いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

駅 (第14編)

2005年07月09日 08時18分26秒 | 娘のエッセイ
 駅というのは、出会いと別れの場だ。そのせいか、そのゆきずりの中で、人の
本性が垣間見えたり、あたたかな触れ合いに出会えたりする。

 数年前のこと、私は夕方の通勤ラッシュ時に、○○駅で電車に乗ろうとした。
次の瞬間、ふっと身体が宙に浮いた。あろうことか、なんと私は、片足をすっぽり
と電車とホームとの隙間に突っ込んでしまっていた。

 何が起こったのか理解できないまま、私は両脇を見知らぬ男女に掴まれ、無
事ホームに引き上げられていた。

それも、年配者から「今時の…」とよく言われる若者達に、である。
 
 その時、私を助けてくれたり、心配して声をかけてくれた人の中に中高年はひと
りもいなかった。周りには中高年の方が多かったのに……。

「ああ、疲れた中年のオジサンは痴漢はしても、こういう時には手がでないのだな
ぁ~」と再認識した。
 
 見知らぬ人によく話し掛けられる私だが、先日は珍しく若い女性に話し掛けられ
た。電車内で私の隣に座った女性が、私の抱えている花をずっと見ていたのは知
っていた。 

 その日の私は、白い紅花とグリーンベルという珍しい花をもっていたからだ。電
車が△△駅に着いた時、がまんできぬ、というふうに声を掛けてきた。「これ、な
んて言う花ですか」。私は花の名前を教えてあげ、そのぷっくりと丸く膨らんだ花
にも触ってもらい、感触を楽しんでもらった。

 その時の彼女の嬉しそうな顔!

「こんな花、持って帰ったら子供が喜ぶでしょうね」と彼女は笑顔で言った。花好き
の彼女とは、もっと会話ができそうだったが、生憎私は降りなければならなか
った。挨拶をして、ホームをかけ降りる時、「彼女にグリーンベルを1本あげれば
良かった」と、ちらっと後悔した。

 それほど彼女の笑顔は魅力的だったのだ。とかく都会の駅は混雑していて人に
冷たいイメージがあるけれど、自分が拒否さえしなければ、こんな素敵な出会いも
あるんだよね。
コメント (1)
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