『蹄鉄ころんだ』はシリーズ第二作。前作で知り合って目出度く結ばれたピーターとヘレンのシャンディ夫婦の周りで再び事件が起こる。まずは、二人が銀食器を買いに行った店に強盗が入り、ヘレンが人質になってしまう。無事に解放されたものの、犯人も盗まれた金と銀の地金も行方不明のまま。そんな中、晩餐に招待した大学関係者の一人が豚舎で殺され、苦労の品種改造の末の成果であった母親豚が誘拐されてしまう。事件が起きたのは、毎年行われ地域を熱狂の渦に包み込む大学対応の輓馬競技会の直前だったから、学長のみならず大学関係者はピリピリしている。
このシリーズは、これといった盛り上がりがあるわけではなく、淡々として物語が進んでいく。淡々とではあるものの、バラクラヴァ農業大学の周りで住み暮らす人々のまじめで善良で長閑な毎日の生活を、温かい目で見守っているようなトーンが文章に見え隠れしており、それが全体を通してユーモラスな感じを醸し出しているのだと思う。そう思うと、設定を農業大学として、畜産動物や穀物類、そして鋤や鍬を使った競技が大学対抗でなされる非日常の世界の中でのお話しにしていることが、物語の成功の大きな要素だと感じる。
もう一つの成功の要素は、大学関係者の異様な姿だ。頭を殴られても平気で強盗を二度三度振り回して荷馬車に頭を叩きつけるほどの巨体と体力を誇るトールシェルド・スヴェンソン学長と女丈夫な妻と5人の娘たちを始めとして、一風変わった教授陣たちの変人ぶり農業大学ならありかな、と思ってしまう。
謎解きは終盤で一気に行われ、それまでにあちらこちらで張られていた伏線が回収されている。決して目から鼻に抜けるようなタイプとは思えないシャンディ教授が、冷静な観察眼と推理力を活かして、殺された装蹄師の親戚で最近村にやってきたばかりの男だと見破る。騙されているふりをしてシャンディとトールシェルドが大立ち回りを演じて、一味が捕らえられる。
シャディ教授は、さっそうと若いわけでも、尊敬をあつめるほど年をとっているわけでもなく、思わず息をのむほどハンサムでもなければ、人の目をひくほど醜くもない。猛スピードで走る貨物列車より速く走れるわけでも、ひと跳びで高いビルを跳びこえられるわけでもなかった。
平凡な様を描写するために、スーパーマンを形容する懐かしい言い回しを持ってくるところが憎いよね。
あの人は、脳みそがあるべきところにスクランブルエッグがつまっているような人だってことは、あなたも知っているはずよ
ひと様のことをこのように悪く言うのは、あまり良い気分にさせないのだが、お話しの流れの中で出てくると、なぜか許せてしまう。言われた相手のことが悪く書かれており、こう言われるのが当たり前のようになっているからなのだろう。文脈の恐ろしさというべきか。
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■『にぎやかな眠り』
堅物の大学教授がいたずらで仕掛けたクリスマスイルミネーションのせいで、ご近所の厄介者のお邪魔虫主婦が死んだ。死体から教授は殺人だと思った。長閑なはずの農業大学がある田舎町のクリスマスが突然にきな臭い時期に変貌。大学教授らしい一歩一歩論理を固めていく推理から教授は殺人犯を割り出していく。ホームズらしい華々しさがあるわけでなく、これと言った冒険がある訳でもなく、それでも一歩一歩進んでいく。大学の学長夫婦、教授や助教授陣たちの田舎での生活を、これまた一歩一歩丁寧に温かくも手厳しく描きだす描写が登場人物の全員を面白く見せてくれる。ニヤリとする笑いが好きな人向けのミステリ。
- たとえティモシー。エイムズが泡立つ生石灰の大桶の中で足の先から一センチずつ溶けて言っているときいても、今のシイラ・ジャックマンは同じ返事をしただろう。
- 監査役のベンが死んだのは、おそらく散文的な理由があるはずだ。
登場人物の魅力度 ★★
ストーリー度 ★★★
設定の魅力度 ★★★
台詞の魅力度 ★★
このシリーズは、これといった盛り上がりがあるわけではなく、淡々として物語が進んでいく。淡々とではあるものの、バラクラヴァ農業大学の周りで住み暮らす人々のまじめで善良で長閑な毎日の生活を、温かい目で見守っているようなトーンが文章に見え隠れしており、それが全体を通してユーモラスな感じを醸し出しているのだと思う。そう思うと、設定を農業大学として、畜産動物や穀物類、そして鋤や鍬を使った競技が大学対抗でなされる非日常の世界の中でのお話しにしていることが、物語の成功の大きな要素だと感じる。
もう一つの成功の要素は、大学関係者の異様な姿だ。頭を殴られても平気で強盗を二度三度振り回して荷馬車に頭を叩きつけるほどの巨体と体力を誇るトールシェルド・スヴェンソン学長と女丈夫な妻と5人の娘たちを始めとして、一風変わった教授陣たちの変人ぶり農業大学ならありかな、と思ってしまう。
謎解きは終盤で一気に行われ、それまでにあちらこちらで張られていた伏線が回収されている。決して目から鼻に抜けるようなタイプとは思えないシャンディ教授が、冷静な観察眼と推理力を活かして、殺された装蹄師の親戚で最近村にやってきたばかりの男だと見破る。騙されているふりをしてシャンディとトールシェルドが大立ち回りを演じて、一味が捕らえられる。
シャディ教授は、さっそうと若いわけでも、尊敬をあつめるほど年をとっているわけでもなく、思わず息をのむほどハンサムでもなければ、人の目をひくほど醜くもない。猛スピードで走る貨物列車より速く走れるわけでも、ひと跳びで高いビルを跳びこえられるわけでもなかった。
平凡な様を描写するために、スーパーマンを形容する懐かしい言い回しを持ってくるところが憎いよね。
あの人は、脳みそがあるべきところにスクランブルエッグがつまっているような人だってことは、あなたも知っているはずよ
ひと様のことをこのように悪く言うのは、あまり良い気分にさせないのだが、お話しの流れの中で出てくると、なぜか許せてしまう。言われた相手のことが悪く書かれており、こう言われるのが当たり前のようになっているからなのだろう。文脈の恐ろしさというべきか。
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■『にぎやかな眠り』
堅物の大学教授がいたずらで仕掛けたクリスマスイルミネーションのせいで、ご近所の厄介者のお邪魔虫主婦が死んだ。死体から教授は殺人だと思った。長閑なはずの農業大学がある田舎町のクリスマスが突然にきな臭い時期に変貌。大学教授らしい一歩一歩論理を固めていく推理から教授は殺人犯を割り出していく。ホームズらしい華々しさがあるわけでなく、これと言った冒険がある訳でもなく、それでも一歩一歩進んでいく。大学の学長夫婦、教授や助教授陣たちの田舎での生活を、これまた一歩一歩丁寧に温かくも手厳しく描きだす描写が登場人物の全員を面白く見せてくれる。ニヤリとする笑いが好きな人向けのミステリ。
- たとえティモシー。エイムズが泡立つ生石灰の大桶の中で足の先から一センチずつ溶けて言っているときいても、今のシイラ・ジャックマンは同じ返事をしただろう。
- 監査役のベンが死んだのは、おそらく散文的な理由があるはずだ。
登場人物の魅力度 ★★
ストーリー度 ★★★
設定の魅力度 ★★★
台詞の魅力度 ★★