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好きなことを好きなだけ楽しみたい欲張り人間の雑記帖

ホテルを愉しむ 京都編

2022年11月30日 | ホテルを愉しむ
■ 京都プラザホテル京都駅南
京都駅八条東口より徒歩10分・市営地下鉄九条駅より徒歩3分の場所で、多少は歩くけれどもまあまあの場所。朝食付きの宿泊を選んだのだが、ワンコイン(500円)にしてはメニューは揃っていた。ゆで卵があったので、潰してマヨネーズで敢えてロールパンにはさんだ卵サンドをランチ用に作った。晩御飯は出さないが、白飯と味噌汁の無料サービスがある。近場で総菜を買ってきて食べるには重宝した。
  朝食:☆☆☆(500円にしては)
  風呂:☆☆(部屋のユニットバスのみ)
  ロケーション:☆☆
  サービス全般:☆☆☆

■ グリーンリッチホテル京都駅南(人工温泉 二股湯の華)
市営地下鉄九条駅をはさんで京都プラザホテル京都駅南とは逆方向。朝食は含まれない料金だったが、別途つけると1500円。朝食は食べずに水の給水のみを頼んだところ、食堂の係員に断られた。たかが水程度で断るとはサービスが悪い。また、大浴場はあるものの、給水設備や化粧水の準備もなく、ただ泊まらせるだけに特化したビジネスホテルと見受けられた。
  朝食:(利用しなかったため不明)
  風呂:☆☆☆(人口温泉)
  ロケーション:☆☆
  サービス全般:☆☆

■ sequence KYOTO GOJO
2020年8月7日にオープンしたばかりのこ洒落たホテル。場所は五条烏丸、地下鉄駅から歩いて3分くらい。近隣には吉野家やマクドナルドを始め、いくつかの定食屋あるために食べ物には困らない。地下一階には大浴場とスチームサウナがあるのだが、男女で交互に大浴場利用日とサウナ利用日が振り分けられる。つまり、大浴場を使えるのは二日に一回でしかない。部屋にはシャワールームしかなく、旅の疲れをとるにはやはり湯舟が必要でしょう。部屋に大画面TVが設置されておらずタブレットでTV視聴することは許せるとしても、湯舟は許せない。それに浴室が寒くて、入浴を楽しむことができない。このホテルの経営者は自分でここの宿泊したことがあるのか?と訊きたいくらいに、泊り客目線での寛ぎが軽視されている。コンセプト倒れで残念なホテル。
  朝食:(利用しなかったため不明)
  風呂:☆☆
  ロケーション:☆☆☆
  サービス全般:☆☆


■ ロイヤルツインホテル京都八条口
京都八条口(駅南側)から歩いてほんの2・3分程度の近距離にある立地良いホテル。旅の疲れをきれいさっぱり癒してくれる内風呂と外風呂の2種類の大浴場、そしてサウナまでついている。大浴場の洗面スペースには化粧水とヘアトニックはあったものの、できればスキンクリームまたはスキンミルク系も置いてあればもっと良かったのに。

ベッドもシモンズ社製のオリジナルマットレスで寝心地はよかった。朝食も和洋バイキングで野菜とフルーツもあって充実していた。ごく近所に三交イン京都八条口<雅>~四季乃湯~があって、どちらを贔屓にするかは迷うところです。
  朝食:☆☆☆
  風呂:☆☆☆☆
  ロケーション:☆☆☆☆
  サービス全般:☆☆☆


■ 京都ユニバーサルホテル烏丸
京都駅南側、九条にあるホテル。隣にコンビニあり。ビジネスホテルというよりも、中古の大規模マンションをホテルに改装したような印象を受けるホテル。無料の朝食と夕食が付いているが、無料なだけあって内容も貧弱。私が宿泊した夜は、鰺フライ定食かカレー定食を選べる内容で、バイキングはサラダバーのみ。

風呂は地下一階に大浴場があり、サウナがついているものの4人入れば窮屈なサイズで、しかも水風呂がないという中途半端さ。不潔なわけではありませんが、清潔感という点では疑問符がつくホテルでした。
  部屋:☆☆
  朝食:☆☆
  風呂:☆☆
  ロケーション:☆☆
  サービス全般:☆☆☆


■ 三交イン京都八条口<雅>~四季乃湯~
9月14日にオープンしたばかりの京都八条口(駅南側)すぐのところにある真新しいホテル。オープニングキャンペーンで2500円にて素泊まり宿泊してきました。

オープニング直後なので清潔感は抜群。風呂は天然温泉ではありませんが、光明石(医薬部外品)を使った人工温泉です。この光明石は、自然界に存在する天然鉱石のなかで最もイオン化作用の強いとされる薬石であるとのことです。

入り口受付横に枕バーがあり、好みの素材の枕を選べる他、スキンケア用の備品を自由に使えるのが嬉しい。
  部屋:☆☆☆
  朝食:(利用しなかったため不明)
  風呂:☆☆☆
  ロケーション:☆☆☆☆
  サービス全般:☆☆☆


■アリストンホテル京都十条
京都駅の南側、地下鉄の烏丸線に乗って2駅目の十条にある6階建ての小ぶりなホテル。朝食時に周りを見ると、米国人と中国人が大半で、日本人は半分もいなかった。

駅北に多く集まっている神社仏閣を観光するにはちょっと不便なロケーション。伏見稲荷大社には近いことがロケーションの便かな。折角だから宇治まで足を伸ばしたのだが、宇治に行くにも一度京都駅に戻って快速を使った方が早く、地の利はあまりないのが残念。

利用したのはツイン部屋でしたが(一人の宿泊)、2つのベッドが部屋のほとんどを占めており、窓のカーテンの開け閉めも片側のベッドに乗ってやるほど。狭いかと言えば、ビジネスホテル程度の広さだから文句はない。ユニットバスだから足は伸ばせないが、でも通常のユニットバスよりは心持ち広い。寝転がって足を風呂の縁に載せかけて、がんばって歩いた足を休めることが出来る程度には広さがある。

ここの良さは朝食ですね。京都のおばんざいや鯖寿司、出し巻き卵とハムのサンドイッチなど、京都ならでは食材とメニューがバイキングで自由に愉しめる。青汁もありました。ジュース類と牛乳が冷蔵ガラスケースの中においてあるのも気が利いている。
  部屋:☆☆
  朝食:☆☆☆☆
  風呂:☆☆
  ロケーション:☆☆
  サービス全般:☆☆☆

■ アーバイン京都 河原町通
出張ついでに京都に寄ろう!と思い立って京都駅前で手頃な料金の宿泊を探していたら行き当たった。京都駅の北口から歩いて15分のはずなのに、周辺をぐるぐると探し回ってしまった。ホテルである以上、目立つ看板が出ているはず、と看板目当てに歩いたのだが、こんな外観だったので見つけるのに一苦労しました。

部屋がスタンダードダブルで12平米の広さ。帰って寝るだけと思えば、この広さでもOKだが、いかさないのがユニットバスの狭さ。足が伸ばせない。大浴場もないので、ユニットバスで我慢するしかない。

朝食は地下1階でいただくが、バイキング方式ではなく、プレートにオムレツやキッシュなどが盛られている。サラダはバイキング、パンも好きだけ食べられるのだが、おかずなしではきついよね。
  部屋:☆☆
  朝食:☆
  風呂:☆☆
  ロケーション:☆☆
  サービス全般:☆

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コージーミステリを読み耽る愉しみ その22 バブルズ・ヤブロンスキー(サラ・ストロマイヤー著)

2022年11月09日 | 小旅行を愉しむ
バツイチで子持ち(毎日髪の色が変わる高校生)の34歳美容師のバブルズが、自らの生活を変えようとコミュニティカレッジでジャーナリストの講座を取る。美容師として客の噂話に耳を傾けることが第二の天性となっているバブルズにとって、ゴシップ集めは大好物であり得意技。橋から身投げしようとした高校教師の取材で現場に潜り込んだところ、かつて物理を教えてくれた教師であることがわかり体を張って自殺を思いとどまらせる。この時に一緒に組んだカメラマン、スティレットがメグ・ギブソンばりのいい男だったので心はメロメロ。だが、今までの性生活から学んだ経験からしっかりと股は閉じたままにしておく。

事件解決した直後に母親がバスの乗っ取り事件を起こしたと聞いて現場にスティレットと急行する途中、早道として通った公園の中で人が死んでいるのを発見。側にあったレンジローバーに乗っていたのは地元有力者の若い妻。酒か薬でへべれけになっている。証拠写真のフイルムを渡してスティレットはズらかってしまう。地元警察との関係を考慮してのこと。残されたバブルズはヒールが道の割れ目に入ったかなにかで倒れて気絶。気付いたたら、手にしていた携帯電話と証拠写真フイルムがなくなっている。新聞社に戻ったバブルズは今見てきたばかりの事件を記事にする。地元有力者の妻を名指しで殺人と結びつけ、警察官の言葉を拡大解釈して台スクープに。翌日、有力者から訴訟すると脅された編集主幹から呼び出され事実確認をされたものの、証拠がない。新聞社は日和って謝罪記事を出し、その中で記者ノバブルズはボロクソに言われてしまう。自身も訴えられるおそれもある中、自分に掛かった汚名を晴らすためにバブルズは事件の渦中に飛び込んでいく。母親のルールーはぶっ飛んだ行動をするし、母親の同居人のジュヌヴィエーヴは傭兵も顔負けするくらいの戦闘オタク。家の警備のために有刺鉄線を張りめぐらし、廊下には小豆をばらまき、窓に乾燥豆とポテトのブービートラップを仕掛けてバブルズを守ろうとする二人。

母親と同居人、美容室の経営者、娘に助けられながらバブルズは事件の真相にグイグイと迫っていく。そこへ地元有力者が雇った殺し屋がバブルzを狙う。いつも寸前のところでスティレットが現れて命を取り留める。二人の関係に疑問を持ちつつ、遮二無二渦中へ飛び込み続けるバブルズ。そして、10年前の高校生チアガール自殺事件も字図からが信じていたように他殺であり、今回の事件とつながっていることをつかみ出す。そして汚名返上するのみならず記者としての実力もいかんなく見せつけて無事に美容師の職へと戻っていく。記者はあくまでも趣味としてやるだけと宣言。

作者のサラ・ストロマイヤーは、ジャネット・イヴァノビッチから励ましを受けてこの処女作を仕上げたと後書きにあったが、主人公ノバブルズはイヴァノビッチが書くステファニー・プラムにそっくり。素人ゆえのハチャメチャな行動、回りのやっかむくらいの男前でプレイボーイ(らしい)のスティレットからは深く好奇心を超えた複雑な心情を持たれている。そして、自ら墓穴を掘ったようにでいながら最後はしっかりと宝物を掘り当てるというラッキーさ。このシリーズは7作まで出版されていることがウィキペディアに出ていたが日本ではこの1冊のみのようなのが悔やまれる。

   ☆★☆★☆★☆★☆★

女装したゴジラでも見るような目でわたしを見つめていた。
天然素材にはアレルギーを持っているバブルズが好む服装はストレッチ・チューブトップとホットパンツ。髪は美容師として盛り上げており、化粧もばっちり。そんな恰好で事件現場に行ったがために、警官からこんな目で見つめられてしまう結果に。

わたしはタバスコにどっぷりつかった赤唐辛子よりも過激な女なのだ。
自分で自分を形容したことば。前後を考えないめちゃくちゃな行動が可愛く見えてしまう。

「いったい全体、あれは何だ。おっぱいのついたシャーマン戦車か?」
バブルズを助けに地元有力者邸に忍び込んだ完全武装のジュヌヴィエーヴを見て発せられた言葉。気取っていた名士も一皮むけば品のない男であることが暴露される台詞だ。
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コージーミステリを読み耽る愉しみ その20 お茶と探偵シリーズ(ローラ・チャイルズ著)

2022年11月06日 | パルプ小説を愉しむ
シリーズ第19話『セイロン・ティーは港町の事件』では、ティモシーの自宅豪邸で開催された大型帆船を見るパーティの席上で殺人が起きた。参加者の一人でヘリテッジ協会の理事の一人がクロスボウで矢を射られた結果建物3階から落下して死亡。しかも、フェンスの上にある錬鉄のとがった飾りに突き刺されると言うショッキングな事件現場が第1章から登場した。お隣のB&Bの最上階に怪しい人影を見たセオドシアは勇敢にもB&Bに走り込むが誰も見つからない。いつものようにティモシーから事件解明を依頼されるセオドシアは深みにはまっていく。泥沼の離婚訴訟を起こしてた妻、妻から愛人と指摘された職場の同僚女性、故人から怪しい融資を受けていた実業家、故人が寄付した古銃器反発する銃規制強硬派の人間などなどがいつもどおりに怪しい人間として登場する。

シリーズが進むうちに、セオドシアの調査進行とともにセオドシアの周辺で異様な事故が起きるようになっている。今回は、深夜のジョギングの途中に怪しい人物、調査途中に車をぶつけられたり、ヘイリーの従兄が車にはねられるという実害も発生。事件究明に挑むセオドシアに緊迫感が漂うようになってきている。

話の中に、セオドシアと同じ一画に日本アンティーク品を扱う店を開いたアレクシアという魅力的な女性が登場する。登場の仕方がさりげないこと、物語への関与があっさりしていること、セオドシアやドレイトンなど常連メンバーとのつながりがないことなどから、個人的には怪しい人物と思っていたら、案の定彼女が犯人だった。不正な融資を故人から受けたのみならず、同業者を殺して商品を手に入れた疑惑も残っている人物。日本アンティークを扱う店が今後も登場するようになればいいなと思っていたのに残念でした。

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15・16・17話はすでに読了しているので18話『オレンジ・ペコの奇妙なお茶会』へ。地元に新規オープンする豪華スパの経営者が自宅パーティの席上で毒を注入されて殺される事件が発生し、今回も事件現場に居合わせたセオドシア。事件が起きたパーティは、ネズミのお茶会として催され、給仕役は全員ネズミに扮しているという奇妙なお茶会だった。被害者の妻がヘリティッジ協会への高額寄付を考えていたために、協会の理事を勤めるドレイトンからのたっての願いで事件の調査を始める。今回も出てくる、出てくる怪しい人物が。被害者と一緒にスパを共同経営していた人物に横領という疑惑と一緒に人格的な問題がありそう。広報を請け負っていた個人事業主は自分を売り込むので躍起。共同経営者から資金援助(と生活援助も?)を受けていたオーガニック化粧品企業家女性も怪しい。被害者の隣でB&Bを営んでいる夫婦は、事件を契機に豪華邸宅を買い取ってB&Bの規模を一気に大きくしようと邸宅を手放すように妻に異常に接近。被害者から出資を受けていた怪しい投資会社の経営者には、SECが目をつけているらしい。そして、金持ちの未亡人は金遣いがあらかった亡父のことをどう思っていたのか?いろいろな疑惑が渦巻く中、常連のティドウェル刑事が研修で不在にしているためにビート・ライリーという新顔の刑事が登場する。この掲示がセオドシアに興味を示し、セオドシアも嫌がっているようでありながらもまんざらでもなさそう。

実の犯人は冒頭から登場する怪しさ満載の人物ではなく、以外な人間という鉄則どおり、スパの経営を引き継ぐこととなった被害者の義理の娘がやったことだった。大学で化学を専攻していたことをスパのオープニング記念パーティ席上で知ったセオドシアに天から舞い降りてきた何かがひらめきを与えてくれた。セオドシアにだけ渡された特別な中身がはいったギフトセット。羨んだデレインに譲ってしまったギフトセットの中にある特製の口紅に毒が入っていると確信したセオドシアは、まさに使おうとしていたデレインから口紅を奪い取って義理の娘、オーパル・アンを問い詰める。反撃するオーパル・アンをプールに突き落として自白を引き出す。またしても、警察を出し抜いて真犯人を突き止めたセオドシアでした。それにしても、チャールストン警察は何をやっているのだろうかね。

セオドシアの恋人だった地元美術館の広報担当者は一体どうしたのだったか。彼の退場記録がまったく記憶にないまま、新たな恋人候補者としてピート・ライリー刑事が登場した。どこまで進展するのかが次回以降のお愉しみだ。

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『スイート・ティーは花嫁の復讐』はシリーズ14話。12話で知り合い。13話で熱々であったデレインとドゥーガン・グランヴィルが婚約期間を経て華燭の宴をあげることとなった。ミセス・グランヴィルの地位を得ることが急務であったデレインは、唯一の空いている式場、冴えないB&Bで式の開始を神経質に待っていたところ、新郎控室に入っていったセオドシアがドゥーガンの死体を発見。物語開始後13ページでの出来事だった。死体の前にはコカインとおぼしき白い粉があったことから事故かと思われたが、セオドシアはドゥーガンの頭の傷を見つけてしまう。部屋にあったペーパーウエイトが一つ紛失している。これで撲殺されたのか?

常日頃からセオドシアを頼りにするとともに自己チュー的なデレインは、セオドシアに調査を依頼。デレインによれば、結婚式に来ていた元カノのシモーンが怪しいという。復縁を迫ったところ拒否られてドゥーガン殺害に至ったというのだ。物語の最初で容疑がかかる登場人物が犯人であることはこのシリーズではまずない。容疑者リストに入らない人間が犯人であることが非常に多い、というパターンを当てはめると残念ながらシモーンは犯人ではなくデレインの嫉妬の賜物と分かる。ドゥーガンは遣り手の弁護しであったから敵は多かったし、共同経営者の態度も不信。突如現れた義理の息子なる男も怪しい。しかも、ドゥーガンは葉巻店を副業で経営しており、キューバ葉巻密輸の疑いもある。ボビー・セイント・クラウドなる密輸業者の名前を聞き及んだセオドシアは調査を進めるものの誰が犯人かは判明しない。そんな折、式場のB&Bの池に沈んでいたペーパーウエイトを発見。しかも、それを投げ捨てることができる屋敷内の窓枠に布切れを発見。布切れにあう衣装を当日着ていた人物を当たり始める。

犯人はドゥーガンの秘書のミリー・グラント。物語の最初から登場し、傷心のデレインに優しい言葉を投げつけていた女性だったが、実は二股をかけられていたミリーは自分が結婚相手に選ばれなかったことでドゥーガンを殺害したのだった。しかも、絵画・宝石類やドゥーガンが密輸していたキューバ葉巻を自分のものにしようともしていた。隠し場所は、ドゥーガンの投資先であった古屋敷。歴史に目のないドレイトンとゴーストハンターズ兄弟が探索に行っている最中に、セオドシアはミリーを問い詰めに乗り込む。間一髪現場到着に間に合ったティドウェル刑事の手を借りて無事にミリーを確保して一件落着。容疑がまったくかからず、何度か物語に登場する光が当たらない登場人物が最後の最後で犯人と分かるケースが何度かあったが、今回もそのパターンでした。

「じゃあ、あのお客様はお茶をステアではなくシェイクするのがお好みかもね」
捜査員の一人をダニエル・クレイグみたいと評したヘイリーにセオドシアが茶化して言う台詞。ジェームスボンドの有名な台詞をうまく使っている。

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13話は『ローズ・ティーは昔の恋人に』。地元チャールストンに建てられた水族館のオープニング・イベント会場で、またしてもセオドシアは死体に遭遇。セオドシアが気晴らしに見入っていた巨大水槽に突然人が落ちておぼれ死ぬ現場に遭遇してしまう。しかも、死んだのは以前の恋人だったパーカー・スカリーだった。引き上げられた死体の手には誰かから渡されたパーカーをおびき出すためのメモが握られていた。自分と近しい人が殺されたことでセオドシアは真相の究明に乗り出す。いつもは止めるティドウェル刑事も関係者へのヒアリングをするようにセオドシアを誘導する。パーカーのレストランを遺言で譲られた新しい恋人、そのレストランを買いたくて堪らない遣り手のレストラン経営者、パーカーと一緒に新店出店を企画していた過去に犯罪歴のある同業者、パーカーを食いものにしていた弁護士、パーカーの企画を蹴って他業者に水族館内レストランを任せることにした水族館の責任者。怪しく思えてくる人間がどんどん出てくる。

そんな中でも地元民に愛されるティーショップを経営するセオドシアの毎日は多忙。店での接客、特別なテーマ性をもったお茶イベントの開催、出張ケータリング・サービス、これらに加えて友人知人から頼まれごとも快く引き受ける。未成年者を犯罪に走らせないようにするためのキャンプを運営する慈善団体運動家から、優勝賞金を慈善活動の資金になるように借り物競争に出場して欲しいと頼まれ、これまた快諾。我々を慣れ親しんだ実物を借りてくるのではなく、対象物を写真にとってWEB上にアップする競争というのが今時らしい借り物競争。そして、この慈善事業を営んでいるかのように偽装していた女性がパーカー殺しの犯人だった。慈善事業とは形ばかりで、寄付金を着服していたことをパーカーに見破られてしまい、水族館でのパーティーで水槽に沈めて殺していた。最後の最後で、この女性がセオデシアも気付いたかと思い、買い物競争で通した機会を利用して殺そうとしてものの失敗してしまい、馬脚を現してしまった。それまでは何のヒントもないままに、真犯人解明だった。ティドウェル刑事ですら、この女性はノーマークだったと驚いたほど。

今回のテーマ性あるイベントの一つは、日本の茶道の実演イベント。セオドシアとヘイリーがキモノを、ドレイトンは羽織を羽織って登場。ドレイトンは自作の俳句まで披露するという気の入れよう。誇らしいやら、ズレを気になるやら、不思議な気分でした。

「わたしもその場にいるのが政治的に正しいと言いたいのね」
水族館のオープニングイベントの合間に水槽内の魚に見入っていたセオドシアが、呼びに来たドレイトンに言う。「政治的に正しい」というポリティカリー・コレクトネスが一世を風靡したのはいつのことだったか。この13話は2012年に出されていた。

「メロメロになった男性の頭の中で、いかなる神経化学物質が放出されるかは神のみぞ知るですよ」
ティドウェル刑事は時折、この手の金言っぽい台詞を口にする。新しい恋人にレストランを譲ると遺言状を残したパーカーのことを評しての台詞。

めぐまれない少女たちにお茶というすぐれた文化を教えられるなんて、これほどすばらしい話はない。人生におけるうるおいというものを知ってもらえれば、きっと心が豊かになる。
確かに!10代の女の子にとって、友人とのダベリの時に手元にある飲み物程度でしかないお茶やコーヒー自体を楽しむ心のゆとりがあれば、人生が違ってみえるのだろう。でも、どうだろうか?私も最近空を見上げて雲の流れをぼおっと見るという愉しみを見つけた。この愉しみは会社勤めしていた頃には考えもしなかったし気付きもしなかったもの。10代の少女にとってお茶とは、昔の私にとっても雲の流れる空みたいなものでしかないのだろうな。

「われながらいやになる。前頭葉がふやけてどろどろになってしまった気がするよ」
60代の魅力ある男性代表のドレイトンが、物忘れが多くなった自分を振り返ってこういったのだった。わかる、分かる。

「おもしろいことに、牡蠣はどこで収穫されるかで味が違うそうだ。葡萄がテロワール、すなわち土地の味を吸収するのと同じらしい」
「牡蠣にとって水はなんて言うの?」
「わからんな。アクアール?」

セオドシアとドレイトンの他愛もない戯言だが、さらりとこんな会話ができるユーモアが人生における潤いなのだろうなぁ。

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12話『オーガニック。ティーと黒ひげの杯』は、建国前後の時代にアメリカ沿岸を荒らしまわった海賊黒ひげにまつわる歴史が舞台。捕えられて処刑された黒ひげの頭蓋骨に銀を張り大ぶりのダイヤを埋め込んだ杯が盗まれた。ドレイトンが理事を勤めティモシーが理事長を勤めるヘリテッジ協会主催の大海賊展の初日の出来事。しかも、盗難時に殺人も行われてしまったのみならず、殺人被害者を真っ先に手当したのがセオドシアだった。さすが、事件を呼ぶ女。理事会で突き上げられ、理事長の座を保つことがむつかしくなったティモシーはセオドシアに調査を依頼する。当初は仕方がないという風情であっても次第に前のめりに調査に入り込むセオドシアの様子はいつもの通り。

このシリーズの愉しみは、古き良き街チャールストンの風情ある佇まいとヴィンテージものの宝石類・茶器・身の回り品がふんだんに出てくること、そしてセオドシアの廻りにいるハイソな友人たちの立ち振る舞いだが、今回はなぜか影が薄い。ヘイリー、ドレイトン、そしてミス・ディンプルのチームワークと固い信頼関係はほのぼのというよりも出来すぎているくらい。彼らのバックアップがあるからこそ、セオドシアは店を任せて調査に入れ込むことができる。

今回の犯人は、調査過程で手助けをしてくれた地元の大学教授のアシスタント、ピーター・グレイス。彼の知性にヘイリーはメロメロになり、一緒に行った囮のイベントで正体を現す。偽の髑髏杯を盗み出してヘイリーを拉致して逃げ去ったピーターを追ってセオドシアとティドウェル刑事が追う。昔、黒ひげが船の手入れをしていたという伝説がある村にピーターの家があると知った二人が急行し、縛られたヘイリーを助け出すがピーターがいない。ふと外を見ると、携帯で電話しているティドウェル刑事の後ろから銃を持ったピーターが忍び寄る姿が見えた。思わず髑髏杯をピーターめがけて投げつけるセオドシア。見事に命中して殺人犯逮捕にいたった。はたして、投げつけられ粉々になった髑髏杯は本物からおとり捜査用の偽物か。それについては語られることがなかった。敢えて明らかにしなかったのは著者の意図だが、読み手としてはモヤモヤが残ったままでお話が終わってしまった消化不良の読後感が残った。

「寄付する人は誰だって、壁にかかているレンブラントを買うのに自分がひと役買ったと思いたいものなの。自分のお金が電球やトイレットペーパーみたいな消耗品に使われたなんて考えたくないはずよ」
「まったく無粋な人だな」
「現実主義者と言ってよ」

最初のセオドシアの台詞はそのとおり。ただ、自分の寄付金には色がついていないので何に使われたかはわからないのが実情。それでも、消耗品に使われたとは思いたくない。ましてや、理事たちの遊興費や生活費に流用されることなんて望んでいない。私が世の中で寄付を募る団体を信用しないのはこの理由。セオの意見を「無粋だ」というドレイトンの気持ちも分かるが、「現実主義者」と切り返すうセオドシアの頭の回転も素晴らしい。

「何事も広く浅くなんだ」
「ルネサンス時代の万能教養人みたい」

この回で、美術館の広報部長マックス・スコーフィールドが登場した。後の回を読んで彼が新しいセオドシアの恋人になることを知っているので、二人の出会いがここなのかと得心がいった。

「わたしたちだって皮膚と肉の下はこうなっているのよ。誰だって同じ内部構造をしているの」
「きみが言うと、生々しいというより詩的に聞こえるね」

頭蓋骨を見て「誰だって同じ」というセオドシアはやはり現実主義者だね。それを詩的な表現というドレイトンは優しい心の持ち主か、セオドシアに心寄せているかだ。

「われわれがこの世に存在できるのは、限られた時間だけだと肝に銘じておかなくてはな」
何気ない陳腐なドレイトンの台詞だが、老齢者となった私には突き刺さる。

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アガサ・レーズンのシリーズを挟んで11話『ミントの香りは危険がいっぱい』を読む。対局にいると言ってもよいくらい異なるアガサとセオドシタの違いが気になってしまう。優等生のセオドシアと劣等生のアガサ。劣等生であっても自身の欲には正直なアガサは逆に可愛い。セオドシアの優等生ぶりが少しばかり鼻についてきた。

自身が企画した地元チャールストンのイベントの最中に、友人のダリアが殺される。しかもダリアに会いに行こうとしたセオドシアの目の前で。物語開始から6ページ目で犯行が行われていた。どんどんと事件発生が速くなってきている。そのうち、読み始めた直後に事件が起きるのかもしれない。悲しみに沈む恋人、お店のアシスタント、そして家族たち。ダリアの母親がセオドシアの叔母と懇意であったため、事件捜査を依頼されて断れないセオドシタは今回も深みにはまっていく。ダリアの恋人は違法なトレジャーハンターであることが判明するし、お店を引き継ぎたいアシスタントも怪しい。それに、ダリアの店が取り扱っていた古地図を狙っている人物も多い。店と捜査の両立を図っているところも優等生のセオドシアらしい。とは言っても、ドレイトンとヘイリーからの協力会って可能なこと。この2人のセオドシアに対する愛情深さと信頼の深さと協力度合いは涙ぐましいほど。こんな理想的な状況の中で物語が進んでいくところもこのシリーズが優等生であることの証左。

犯人はなんと、ダリアの妹、ファロンだった。ファロンは実の妹ではなく養子であり、そのことを古系図から知ったファロンが嫉妬と絶望と裏切られた気持ちから犯行に及んだもの。このシリーズ、段々と犯行の理由がピンとこないものになってきている。前作もそうだったが、今作もそんなことで人を殺すかね?と思ってしまう。多作であることをミステリーとしての質に影響を与えてきたのかな。もう少し読み進めて判別してみようと思う。

「それを信頼というのよ」
自由にお店のメニューを任されているヘイリーにセオドシアを言う台詞。そして、チョコレートコンテストに出品しようと頑張っているヘイリーにこう声をかける。

「努力は恥でもなんでもないでしょ。全力で打ち込んだんだもの」
なんて物分かりがよくて人思いで愛情あふれる人物か。上司でありながら親友のような相互の信頼に基づく関係。優等生の物語と思う所以だ。

その装いは良き時代(ベルエポック)の貴婦人を思わせ。シナモン自身もつとめてその役柄を演じていた。女子青年連盟風のスーツとは無縁の、優雅と気品、世紀末前後の華麗な魅力に満ちた装いだった。
シナモンとはご近所にお店を出した人物。この女性の装いがこのように書かれている。古き良き時代の建築物、装い、マナー、ジュエリー、そして伝統が服を着ているかのようなドレイトン等々、歴史に裏付けられていることに重要性があるというのがこのシリーズでは一貫している。


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第9話『ホワイト・ティーは映画のあとで』は地元チャールストンで映画祭が、第10話『ウーロンと仮面舞踏会の夜』では題名通りに仮面舞踏会が開かれる。題材となるイベントも仰々しさが増している。次なるイベントは何か気になるところ。映画祭の最中、壇上に登場した映画監督が殺されるという事件が勃発。物語開始からたったの19ページ目で第一章の途中でしかない。逃亡する犯人と思しき人間に突き飛ばされて頭から血を流しながら倒れているドレイトンの姿が第一章の終わりだった。逃亡する犯人の姿を見かけた唯一の目撃者のセオドシアは、もちろん独自調査を始める。容疑者の一人が、ティモシー之孫娘。彼女はスタッフとして映画製作に参加する中、殺された監督と懇ろの仲になっていた。彼女以外にも、業界紙でボロクソに言われた編集会社のオーナー社長、そのほかにも数名。早々に登場するこれらの疑わしき人々が犯人でないことは今まで通りで、犯人は映画祭のボランティア。元は映画製作スタッフの一員だったが、馘にされた恨みと監督に抱いていたストーカー的な異常な恋心が殺しを実行させたのだった。

「業界人の大半はおもしろくもイカしてもおらんよ。現実とは似ても似つかない、はかない映像を作り出すだけの業界で苦労しているのだからね」
ドレイトンのギョーカイジンに対する辛口コメント。確かに「はかない」世界の中で生きていることは実体験からも分かる。でも、ギョーカイに属しているというプライドが働くモチベーションになっていることも事実。

大半のテレビ番組の編集はつかみ文句がすべてだ。物語などほとんど必要としない。生きのいい音楽を流して大胆なショットで全体像を描き出し、そこにちょっとばかりの音楽をかぶせてやればいい。
前半部分はそのとおりだと思う。コメントを言う資格があるのかと疑問に思うような芸人たちが耳を引いて心をつかむキャッチフレーズ的なコメントが幅を利かせるバラエティ番組を思い起こすだけでセオドシアの台詞が当たりだと分かる。でも後半には異論があるね。

第10話の『ウーロンと仮面舞踏会の夜』での殺人被害者は、セオドシアの元恋人ジョリーのいとこのニュースキャスター、アビー。辛口で辛辣、自分勝手なアビーが、セオドシアが参加した乗馬狩猟クラブでの障害競走のフィールドで殺されていた。しかも、物語開始7ページ目で死体を発見するという記録的な速さの展開。彼女を起用するために馘になった元キャスターも怪しいし、独自調査していたらしい昔の誘拐事件の関係者も気になる。アビーと付き合っていた様子の骨董宝石店主は素行がとても怪しいし信用ならない。ジョリーからの頼みもあり、又ティドウェル刑事から直々に調査依頼を受けたセオドシアは、店をドレイトンとヘイリーに任せて調査を開始。悲しみに沈んでいたように見えた無害なアビーの夫が犯人であったことを突き止める。しかも共犯者は、一年前に起きてアビーが独自調査していた誘拐事件の被害者であったはずの地元大富豪の息子。親と仲が悪い息子の自作自演の誘拐事件だったのだ。しかも、売りに出されていた素敵なキャリッジハウスを見つけて、買いたいと熱望するものの金策が思いつかないセオドシアに、誘拐事件の報奨金の一部が支払われることとなり、無事にお金の問題が解決されることとなった。めでたしめでたし。ただ、手に汗握るスリリングな物語展開とは言えないことが不満。いつものように物語に引き込まれなかったのはなぜだろうか?

彼女たちにとってインディゴ・ティーショップはまさにとっておきの場所で、ヨーロッパ風の喫茶室なんだ。ここでは時間がゆっくりと流れ、お茶を飲むことが優雅な芸術の域にまで達し、風味豊かなダージリン、麦芽のようなアッサム、スモーキーなキーマンなどの香りがただよい、アロマテラピー顔負けの効果をもたらしている。
セオドシア自慢のお店が味だけではなく、見た目、店内で交わされる会話、骨灰磁器の手触り、お茶が醸し出す香りなど五感に訴える描写がこれでもかと出てくるところは流石と言わざるを得ない。

「このお茶の種類はなんだね?(中略)たしかに揚子江の泥水のような味がするよ。ワインはコルクで栓をしたものなのかね?それともニュージャージー州から大型タンクローリーで運んできたものかね?」
パーティーで供されたお茶に不満のドレイトンの言葉。彼らしい。

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このシリーズには各種様々な地域のイベントが登場して読者を物語の世界へと誘ってくれるが、第5話の『ジャスミン・ティーは幽霊と』の地域イベントはチャールストン墓地でのゴーストウォークという慈善イベント。お化け屋敷を墓地のオープンエアでやりながら、幽霊たちの寸劇やお茶を楽しむイベントだったはずが、殺人が起きてしまう。しかう、セオドシアの恋人のジョーリーの叔父さん、ジャスパーが殺された。今回もラッキー(アンラッキー?)なことに、セオドシアはジャスパーの死の瞬間に居合わせた。しかも、足元の落ちていた注射器を見つけるというお手柄も。ティドウェル刑事からは、事件に首を突っ込まないよいにと念を押されてそのつもりだったセオドシアだが
ジョーリーからの懇願で事件に首をつっこむことになった。事件当夜にジョリーと口論していた地元演劇集団を主宰するヴァンス・タトル、勤める会社の新製品導入計画で意見が異なるCEO、離婚話が進行中の妻、やり手だが職業倫理が薄いと思われるPR会社の担当者等々、怪しい人物は引きも切らない。

ジャスパーが医療品製造会社の新製品開発責任者であったことが事件の発端で、自身の父親が死んだのは不良医療品のせいと筋違いの怒りに燃えたPR会社の担当助手、エミリーが犯人だった。頭が切れて手の込んだ小細工をすることも手慣れたこの担当助手は、セオドシアが暮らしているティモシーの歴史あるお屋敷に石を投げ入れたり、乗馬中のセオドシアに発砲したりして威嚇を繰り返す。身に危険が及びつつあることにセオ本人のみならず、ドレイトンやヘイリー、ティドウェル刑事までもピリピリしだす。ディレイんに頼まれて代わりに服をエミリーの家まで届けた時に、置いてあった家族写真アルバムからエミリーが犯人であることに気付いたセオドシアは、携帯を通話中にしておきながらエミリーを誘導することに成功。銃を持ったエミリーが発砲する寸前で警察が突入して事件は無事に解決。このシリーズ、セオドシアが一人で犯人に行き当たってしまうことで事件が解決される。

この世に存在するお茶の種類は大きく分けて
紅茶と緑茶と烏龍茶の三つ
次はそれぞれの種類の木に焦点を当ててみよう
インド産もあれば中国産もある

T・S・エリオットの詩の一節をドレイトンが暗誦する。数えきれないくらいのお茶を紅茶と緑茶と烏龍茶の三つ分けたところが白眉だね。

いいティータイムには三つの要素が不可欠である、というのがセオドシアの持論だ。第一にすばらしいお茶とお菓子、第二に友人との充実した会話、あるいはのんびりと思索にふけるひとりの時間、そして第三の要素が完璧な茶器類だ。
セオドシアが定義するお茶の愉しみ方。完璧な茶器は持ってはいないが、好みカップで許してもらおう。

「古いものが好きで頑固なんだから」
「意志が固いと表現したほうがいいんじゃない?」
「ずいぶん太っ腹な表現だこと」

ヘイリーとセオドシアの会話は仲間のドレイトンの性格をどう表現するか。人にやさしいセオドシアの性格が見て取れる。

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このところ、このシリーズばかりを続けて読んでいる。今回は第4話『イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部』と第15話『プラム・ティーは偽りの乾杯』の2作。毎回、お話の内容と関係のありそうなお茶の銘柄がタイトルに入るので気になって調べてみたら、前作の原題は”THE ENGLISH BREAKFAST MURDER"、後者は"Steeped in Evil"だった。必ずしも原題にお茶の銘柄が入っているわけではなく、日本語訳の時に換えているのが分かった。日本人らしい気配り、こだわりだね。

このシリーズを気に入っている理由をこれまでに幾つか書いてきたが、導入部分の簡素でありながらもその場の雰囲気に読み手をいざなう描写は、物語の始まりとして素晴らしい。例えば第4話、サウスカロライナの夕刻の風景から空でで輝く金星、そしていきなりセオドシアがドレイトンを呼ぶ声がして、場面は早朝の海岸でウミガメの生態保護のボランティア活動に参加している2人の姿となる。そこまでたったの3段落、7行でしかない。広角画面から徐々に絞り込まれてセオドシアの姿にカメラを寄っていくような感覚だ。第15話は、自分がワイン通だとは思っていないというセオドシアの心の声 ⇒ 高級ワイナリーでの試飲パーティーの場 ⇒ その場にいる説明 ⇒ ドレイトンが呼びかける声とつながり、お話に突入していくまでにたったの3段落、12行のみ。映像ならば、周りの風景からいきないドレイトンにカットインする流れ。速いけれども速さを感じさせないスマートな流れた。しかも、どちらも第1章の終わりで事件が発生するというスピーディーさ。好きだね、この話の回し方が。

第4話のブレックファストファスト倶楽部とは、ドレイトンの友人であった骨董商が老人の域に達した仲間4人とお茶を飲みながら気ままな時間を時間を過ごす集いの名称。個人は素人ながらチャールストンの沖合に沈む南北戦争時代の沈没船を調べていたようだ。積まれていた骨董品に目をつけていたのだ。仲間の4人もなんらかの形で沈没船段策に独自に関係していたよう。そんな中で仲間の1人が銃撃される事件が起きる。動揺するドレイトンを気遣ってセオドシアが真相究明を始める。亡くなった骨董商の共同パートナーであった若い女性も当然疑惑がある。セオドシアが恋人のジョリーとセーリングに出かけようとしたところ、ヨットに細工がしてあり沈没しかける事件も発生。いよいよ、骨董商の溺死は殺人だという疑惑が強まる。ふたを開けてみると、犯人は共同パートナーに言い寄っていた地元レストランのオーナーだった。資金繰りに困り、沈没船の中の価値ある骨董品に目をつて、そのために骨董商を利用していたのだった。

上流階級のご婦人がたのあいだでは、取っておきの白い手袋に上等な服、しゃれた帽子で出かけたくなるような、贅沢なティーパーティをひらくのがはやり始めている。
お茶を飲むのに手袋や帽子が必要とは!貴族的な文化が色濃かった南部都市らしい雰囲気が醸し出されている。

「海はなんと神秘にみちていることか。想像を絶するほど多種多様な生命体が棲み、月は磁力で波を引き寄せ、海底にはいまも数多くの難破船が静かに眠っている。海とは詩心と冒険をあらわす隠喩なのだよ」

第15話は招待されたワイナリーで、一族の長男が殺される事件。しかも試飲パーティーのたけなわに、ワイン樽の中から発見されるというショッキングな死体発見のシーンは、小説でもインパクトが大きいが映像であったら効果バッチリだ。父親はワイナリー経営に情熱を傾けるが、実は上手くいっていない。妻とは離婚手続きが進行中。そこに謎の日本人が資金投入を餌に経営参加を持ちかけている。殺された長男には麻薬常習事実が発覚。同棲していたモデルの恋人も怪しい。近隣のゴルフ場経営者も、土地を狙っていたようだ。次々に現れる怪しい匂いプンプンの人間たち。犯人は、セオドシアのお店からほど近い画廊の若きオーナー。グラフィックデザインの能力が高かった個人にヴィンテージワインのラベルを描かせて、日本人出資者と偽ワイン造りを画策していた。その企てには義母も参加していた。ペテンに気付いた長男が殺されたというのが真相。よくできたストーリーだった。

「この店をカルフォルニアで流行している産地直送タイプのレストランに換えようというのでなければいいのだが。ほら、アザミのサラダだの、青汁をつかったドリンクなんかを出すようなやつだよ」
何事も古き良き時代を尊ぶドレイトンらしい台詞。産地直送は素晴らしいコンセプトだし、健康を気遣うことは今の時代に合ってはいる。でも、レストランで青汁ドリンクは飲みたくならない。

「この瞬間が一番好きだね。すべてが美しく、生き生きとしていて、来るべき一日を待っているときが」
ドレイトンのキャラクターは次第に誇張されてきている。開店前の店の佇まいを見て、こんな台詞を口に出すようになっている。でも、このように思える瞬間を持っていること自体はとても羨ましい。

「三つ数えるまでに、こちらに注目していただけますか。ふたつ数えるまでにご注目をお願いします。あとひとつです」
チャールストン近郊で成功しているワイナリー・オーナーであるジョージェット・クロフトがパーティの壇上に登場して注目を集めるために発した言葉。名乗る際に「人間の皮を被った悪魔と呼ばれている」と自分を呼ぶくらいの図太さと正直さとみなぎる自信とを持っている女性。登場回数が少ないが、とても強い印象を残しており、もっと知ってみたい登場人物だ。

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第3話『アール・グレイと消えた首飾り』と第16話『アジアン・ティーは上海の館で』を続けて読了。第3話のアール・グレイとはお茶の種類だけではなく、事件解決に一役買ってくれるセオドシアの愛犬、アール・グレイのことでもある。盟友、デレインの姪の婚約披露パーティ会場で、新郎が崩れ落ちた天井の下敷きになって死んでしまう。不思議なことに会場に飾ってあった新郎一族の自慢の歴史的なダイヤの指輪がなくなってしまった。事故か盗難か。盗難を疑ったセオドシタは、その直後に開催されるヘリテッジ協会でのイベントに飾られる高価な首飾りも盗まれる。歴史ある街、チャールストンに怪盗が現れた、そう感じたセオドシアは独自の調査を開始する。容疑者らしい人間は何人か浮かぶが、決め手にかける。そこで、セオドシアとドレイトンは罠を仕掛ける。ドレイトンが切手収集を趣味にしていることを武器にして、希少価値の高い切手、Zグリル切手をヘリッテジ協会のイベントに出展することとして、怪盗が現れるのを待つ。結果は空振り。あれっ?、と思わせておいて、展示が一日限定であること当のドレイトンが会場のあちらこちらで言い訳していることを知ったセオドシアは、怪盗がドレイトンの自宅に現ると推理して。愛犬アールグレイと張り込む。見事に、宝石店の店員が怪盗であることを掴んで逮捕に協力。

第3話の冒頭はmセオドシアが今いるパーティ会場の描写から始まり、彼女のいでたちを紹介、そこへドレイトンの声がしてドレイトンのいでたちと彼のお茶に対する知識と情熱を語り、そこからもう一人の相棒、ヘイリーについても描写、そしてセオドシア自慢の店・インディゴ・ティーショップの内装とお茶に関するセレクションを軽く入れる。ここまでで第3話の始まりから4ページ半。そして続ける。
インディゴ・ティーショップは本物と気品にあふれた店であり、それがお客の心をつかんだ。おかげでお客が途切れることはない。
ただ単に、セオドシアのお店が「繁盛している」と書くだけとは大違い。このような丁寧な描写が作者の売りであり、また作品にリアリティを持たせてくれると何度目かの再発見。

第16話では、中国・上海にあった清朝時代の茶館を移設した美術館のお披露目パーティで、その茶館買収に大いなる金銭的寄与をした地元名士が殺される。そして、そのことでセオドシタのボーイブレンドのマックスが美術館の広報担当を首にされてしまう。掘っておけない性格に火が付いたセオドシアがまたまた事件解明に一肌脱ぐ。殺された男の妻、その妻に言い寄っている男、殺された男の元愛人、なぜかよく見かける刑事専門弁護士。怪しい人物が浮かぶものの、これといった進展はない。茶館を売った上海のビジネスマンに連絡を取ったところ、似た館がボストンの美術館も購入していたことを知ったセオは美術館に連絡を取ってみると、買値に倍近い違いがあることを偶然に発見。誰かが買値をごまかして着服していると直感したセオドシアは、古い歴史ある家を買おうとしている美術館のアジア担当学芸員が犯人とつかむ。今回も警察の上をいく捜査でした。

このシリーズは読んでいて非常に愉しい。セオドシアの謎解き以上に、住んでいる地域、チャールストンの雰囲気が感じられるとともに、文化的な香りが溢れている。例えば、
クロッテッド・クリーム、ビスコッティといった食べ物の種類、エステート・ジュエリー、バロック・パール、マーキスカットのダイヤ、エメラルドカットのダイヤ、ファイヤー・オパール、ラフカットのダイヤといった宝石類も紹介され、ティファニーのファブリル・ガラスの花瓶、クイーン・アン様式の銀器、ブラウン・ベティ型のティーポット、ファミーユのティーポット、バロニアルオールドという模様のついたスターリングシルバのナイフとフォーク、オービュッソン・カーペット、シャドーボックスとおもしき工芸品といったお茶関連に限定されないカトラリーや家具など、ジョージア王朝様式の屋敷、緑色のタイルを敷いたボルチコ、イタリア様式のお屋敷といった建築様式についても言及がなされる度に調べながら読み進むことが多く、文化的に満ち足りた生活を渇望している割には知識が少ないことが痛感される。ビーハイブに結った髪、なんてファッションに関することも知ることができました。

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「お茶を飲みながら洗練された会話がしたくて、おたくのお店につい足が向いてしまいました」
お店に立ち寄るティドウェル刑事が口に出す。ぶっきらぼうで感情を顔に出すことがない元FBIの刑事だが、セオドシアとお店に一目置いている様子がわかる。

「盆栽のコンセプトとは、自然じゃないというところにあるんだと思っていた」
「あれは高度に発展した芸術の一形態だ。千年以上にわたって引き継がれてきている。盆栽の様式と概念というのはひじょうに写実的なものなのだよ」

ドレイトンの趣味の一つは盆栽。その盆栽に関するヘイリーとドレイトンの会話。我が国の文化の一つを正しく理解してくれていることに感謝の念を持ちつつ、自分なりの解釈が加わっていることを知る。

わし鼻がでんと鎮座しているせいで、どこか貴族のような雰囲気がある。何世紀か昔に生まれていれば、メディチ家の一員として辣腕をふるっていたかもしれない。
うんうん、分かる。

伝統的な気品にあるれるチャールストンではあるが、底の方には貪欲と怒りと憎しみが、わずかなりとも渦巻いている
ちょっとハードボイルドが入った一文。チャールストンが愛することに関しては誰にも負けないセオドシアだが、底辺にある人々のどす黒い感情にも気付いている。

きみときたら、天使も踏み込むのを恐れるような場所に突っこんでいくのが本当に好きだね
恋人のマックスがセオを評していった台詞。天使も踏み込むのを恐れるような場所とは恐れ入った。

「嘘と偽りが複雑に入り組んだ、巨大な織物のようだな」
ドレイトンならではの、ちょっと大袈裟な比喩を使った表現。単に「嘘で塗り固められた」というよりも頭の良さを感じてしまう。歳の功をこんな様子で描いているところも著者の力量だね。

バウハウスの機能主義とテレビドラマ「25世紀のバック・ロジャース」のような未来的なデザインのいいとこどりをした検知器学専攻の学生が館得そうな外観
これも何となく理解できてしまう。絵にかいてみろと言われる描けないが、でもどんな感じかはよく伝わってくる。

「わたしのいないあいだになにかあった?」
「おいしい食べ物と楽しい時間がありましたよ。しかも、ドレイトンのすばらしい解説付き。まるでお茶のドキュメンタリー番組を観ているようでした」
「わたしとしてはプロモーションのつもりなんだがね」

時折お手伝いに来てくれるミス・ディンプルがセオドシアの不在中をこのように描写。おいしい食べ物と楽しい時間があったとは、なんて素敵な言い方なのだろう。ゆったりと時間がながれる南部ならではの文化が背景にあるから、こんなセリフがあるのだろうね。

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犯人は現場に立ち戻るではないが、気に入ってしまったシリーズは最初から読み進めたいと思うものだ。そこで、第1話『ダージリンは死を招く』と第2話『グリーン・ティーは裏切らない』。

このシリーズを読む愉しみは、(1) 見事な建物や部屋の作りと庭、骨董品など、南部アメリカの文化的香りがすること(奴隷制度の上に成り立ったものであったことには目をつぶって)、(2) 色々なお茶と料理が食欲をそそるのみならず、品ある人々の優雅な暮らしに想いを馳せられること、(3) 主人公セオドシアが友人の依頼を受けて事件解明に立ち向かう姿がしっかりと描かれ、その行跡がティーハウスでのオモテナシと両輪をなして物語が進行するというわかりやすさ、なのだと思う。(1)と(2)に惹かれるということで、私自身の好みの再確認もできた。(3)に関しては、第1話と第2話では顕著で、友人の頼みを引き受けたセオドシアが一人またはティーハウスの面々と協力しながら、警察に頼らずに独自の推理し、調査する過程が描かれており、警察との連携が深かった第6話以降とは趣きが異なっている。それにしても、友人の頼みを断れないところに、主人公セオドシアの性格、人思いで人情に厚く、正義感が強くて向こう見ず、そして何とかなるというポジティブシンキングの持ち主、というのが見えてくる。

物語の描写方法も気に入っている。第1話の冒頭は、セオドシアが机に向かってお茶を飲んでいるところからセオドシアの姿の説明に入り、その後に回りの風景と気候の描写が3段落で紹介されている。まるで、質の良い映像を見ているかのような自然な流れで物語に入っていく。部屋全体から人物に焦点がゆっくりと絞られたあとに、カメラがパンして窓の外を映しているかのようだ。

そして、事件が起きるのも早い。第1話では第2章で、第2話では第1章で事件が起きている。セオの事件へ取り組む姿がストーリー描写の中心骨格としてブレていないことも、読み進めるための安心材料になっている。

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天然パーマの鳶色の髪が顔のまわり渦を巻き、その結果、頭に後光が射した格好になる。まるでラファエロが描く歳暮マリアと愛想のいいメデューサを足して二でわったような姿だ。
第1話の冒頭の最初の段落で紹介されるセオドシアの姿がこれ。進むにつれて、肌の色がきれいだとか、顔の形がいいとか、体形がサイズ10だとかが次第に細かい紹介になっていくが、まずは鳶色の髪が魅力的であることが冒頭で印象的に紹介されている。ラファエロとメデューサを引き合いにだすことで可笑しさもプラスしながら。

そして、彼女の性格は彼女が回りをどのように見ているか、どのように言葉を発するかでいろどられていく。
「わたしの一番の喜びは。最愛のものに集中することなの。つまり、このインディゴ・ティーシップとあなたがブレンドしてくれるすばらしいお茶にね」
というように、自分の好きなものを挙げるとともに、相手(この場合は一緒に働くドレイトン)に対する敬意を込めた賛辞だったり、

「あなたがセッティングした」テーブルは、まるでセザンヌの静物画みたいね。ロマンテックで上品で、食べるのがもったいないくらいきれい」
これも一緒に働くヘイリーの努力をねぎらう言葉だ。そして、いつも着ているものに気を配っているドレイトンにはこのような台詞も吐く。
「殿方というのは来ているもので中身が分かるものよ」
なんて、相手想いの心優しい人間なのだろう。「南部の貴婦人」という言葉がシリーズの中に出てくるが、相手に敬意を示すことが貴婦人の一要素だと思わされずにいられない。

そのドレイトンは、60歳前半の男性、お茶の専門家にして性格は頑固。古いものを愛し、地元のヘリテッジクラブに属し、築100年以上の由緒ある建物に住み、盆栽を始めガーデニングも趣味で、新しいものには興味がない。
「わたしは機械撲滅主義者だよ。近頃はやりのコンピューターなんているくだらない機械にはぞっとするね。魂のかけらもない。」

いつも着るものに気を配り、ベストな仕事を成し遂げることを自らの使命と課し、ちょっと神経質で偏屈でもあるが、一緒に働く人々に足しては最大の愛情を持っている。
「さっききみが言ったことはみんなの努力のたまののだ。大勢の善意の人間がけんめいに努力して得た結果なんだ」

決して自分一人で成し遂げたと誇ることなく、助けてくれた人たちへの感謝も忘れない人物がドレイトン。これが、アメリカ人なのかと疑わずにはおられない。ドナルド・トランプのみならず、アメリカ社会の惨憺たる状況を見るに、理想と現実の大きな違いに残念な思いをせざるをえない。

第2話で殺された金持ちの結婚相手の若い女性に対して、セオドシアが感じた思いがこれ。
このお嬢さんはいつまで、誰をも魅了する美しさを武器にこの世を渡っていくつもりなのだろうかと。彼女のような人は、いつでも世の中がなんとかしてくると勝手に神事のらりくらりと人生を送っていくのかもしてない。

ミス○○を次から次へと獲得した超がつくほどの美人に対して、ちょっと厳しい言葉だね。著者の感想なのだろうか。

空に浮かぶ巨大な黄金球と化した太陽が、さざ波ひとつひとつに光を浴びせ、水面にダイアモンドをまき散らしている。池のまわりでは緑あざやかなソーグラスのギザギザの葉が、潮の香を含んだ風にそよいでいる。
物語のあちらこちらで、この種の描写が出てくる。ミステリの進行に対して閑話休題とでも言ったらよいのか、張り詰めたものをほぐしてくれる優しさがあるし、読んでいて幸せな気持ちにしてくれる描写だ。ストーリー進行がとっても上手いことも、このシリーズを読む愉しみでもあることに気付く。

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だいぶ飛ばして第17話『ロシアン・ティーと高低の至宝』。港北図書館に置いてあるこのシリーズの残りはこれだけだったために一期に8から17へ飛んだ。今回は冒頭から事件が発生する。セオドシアたちが参加していた高級ジュエリー展示会に黒いSUVが飛び込み、中から出てきた銃を持った覆面姿の3人組が展示してあったジュエリーを次々と盗んで逃走。3人とは別に見張り役の1人がバイクでいた。参加者がパニックに陥るなか、セオだけは冷静に犯人たちに特徴がないかをうかがう。一人の手首にタトゥーのような青い線が入っていることを発見する。犯人たちが立ち去った後のガラスの瓦礫の中に、一つの死体。イベント主催者の姪のケイトリンの首に飛んできたガラスの破片が刺さって死んでしまった。強盗に殺人が加わった。

主催者のブルックから犯人探しを頼まれたセオドシアは、良き南部女性らしく引き受ける。今回は地元チャールストンに来て日数も浅い人たちの中で上流階級層に足がかりをもっている人たちが怪しいと睨む。調べるうちに怪しい人たちが何人か現れる。地元の名士(女性)の新しい恋人、しかもヨーロッパから来ているという。そして、マイアミから引っ越してきたオーダーメイドのヨット販売をしている夫婦。近隣から来ているロシア文学の研究者。そして、ヘイリーの恋人がバイクに乗っていることから、彼も怪しいと思い出す。これらの容疑者が早々に揃うのだが、早くから容疑者として登場した人物は犯罪とは無関係というこの手の物語の鉄則に当てはめて読み進んでいくのだが、彼らの容疑は深まりもしないし晴れもしない。グラデーションがちょっと濃くなる灰色のままで終盤まで来てしまうのだ。今回は鉄則の裏を掻くのか、と思いきや、ファベルジュの卵を展示することになったヘリッテッジ協会のイベントが最後の山場となる。今回も強盗団を押し入るだろうと誰もが目論む中、セオはブルックから借りた高級ジュエリーであるブローチを身に着けてパーティへ参加する。強盗団の目を引き寄せるための罠を自ら仕込んだのだったが、自分の行為が恐ろしい無謀な行為であることに気付くとブローチを協会会長室の金庫にしまおうとヘイリーに手渡したところ、そのヘイリーが3人組を襲われて拉致される現場に居合わせてしまう。ジープでヘイリーたちを追いかけてヨットハーバーまで来てみると、ヨットはまさに出航するところ。警察に連絡をとって沿岸警備隊に出動してもらい、犯人グループとの追いかけっこが始まるや、ヘイリーが犯人グループの一人に組み付いて海に飛び込む。ヘイリーが運よく救出されて喜ぶセオとドレイトン。引き続き警備隊の舟に引き上げられた賊の一人にセオがヒールで蹴りを入れる。賊が頭をあげると、何と地元の名士の女性グレイスの顔が。グレイスがジュエリー強奪の首謀者だったということで、やはり早めに出てきた容疑者が犯人ではないという鉄則は守られました。

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遠いイングランド人の祖先から受け継いだ高い頬骨と磁器のような肌、鋭いブルーの瞳、ふっくらした唇、形のいい卵形の顔。ただし、女性なら誰でも喉から手が出るほどほしがる鳶色のたっぷりしたこの巻き毛だけは、扱いにくくて困る。
主人公のセオドシアの風貌の記載がこれ。きっと美人なのだろう。単なる美人ではなく、品の良さが際立っているレディー。鳶色を調べたら赤暗い茶褐色と書いてあった。金髪ではなくて、どちらかというと赤毛なのですが、アメリカ女性はこの色の髪に憧れるのかな?

「ちゃんとひとり分のこってます。あなたのものだとわかるよう、ちゃんと名前がかいてありますよ、きっと」
容貌に優れているだけではなく仕事もやり手。人の意表をついたりずる賢い手を使うことなく、あくまでもレディーらしく王道のど真ん中を突き進むやり手。遅いランチタイムにやってきた新規のお客に対して、ランチセットがまだ残っていますよ、良かったですね、という代わりに「あなたのものだとわかるよう、ちゃんと名前がかいてありますよ、きっと」なんて、気が利いているし品があるよね。

「おっしゃるとおりです。しかも、その仕事を大いに楽しんでいるんですよ。」
残っているランチに名前が書いてあると言われた新規の客は新しくヘリテッジ協会の理事となったドレイトンの友。ヨーロッパから最近きたばかりなのに、すぐにヘリテッジ協会に潜り込んだと考えたセオは容疑者の一人として疑ってしまう。もちろん、ドレイトンは反発するが、セオの言い分にも理がないことはないと認めて苦しい立場に。


「復讐は七つの大罪のひとつではなかったかな?」
ドレイトンがは強奪事件捜査を独自に進めるセオドシアに対して言ったセリフ。教養ある人間であれば、復讐は決して七つの大罪の一つではないがことは明白にも拘わらずこのような大袈裟な表現をすることが教養ある表現なのだろう。

「チャーチ・ストリートは以前からずっと、魅力と気品が詰まったおいしいケーキにみたいな通りだった」
商店街で事業をするセオドシアの友人の一人が、事件を憤りつつ人の死に悲しみつつ漏らした。「魅力と気品が詰まったおいしいケーキ」、しかも魅力と気品という誉め言葉を重ねて、おいしいケーキに組み合わせるところが洒落ている。

前回の書き込みでも書いたが、このシリーズはチャールストンという街にある古き良き南部の建物の描写がここかしこにちりばめられており、それがこのシリーズを読む愉しみにもなっている。
廊下にも東洋の絨毯が敷かれ、壁の油彩画や凝ったつづれ織りが深みのある暗色のパッチワークをなしている。ヘリテッジ協会は旧世界の雅と贅の象徴であり中世の城と小塔のあるマナーハウスを足して二で割ったような建物だ。

新しく生まれ変わらせ、装飾をほどこし、居心地よくした板葺き屋根の小さなキャリッジハウスは彼女の自慢だ。紅茶色をした木の床が素朴な魅力を醸し、キャンドル、骨灰磁器、上質のリネンがヴィクトリア朝らしさを添えている。しかも、壁にはオーナメントで装飾した葡萄の蔓のリースやすわっぐがかかっている。というわけで、ティーショップ全体は、素朴でヴィクトリア朝風、それでいて既成概念にとらわれない雰囲気にあふれている。
最後の「既成概念にとらわれない」というところがすべてに対する免罪符のようでもある。多少はビクトリア朝から外れていても、こう言うのことですべてが許されるのだから。

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一作戻って第6話『カモミール・ティーは雨の日に』と第8話『ロンジン・ティーと天使のいる庭』を連続して読んだ。このシリーズに惹かれる理由は2つ。一つは物語の舞台となっているサウス・カロライナの街並の描写が美しいこと。チャールストンの街に立ち並ぶ歴史があって見るからに(想像するからに?)見事な建物が私の古い洋館嗜好を強烈に刺激する。例えば、

ヘリテッジ協会は、セオドシアがかねてより気に入っている建造物のひとつだ。灰色の石造りの巨大なこの建物は、必要不可欠ともいえる高い天井とイトスギの鏡板を張りめぐらした部屋、どっしりした鉛格子の窓、足をのせるたびにかすかな音をたてる東洋絨毯をそなえている、ほのかな光に照らされたガラスのショーケースに、イギリス製の銀の蓋付きジョッキや色あざやかな油彩画、古地図、フランス製のティーセットなど、上品でみやびやかだった時代の名残をとどめる品々がおさめられている。
といったように、じっくりしっかりと文字を連ねて、その建物がどのような見栄えなのかを教えてくれる。また、会社を訪問する際も簡単な言葉で終わらせることなく、

セオドシアは古い黄色煉瓦の壁を飾る色彩豊かで幾何学的な絵をながめながら、つやつやした木の床を受付に向かって歩いていた。
と単に訪問した事実を記すだけではなく、訪問先の建物や設えの描写は欠かさない。そして、

夕暮れ間近の陽ざしが、金糸のようにインディゴ・ティーショップの店内いっぱいに降り注いでいた。木釘でとめたフローリングの床をつやつやと輝かせ、煉瓦の壁に柔らかな光を反射し、ダージリンや中国産の紅茶、アフリカ原産のルイボス・ティーなど、通り異国の茶園から運ばれてきた珠玉のお茶をおさめた瓶や缶が並ぶ作り付けの棚を、ネオンサインのようにくっきりと浮かび上がらせていた。
と、とある時間帯の自分の店の佇まいについての描写もしっかりしている。

シリーズが気に入っている」二つ目の理由は、店で働くチ0フティーブレンダーのドレイトン・コナリーに自分が重なるから。60歳を過ぎてなおダンディーでかっこよく、仕事に誇りを持ち、地域社会での貢献も行っている。何よりも、歳老いたことを恥じたり悔いたり残念がったりしない。むしろ、誇りとしているくらい。常に服装に気を配り、蝶ネクタイがトレードマーク。服装に関してこのような台詞があった。
「育ちのいい人間が、着るものでみずからの知性と品の良さをしめした時代があったのも事実だ」

なんでもカジュアルっぽくすることが流行りのこの時代に、棹差す気概が好ましい。ただし、本の中に入っている挿絵は気にいらない。モコオコした髪型と顔立ちがまるでいかさないおばさんみたいなのだ。これさえなければ、言うことなしなのだが...


主人公のセオドシアは、従業員想いで地域社会に役立つことを常に考え、お茶の知識も素晴らしく、優雅な南部レディーとしての振る舞いも自由自在にできる魅力的な女性。歳の頃は30代半ばぐらいといった設定。店を訪れたお客に対して、
「わたしたちは自分の役割を果たしただけです。来る日も来る日も全力投球の毎日をしばし忘れさせ、できるかぎりゴージャスでおいしい昼食をお出しするという役割を」

とお店のミッションを伝えながら相手への愛しも忘れない。こんな素敵な台詞が吐ける店主、お茶はドレイトン、料理はヘイリーというベストな組み合わせチームがいるティーショップなら、是非行ってみたいものだ。ドレイトンの料理についても台詞。
「楽であれば当然、効率もよくなる。だが、それ以上にこだわっているのが見栄えだ。ボリュームたっぷりという感じに見せたいのだよ」

見栄えにこだわるところがドレイトンらしい。着るもので知性と品の良さをしめすことの大事さを知っている人間だから。

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このシリーズは読んだことがあったのだが、このブログに書き込んでいないことを発見した。そこで、第7話『ブラッドオレンジティーと秘密の小部屋』を読んだのをきっかけに他のコージーミステリと並べて記憶に残すことにした。

地元(サウスカロライナ州だったか)の歴史ある建物が寄贈されることとなり、その記念パーティ会場で殺人が起きた。コージーミステリという軽くて口当たりのより読み物であっても”殺人事件”が当たり前に起きるところがアメリカなのだね。日本のミステリで殺人が事件の題材になっていると、どうしても絵物語に思えて仕方がないのだが、アメリカでの話となると日常茶飯事の出来事として真実味を持ってしまう。このパーティで出されるお茶とお菓子を担当していたのが主人公セオドシアのお店だった。殺され方はナイフによる殺傷。毒殺ではなかったために、お店の信頼失墜とはならずセオドシアを始め店関係者は最初から被疑者候補にもならずにいたところ、殺された男性の奥さんからセオドシアは事件解明を頼まれてしまう。警察が動いているにも拘わらずだ。これが発端。タネを先に明かしてしまうと、歴史ある建物を寄贈した地元名士夫婦が犯人で、希少動物の密輸をしていたことを調べられることとなって殺人に及んでしまったという筋立て。

このシリーズでは、主人公のセオドシアが事件に向き合う時間が他よりも多い気がする。深層に迫ることは少なくても、事件をことを気にかけ何とかしようと頭を動かしている時間は多い。その中でお茶のお店の様子や人間関係が描かれるのだが、行き当たりばったりの行動が事件真相に迫ってしまうことになる他シリーズとは異なるというのが読んだ感想。そして、歴史ある建物、南部社会の上流な人々などが登場するものの、頭の中には豪壮華麗なイメージが浮かんでこないもの特徴。例えば、
肩幅は広いがスマートな感じで、いかにも育ちがよさそうな、高貴とさえ言える雰囲気を漂わせている。裕福な農園主か特権階級の生まれと言っても通用しそうだ。

パーティにやって来た下院議員の描写だが、”高貴”な雰囲気が頭の中にどうしてもイメージとして生成されないんだな。イメージが生み出されるようにもう少し言葉を重ねて欲しいところ。

店で働くお茶の専門家、グレイトンにしても、知識のみならずマナー優れたティーマイスターとしての上品かつ優美で繊細な動作仕草を描いてくれていたら、もっとこの人物に対する思い入れも深くなるだろうに。

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「震えているではありませんか」
「アドレナリンが大量に放出されたせいですよ」
「常識も大量に放出してくれればよかったのですがね」

犯人夫婦を追って一人で密輸動物の保管倉庫に向かったところ、海に飛び込まざるを得なくなった主人公を助け上げた刑事との会話。「常識も...」がジョークとして捕えられるのか、強い皮肉として捕えられるのか紙一重のセリフ。一般会話の中では使うことをためらってしまう際どさがあるものの、本書の中でもっとも気になった台詞ではあった。


コメント
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