったというのだから驚き。秘密を知っていて水を飲み続けていた二人は100年を超える年月を生きていたことになるという摩訶不思議な落ちがある物語だった。

このシリーズの2作目の途中まで読み進めた時に突然にわかったことは、このシリーズは5人のキャラクターの描き分けにこそ愉しみがあるということ。ガサツで思い込みが深く身勝手なシャーロットと上品で良識と嗜みがあるフランシーンを両極端な人物として設定され、お人よしで料理上手なメアリー・ルース、TVレポーターとしての才能を開花させて輝きだすジョイ、第1作の事件の影をいまだに引きずっているアリスの3人はシャーロットとフランシーンの中間に置かれている。それぞれがやりたいことリストを持っている5人のキャラクターの違いは、「私」や「あたし」、語尾の違いや表現の丁寧さやガサツを通して描き分けられている。ここに気付くのが遅かったとはいえ、読み込む愉しみが発見できたことはいいことだった。

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ブリッジが縁持つ仲良し5人組み。いずれも70歳を超えるシルバー世代の元気なお婆ちゃまがただが、彼女たちが夜更けに集まってやっていたことは真っ裸で泳ぐこと。5人組みの一人、ジョイが”死ぬまでにやりたいことリスト”の10番目に挙げていたことがこれで、後の4人もそれに倣って夜更けのシルバー世代パーティに参加したのはいいが、誰もが自分の体形に自信が持てないためにプールに入れない。メンバーの一人でケータリング事業をやっているメアリー・ルースが異様な匂いに気付く。匂いの元は、プール小屋に隠されていた死体だった。はかならずも死体の第一発見者となってしまった5人は警察の事情聴取を受ける。全裸のままで泳ぐために集まっていたことが世間に広まり、全米ネットワークABCまでニュース番組に取り上げる始末。テレビに出ることをリストに挙げていたジョイは大喜び。早速メディアコンサルタントを雇うが、主人公のフランシーヌにとっては面倒極まりない。地元のレストランにランチに出かけたところ、あちこちのテーブルからスマホで撮影されるほどの注目を集める存在になっている。死体は地元のカーメカニックの男で、プールのある自宅を持つアリスの夫と訳ありな関係らしい。仕事の都合でラズベガスへ行っていたはずの夫が、実は予定を早めて帰っており、殺人当日のアリバイがない。親友の窮地にフランシーヌとシャーロットは事件究明に乗り出す。幸い、担当の警察官は幼い時から二人がよく知っていたものだから文句も言えない。年くっていることがプラスに働く。警察官が逆らえない素人探偵団なんて設定は今までのコージーミステリではなかった。ミステリー小説が愛読者だというレベルの二人がドタバタの捜査を始めるや、新たな証拠が次々に都合よく見つかる。メンバー5人はそれぞれの”やりたいことリスト”があるから行動はバラバラなのだが、それでも都合よくそれぞれが何らかの役割を果たせる。犯人はアリスの家に隣に住む迷惑女のダーラ・バッゲセン。クーガー女のダーラはカーメカニックの被害者と火遊びの関係だったが、娘のレースカーのメカニックとして体よく使えると考えたダーラが欲と得の二重取りから仕掛けた罠だった。それに気付いて関係を終わらせたかったメカニックを殺して、日ごろから癪な存在であったアリスのプール小屋に死体を隠して知らん顔を決め込んでいたのが事の真相。事件を解決することw”やりたいことリスト”に挙げていたシャーロットは目出度く望みを果たすことができ、親友のお役にたてたフランシーヌも嬉しいかぎり。

「あのケーキには中毒性がありますよね。秘密の材料は何ですか?まさかコカインとか?」
ケータリング業者のメアリー・ルースが造るチョコレートケーキがあまりに美味しいものだから、彼女のダイエット指導を行うことになったジムのインストラクターがポロっともらした台詞。

「あの子とは経済のクラスがいっしょなんです」
「うん、経済ね。需要と供給か。あの子が必要としているものをあんたはちゃんと供給できてるかい?」

年を取った特権の一つは、暴言が許されること、マイルドなものであれば。女の子に「供給できているかい?」と訊くなんて、若いものならできない。〇〇ハラと言われてしまうが、年寄りならば多少の暴言も許される。経済から需要と供給をひねり出し、それを男女関係に当てはめるなんて小憎らしい

コージーミステリを読み耽る愉しみ その27 お騒がせレポーター・シリーズ(スパークル・ヘイター著)

2024年01月04日 | 読書雑感
第2話は『ボンデージ!』と俄然刺激的なタイトルになる。しかも、表紙の絵は腰に銃を置いてシースルーな服を着た美女が赤毛をなびかせている。今回の取材対象がSMクラブというのだから、タイトルも表紙絵も理解できるというもの。そんなお騒がせレポーターのロビンの周りで働く男性社員が狙撃されるという事件が起きる。最初の被害者は、同じ建物内で開業する婦人科医師。ロビンが定期健診に訪れる予定であった時刻に殺されていた。ロビンには医師側からのキャンセル連絡が突然入っていた時刻だった。死体の傍にSMクラブのマッチが捨てられており、バツ2にイケメン医師の素行があぶりだされる。数々の女性と火遊びをしていた上にSMクラブの常連だったのか。状況証拠が示すとおりの姿を取材して扇動的なニュースにするように上司から指示されたものの、ロビンには違和感がある。それでも経営的問題から首切りが行われそうな社内の雰囲気を考慮したロビンは大嫌いな上司に逆らうことなく取材へと赴く。SMクラブ主宰の女王様の態度に嫌悪感を感じるとともに演技っぽさも感じるロビン。そうしているうちにロビンと仕事で関係する男性社員が何者かに狙撃される事件が相次ぐ。狙撃されたニュースキャスターたちは、放送内でロビンがとんでもない女で深い関係がないと身の潔白を訴えだす。ますます評判が地に落ちるロビンだった、住んでいるアパート近隣でロビンを訪ねてきた男が銃殺される事件が起きる。名前も顔も全くの記憶がない男なのに何の用でロビンに会いに来たのか?何らかの情報を渡しにきたのではないかとにらんだロビンは、医師殺害事件とこの男を結びつけて考える。銃撃の犯人はロビンが働く放送局の保安担当者で、精神病院に入っていた時期からTVに登場するロビンに一方的に入れあげていた男だった。そんな精神異常者がロビンの周りをうろつく男たちを排除しようとして事件に及んでいた。最後の最後でこの男に囚われたロビンはボンデージ姿で監禁されてしまう。しかも大嫌いなモーおばさんと一緒に。犯人の一瞬の油断をついた二人は逃げ出し、追いかけてきた男はNY市内の韓国人が経営する店で射殺されて一件落着という今回もハチャメチャもロビンの行動記録でした。小説として読んでいるのであれあ「面白いね」で済むが、もしこんな女と一緒に働くとなると気が変になりそうなくらいに自己中心的で思い込みが先行する女性レポーター。

まだほんの37歳だけど、業界では高齢。テレビの世界では、人は犬並みに年を食う
ドッグイヤーという単語がITの世界から飛び出して20年くらい経つだろうか。今ではITに限らない世界で使われるようになってしまった。

「”男に仮面をつければ、祖も男の本性が見える”と言ったのはオスカー・ワイルド。”女の手に鞭を持たせたら、その女の本性が見える”これはわたしのこと」
「愛とセックスと痛みと罰はすべて、堅く結びついているの」

どちらもSMクラブ主宰の女王様の御言葉。オスカー・ワイルドが本当にこんな台詞を吐いたかどうかは知らないが、著名作家の警句を引用しながら自分なりの変形を付け加えるというのも中々のレトリック技だと思う。

わたしたちが興味を引かれるのは、おふたりの関係の哲学的側面ですから
女王様から実演を見せようかと言われた時にロビンが断りとして口にした台詞。哲学的側面と言って婉曲に断るところに知性の断片が見えるのです。

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『トレンチコートに赤い髪』という題名から、ボガードを女にしたようなハードボイルドな探偵ものかと思ったところ、あにはからんや主人公のTVレポーターはステファニー・プラムばりのドタバタ喜劇的な行動がジェットコースターのように続くミステリだった。NYのニュース専門TVチャンネルANN(CNNのもじりだろう)で働く主人公のロビン・ハドソンは、折角掴んだ絶好のチャンスであるワシントンDCでの定例記者会見の場で、小さな音も拾う精巧なマイクの前で盛大なげっぷをするは、死んだ仲間の肉を食べることで極限状態をかろうじて生き延びた生還者に対して「どんな味がしましたか?」などと場と空気をわきまえない質問をしてしまうは、TVレポーターから降格されて社内のシベリア送りと言われる部署へと転属されている。夫だったイケメン男は、社内の若い美人と再婚すべくロビンの元を去っている。アパートの階下に住んでいる老女は、使用している補聴器の音量調節が下手なので、ロビンがいつも乱痴気パーティーを開いている淫売女と思い込み、会えば必ず携えているステッキでロビンに殴りかかる始末。そんな不幸の塊のような35歳女性のロビンが恐喝にあう。初体験の相手から過去にやった諸々の人には言えないことをネタに恐喝してくる男が出てくる。時は年末、社内の大晦日パーティの場で恐喝者からホテルの部屋に来るようにメモを渡され、行きたくはないが行かざるをえない状況の中で部屋を訪れたものの、ノックしても返事がない。これ幸いと家に帰ったところ、翌日その部屋で恐喝者であった私立探偵は惨殺死体となって発見された。当然警察から事情聴取されるための連行されるロビンが警察署から一足外に出ると、各社のTVレポーターがロビンに群がり遠慮もなしにカメラやマイクを突き出してくる。映像はTVニュースに流れるばかりではない。ぶらりと寄った新聞売りスタンドで新聞を買おうとしたところ売り子からは代金不要と言われる。各紙の一面にロビンの顔写真入り報道記事が出ていることに同情したのか恐れたのかは分からないが。こうして、追う側が追われる側に転落。ニュースをゴシップなみに扱っているアメリカ社会への風刺を織り込んでいきながら、名誉挽回のためにロビンは殺された私立探偵のことを調べだす。恐喝されていたのは自分でけではなかった。社内の複数の人間は恐喝の餌食となっており、ANNは社員に「芳しくない過去」を自主的に申し立てるようにメモを回す。有名レポーターは自分の過去が暴かれる前にカメラの前で次々にカミングアウトして、ニュース専門TVは世間のニュースを追わずに社内の芳しくない過去を他局のネタとして提供するという見苦しい日を送る。恐喝されていたのは元上司のグレッグと一緒に働いていた社員ばかりであることを突き止めたロビンは調査の網を狭めていくが、そんな中肝心のグレッグがあられもない姿で殺されているのが発見される。しかも死体の局部に固定されていたのはロビンのティーザー銃。結局のところ、一連の犯人は夫の婚約者の若い女性レポーターのエイミーだった。過去の元上司のグレッグとの情事のみならず中絶手術のことをネタに恐喝されていたエイミーが犯行に及び、恐喝者を雇っていたグレッグも殺した上に、これらをロビンの擦り付けようと画策していた。窮地を気まぐれな飼い猫に救われたロビンが隠しカメラで撮っていた映像が証拠となり犯人は逮捕。ロビンは事件解決に大いに協力できて万々歳。それにしても登場人物が多すぎて、誰が誰だか確認しながら読み進めるのは骨がおれた

優秀な学者は人を救い、しれができない」学者は人に教え、それもできない学者はテレビ界で働くってこと
放送枠を持っている心理学博士を評価してのロビンの辛辣コメント。他人をリスペクトせずに批判的な立場をとることでアイデンティティを確保しようとするアメリカ人ならでは態度が出ている

女はおっぱいを運ぶ乗り物でしかないって信じている男
巨乳好きのエロ上司のお頭の程度を言い表すロビン流の一口コメントだ。

「血の匂いを嗅ぎつけたら最後、ピラニアみたいに獲物に殺到して食い尽くすのよ。出版の自由万歳。そんなこと言ってられるのも、追われる立場になるまでだわ」
いつもは人の不幸を追いかけているレポーターが一転追われる立場になった、そんな瞬間を経験したからこそこんな台詞を口にできるのだろう。でも、翌日になれば綺麗さっぱりわすれて人の不幸を追いかけ続けるのだろうが。

フロイトはなんと言うだろうか?
女性蔑視的な発言をするレポータについて述べる時に、ポロリと落ちていた一言。学の深みを感じさせるネタとして使われるなんてフロイトは墓場でどう思っているのだろうか?

「どうして私と結婚したの?仲間を救うために手榴弾に身を投げ出す男の心境だったとか?(中略)断崖絶壁の縁に立って、深い谷底を見下ろしているうちに、ついに飛び降りたくなる男の心境?」
「堕ちるスリルだよ。どんどん君を愛し始めた時期は、ぼくの人生に最良のときだった。でも、堅い地面に激突するのは時間の問題だった」

自分の元を去っていった夫の会話。ロビンがハチャメチャな人生をおくっていることを再確認させるとともに、それを好きになった男の哀れさも醸し出しながら結局は二人ともいい人間にしてしまっている

愛ってあまり信用していないの。わたしの人生は、共犯者を求める終わりなき旅かも
社内のイケメン男、エリックに言い寄られて彼のアパートでワインを飲みながらロビンがこんな台詞を吐く。自身が自分のハチャメチャな人生や行動、性格をよく理解しているってことを読者に知らしめ、そんなダメな自分を愛するロビンを嫌いにさせないような作者なりの工夫かな。

『語彙力を鍛える』 (石黒圭著)

2023年12月04日 | 読書雑感
人間の思考力を規定するのは言語力であり、言語力の基礎になるの部分は語彙力に支えられています。

語彙力=語彙の量(豊富な語彙知識)×語彙の質(精度の高い語彙運用)

語は内容語と機能後に分けて考えるのが一般的です。内容語は、名詞・動詞・形容詞など、実質的な意味を持つ語であり、日本語の場合漢字やカタカナで表されることが多い語です。一方、機能語は、助詞・助動詞・恩動詞・接続詞など、文法的な機能を持つ語であり、平仮名で表されることが多い語になります内容語を扱う能力は語彙力と呼ばれ、機能語を扱う能力は文法力と呼ばれます。語彙力と文法力は車の両輪であり、この二つがそろって初めて、スムーズな言語運用が可能になります。

よい言葉を見つけるのはなかなか難しい作業ですが、使っている言葉がしっくりしないと直感的に感じたら、それに優る言葉をあれこれ模索することが必要です。

和語のなかの漢字一字を意識して二字漢語を作ると、書き言葉にふさわしい語彙に変更できます。(例:人付き合い⇒人間関係、世の中⇒世間、木⇒樹木)

■語彙の「質」11の観点
誤用:今時銀行に虎の子を預けても、たいして金利(⇒利息)はつかない
重複:手元にあると管理が不安なので、銀行に預金を預けてある(⇒預金してある)
不足:一度申請しておくと、定期(⇒定期預金)を自動で積み立てることもできる
連語の相性:ながらく放置してある銀行口座をやめる(⇒解約する)方法を知りたい
語感のズレ:急激なインフレによる預金額の目減りが期待(⇒懸念)される
語の置き換え:サック実友人に頼んで、1万円札(⇒諭吉先生)を2枚借りた
語の社会性:一店舗あたりの銀行員と女子行員(⇒銀行員)の数が減りつつある
多義語のあいまいさ:インフルの治療費は医療保険(⇒民間の医療保険)の保障対象外だ
異なる立場;個人投資家の投資は、時として大胆(⇒無謀)だ
語の感性:いくら稼いでも、税金をがっぽり(⇒ごっそり)持っていかれる
相手の気持ち:(申し訳ありませんが)規定により、中途解約には応じかねます(⇒応じられません)
心に届く言葉:擦り切れることのない財布を作り、尽きることのないと見を点に積みなさい

単純な動詞を使うと、それだけでは力が弱く感じられることがあります。そうしたときは、その動詞の意味に含まれる名詞、特に身体名詞を使った組み合わせにすると、読み手にたいする印象が強まります(例:見る⇒目にする/目に触れる、聞く⇒耳にする/耳を傾ける、行く⇒足を運ぶ/足を動かす)

対立する言葉を並べ、打ち消しながら進む展開のなかで、言葉は力を帯びてきます(例:『「時間やねぎらいの言葉」はなく「やめないでという思い」、「寂しい」ではなく「悲しい」』)