出だしはハードボイルド調。1949年、場所はロードアイランド州の小さな町キンディコットに、私立探偵のジャックが人探しのためにやってくる。そっけないの描写に対して、ジャックのシニカルな物言いや態度がダークでニヒルで殺伐とした雰囲気を醸しだす、絵に描いたようなハードボイルド小説かと思いきや、タフな探偵ジャックはいきなり殺されてしまう。
そして、時は突然に現代へ。場所は変わらずロードアイランドのキンディコットという町で書店が舞台となる。ニューヨークの出版業界でキャリアをすり減らすことを諦めた主人公ペネロピ・ソーントン・アクルアが、叔母のサディと一緒に経営する書店の経営立て直しの一環として招いたベストセラー作家、ティモシー・ブレナンを招いたベント会場であるその書店で、こともあろうかブレナンが死んでしまったのだ。しかもイベントの最中に。死因は毒殺。ピーナッツアレルギーだったブレナンが飲んだペットボトルの水に、ピーナッツ成分が混入されていた。しかも、ベストセラー作家にペットボトルを手渡したのはペネロピというだけではなく、ベストセラーが死んだ聖地となった書店に次から次へと人が押し寄せて書店の売り上げは空前絶後の状態。状況証拠としては最悪の状態。ここで突然、ペネロピの頭の中で一人の男の声が響く。その男とは、60数年前にこの町で殺された私立探偵のジャックだった。幽霊探偵の登場と相成る。何故か、書店の建物から外に出ることができない幽霊探偵がペネロピにいろいろなアドバイスを与え、素人探偵のペネロピが独自の調査や聞き込みをすることで犯人が炙り出されてくるというお話し。
ティモシーのベストセラー・シリーズはマンネリ化したために一度は人気が落ちたのだが、最近の3部作の出来が良いために以前以上に人気が出ている。そんな中、作家自らがイベント会場でシリーズを打ち止めすると発表した直後に事件が起きたのだった。
ベストセラー作家のティモシーは威張り散らすだけが取り柄のロクデナシであり、イベントを取り仕切るシェルビーはキャリアを鼻にかける高慢でいけ好かない出版取次会社の広報担当、ティモシーからひどい扱いを受けている娘とその夫、シェルビーの部下のジョシュは上昇志向が極度に肥満した野心家。対する地元民は、書店の贔屓客である大学教授、昔テレビのクイズ番組で大金を手にしたことのある町一番の有名人である郵便配達、我こそは町を背負って立っていると意気込みで何処でも何にでも鼻をつっこむ出しゃばり女、ご近所のカフェ経営する夫婦。一人を除いて町の住民は皆ペネロピに同情的で優しい支援者という立場。外部対内部でキャラクターの設定は正反対という分かり良い描写。外から来た人たちはすべて一癖あって全員が犯人であってもおかしくない。一体誰がペットボトルに細工をしたのか?
人気が盛り返すきっかけとなった最新の3部作を分析すると、書き手がティモシーではなく娘婿のケネスであることを地元大学教授がペネロピのヒントを手掛かりに解明する。そして、書店のトイレで注射器を見つけ出したジョシュが交通事故に見せかけて殺されるという第二の事件が発生。これらすべては、高慢なキャリア女のシェルビーが、片思いするケネスを振り向かせるためにやった殺人と判明。推理が不得意の素人探偵が、幽霊となったジャックの手助けを借りて解明する。
☆★☆★☆★☆★☆★
古風で趣のある街の広場の、青々とした芝生。赤く縁取られた真っ白な野外音楽堂。なにもかもがうんざりするほど明るくて健全。どこかそのへんにノーマン・ロックウェルのサインがあるんじゃないかとジャックは思った。
あいつは三ドル札並みにインチキだ。
斜に構えてちょっと毒のある台詞を分かりやすい比喩を使って吐くところがハードボイルド探偵らしい。
だが、いいかい、べっぴんさん、人生ってのはそんなんじゃない。人間ってやつは、そうじゃないんだ。人は怒り、妬む。醜くて、弱くて、愚かさに満ちている。きみもよく知っているようにな。
きみはいやなことから逃げる。隠れる。地面に突っ伏して、対決を避ける。この世はきれいな幼稚園のお砂場だと思っていたいんだ。だがな、目を開けなくちゃだめだ。
幽霊となって体は存在しないが、なぜかペネロピの頭の中だけには出没するジャックが、ペネロピに人生について教える。人、この世中が理想郷の世界でなく、暴力と醜さが満ち溢れる世界であり、それを直視して戦う気構えを持てと諭す。極めてハードボイルド的な世界観だね。
彼の顔には相変わらず笑みが貼りついているものの、小さな丸眼鏡の奥で、緑に瞳に冷たいカーテンが引かれるのを私は見た。
わたしの経験では、怠惰で無能な管理職に気に入られるのは、調子んおいいごますり社員だった。こつこつ努力する地味は社員は見向きもされない。困ったことにわたしは、自分をひけらかすのはいけないことだると教えられて育った。
生き馬の目を抜くビジネスの世界で自分のモラルが旧態依然で使い物にならない。ペネロピはニューヨークの出版業界の世界で、シェルビーのようなキャリア志向の塊たちから、散々いやな目に合わされて逃げるようにして生まれ故郷に帰ってきた存在。そんな弱い彼女が、ジャックの手助けを得て、事件に立ち向かい解決する一種の成長物語でもある。
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あとがきを読んで知ったことなのだが、著者のアリス・キンバリーとは一人の作家なのではなく、夫婦合作のペンネームなのだそうだ。そして、この夫婦にはもう一つのペンネームで別シリーズを書いている。その名前がクレオ・コイルだと知った時には驚いた。何と、私が大好きな『コクと深みの名推理シリーズ』の著者ではないですか!!! なんという偶然! なんという奇縁!! なんという巡りあわせ!!! この夫婦が書いたシリーズにはいくつかあって、この『ミステリ書店』の方が『コクと深みの名推理シリーズ』よりも前に作られているし、シリーズ数が少ない。そうだよね、『コクと深みの名推理シリーズ』は今でも続くほど面白いし、華やかでお話しも色々と膨らますことができるので、二人も書いていて愉しいのだろうね。
そして、時は突然に現代へ。場所は変わらずロードアイランドのキンディコットという町で書店が舞台となる。ニューヨークの出版業界でキャリアをすり減らすことを諦めた主人公ペネロピ・ソーントン・アクルアが、叔母のサディと一緒に経営する書店の経営立て直しの一環として招いたベストセラー作家、ティモシー・ブレナンを招いたベント会場であるその書店で、こともあろうかブレナンが死んでしまったのだ。しかもイベントの最中に。死因は毒殺。ピーナッツアレルギーだったブレナンが飲んだペットボトルの水に、ピーナッツ成分が混入されていた。しかも、ベストセラー作家にペットボトルを手渡したのはペネロピというだけではなく、ベストセラーが死んだ聖地となった書店に次から次へと人が押し寄せて書店の売り上げは空前絶後の状態。状況証拠としては最悪の状態。ここで突然、ペネロピの頭の中で一人の男の声が響く。その男とは、60数年前にこの町で殺された私立探偵のジャックだった。幽霊探偵の登場と相成る。何故か、書店の建物から外に出ることができない幽霊探偵がペネロピにいろいろなアドバイスを与え、素人探偵のペネロピが独自の調査や聞き込みをすることで犯人が炙り出されてくるというお話し。
ティモシーのベストセラー・シリーズはマンネリ化したために一度は人気が落ちたのだが、最近の3部作の出来が良いために以前以上に人気が出ている。そんな中、作家自らがイベント会場でシリーズを打ち止めすると発表した直後に事件が起きたのだった。
ベストセラー作家のティモシーは威張り散らすだけが取り柄のロクデナシであり、イベントを取り仕切るシェルビーはキャリアを鼻にかける高慢でいけ好かない出版取次会社の広報担当、ティモシーからひどい扱いを受けている娘とその夫、シェルビーの部下のジョシュは上昇志向が極度に肥満した野心家。対する地元民は、書店の贔屓客である大学教授、昔テレビのクイズ番組で大金を手にしたことのある町一番の有名人である郵便配達、我こそは町を背負って立っていると意気込みで何処でも何にでも鼻をつっこむ出しゃばり女、ご近所のカフェ経営する夫婦。一人を除いて町の住民は皆ペネロピに同情的で優しい支援者という立場。外部対内部でキャラクターの設定は正反対という分かり良い描写。外から来た人たちはすべて一癖あって全員が犯人であってもおかしくない。一体誰がペットボトルに細工をしたのか?
人気が盛り返すきっかけとなった最新の3部作を分析すると、書き手がティモシーではなく娘婿のケネスであることを地元大学教授がペネロピのヒントを手掛かりに解明する。そして、書店のトイレで注射器を見つけ出したジョシュが交通事故に見せかけて殺されるという第二の事件が発生。これらすべては、高慢なキャリア女のシェルビーが、片思いするケネスを振り向かせるためにやった殺人と判明。推理が不得意の素人探偵が、幽霊となったジャックの手助けを借りて解明する。
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古風で趣のある街の広場の、青々とした芝生。赤く縁取られた真っ白な野外音楽堂。なにもかもがうんざりするほど明るくて健全。どこかそのへんにノーマン・ロックウェルのサインがあるんじゃないかとジャックは思った。
あいつは三ドル札並みにインチキだ。
斜に構えてちょっと毒のある台詞を分かりやすい比喩を使って吐くところがハードボイルド探偵らしい。
だが、いいかい、べっぴんさん、人生ってのはそんなんじゃない。人間ってやつは、そうじゃないんだ。人は怒り、妬む。醜くて、弱くて、愚かさに満ちている。きみもよく知っているようにな。
きみはいやなことから逃げる。隠れる。地面に突っ伏して、対決を避ける。この世はきれいな幼稚園のお砂場だと思っていたいんだ。だがな、目を開けなくちゃだめだ。
幽霊となって体は存在しないが、なぜかペネロピの頭の中だけには出没するジャックが、ペネロピに人生について教える。人、この世中が理想郷の世界でなく、暴力と醜さが満ち溢れる世界であり、それを直視して戦う気構えを持てと諭す。極めてハードボイルド的な世界観だね。
彼の顔には相変わらず笑みが貼りついているものの、小さな丸眼鏡の奥で、緑に瞳に冷たいカーテンが引かれるのを私は見た。
わたしの経験では、怠惰で無能な管理職に気に入られるのは、調子んおいいごますり社員だった。こつこつ努力する地味は社員は見向きもされない。困ったことにわたしは、自分をひけらかすのはいけないことだると教えられて育った。
生き馬の目を抜くビジネスの世界で自分のモラルが旧態依然で使い物にならない。ペネロピはニューヨークの出版業界の世界で、シェルビーのようなキャリア志向の塊たちから、散々いやな目に合わされて逃げるようにして生まれ故郷に帰ってきた存在。そんな弱い彼女が、ジャックの手助けを得て、事件に立ち向かい解決する一種の成長物語でもある。
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あとがきを読んで知ったことなのだが、著者のアリス・キンバリーとは一人の作家なのではなく、夫婦合作のペンネームなのだそうだ。そして、この夫婦にはもう一つのペンネームで別シリーズを書いている。その名前がクレオ・コイルだと知った時には驚いた。何と、私が大好きな『コクと深みの名推理シリーズ』の著者ではないですか!!! なんという偶然! なんという奇縁!! なんという巡りあわせ!!! この夫婦が書いたシリーズにはいくつかあって、この『ミステリ書店』の方が『コクと深みの名推理シリーズ』よりも前に作られているし、シリーズ数が少ない。そうだよね、『コクと深みの名推理シリーズ』は今でも続くほど面白いし、華やかでお話しも色々と膨らますことができるので、二人も書いていて愉しいのだろうね。