穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

アップデート要求51:古人間学とは何ぞや

2021-04-19 07:38:40 | 小説みたいなもの

 殿下はテーブルの上の一冊の本を取り上げた。タイトルは「古人間学について」とある。著者は尿露理新左エ門である。この著者は新進の星人研究者であると裏表紙の折り返しに紹介がある。帯の惹句には彼は星人で本名は『ヌルヌルニョロニョロテカテカ』というそうである。星人の地球政策を理解するためには必読の書であるとうたってある。

 どうも意味が分からん、と殿下は呟いた。タイトルはどこで切れるのか。古い人間についての学説あるいは学問なのか。はたまた、古い時代遅れの人間学というか人類学についての紹介と言うか批判なのか。「はっきりしないな」と戸惑いながら中を読んでみると、『古い人類』についての研究らしい。古い人類とは文明の発達過程において星人に五百万年遅れている地球人のことらしいのである。

 彼らは学者としてのジレンマを抱えている。たとえば古代建築の研究者なら古い建物はそのまま保存していじくりまわさないほうがいいと思だろう。一方古くて地震や風水害によわく、不衛生で不便な建築物は壊して近代的で衛生的な団地などに再開発したほうがいいと主張する連中がいる。

 再開発派は星人の民政局の連中である。保存派は現状維持派で古生物である人間社会を研究したいのである。星人の地球政策はどうもこの二つの考えの間を揺れ動いているらしい。その折衷案として民政局の指導は勧告と言う強制力のない性質を有しているのだ。

 民政局は勿論自由主義体制を進めたいのだが、古色蒼然とした独裁体制国家、圧政国家、全体主義的国家を武力で崩壊させようとまではしない。つまり星人の勧告を拒むなら強制はしない。なるほど、と殿下はうなずいた。どうりでいまでも独裁国家、非人道的圧政国家がいくつも残っているわけなのだ。

 国連を通じて全世界の向かって出された星人の勧告は数百に達しているが、非自由主義国家はこれらの勧告をことごとく拒否しているではないか。

 星人の研究者はこのようなドグマ、イデオロギーの異なる社会、経済体制の雑居する並立並存は必然的に地球規模の核戦争につながると警告している。そして、と殿下は納得した。その結果、近過去にも大規模な核戦争があったらしい。それで日本列島にも放射能の雨が降り注ぎ、男女すべてが褌をしているわけが分かったのである。

 星人はそのようなカタストロフィーの必然性を予期しながら手をこまねいていたのか。それへの対策として星人が日本などの先進的な国家に提供したのがミサイルや核攻撃に対する完全防御システムであるということらしい。

 

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