穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

木枯らし第一号

2023-06-05 07:04:19 | 無題

秀夫が狂風荘と命名した父の家は四囲を五十階だてのタワーマンションに囲まれた底にあった。上空から写真を撮れば井戸の底にあるように見えただろう。おまけに運河に近く常に強風が吹き荒れる。海岸から橋を一つ渡って築地あたりに来ると嘘のように風は収まるのだが、家の近くでは体が持っていかれそうな強風が吹いている。

今日は老父の誕生祝いということで兄弟姉妹が夕刻から集まっている。今夕は強風がひときわ凶暴なうなり声をあげている。

「木枯らし一号かしら」

「それにはちょっと早いようだ」などと言っていたが、暮れるについて築四十年の木造家屋が土台ごと持っていかれそうな不安に、妹たちは幼い子供ずれでもあるし一人抜け、二人抜けと早々に父の家を辞していった。

何時もの例で集まると最後は不動産屋の兄が父に家を売れとこわ談判を始める。酒に弱い秀夫は頭痛をしてきたので二階に上がり寝室に布団を敷いて横になった。

 


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