穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

これがハードボイルドだって? 小説家はヤクザである

2017-01-26 11:17:28 | 直木賞と本屋大賞

前回書いたが「破門」が直木賞を受賞した時に、取り上げようとして書店で見つからなかった。どうせ同じ作者が書いたなら似たようなものだろうと書名はわすれたが「*神*」とか言うのを買って途中まで読んだ。非常に退屈な本でヤマがない。ということは平野も裾野もない。同じような場面(つまり丘)は数十回、数百回続くという印象だった。 

そのときの記憶を忘れていたので、前に探した本があった、というので破門を買ってしまったのだ。立ち読みで後書きにずらずらと直木賞の選考委員の評が引用してある。これ以上ない言辞を連ねて絶賛している訳ね。今回途中まで読んで一体これらの選考委員がどんなことをいったのか、と改めて後書きをみたのだが、呆れたの一言。

ただ、高村薫の批評に「ほかの五作に抜きん出ており」とある。ほかの五作とは同じ作者のそれまでの作品ととれるが、比較の上で言うと「*神*」よりかはいいだろう。それとも「他の五作」というのはその回の他の候補作のことかな。

この後書きの作者は紀伊か何処かの地方紙の記者らしい。もとは朝日新聞にいたらしいが、この作品は「ハードボイルド」だという。これもおかしな意見でこれが「日本の」ハードボイルドなのかしら。任侠映画を崩した小説みたいで、私は任侠映画というのは、あるいはヤクザ映画というのはウェットの極致にあると思っているから、これをハードボイルドと言われると唖然とする。

ところで、何だね。これは警察を相当刺激しただろうね。暴力団対策の刑事が出てくるが、これが下っ端のヤクザから5万、10万のはした金を貰って違法な使い走りをする場面が頻繁に出てくる。しがない文芸誌に連載している分には目立たないだろうが、直木賞をとって社会ダネのニュースになると警察もなにかいいたくなるんじゃないかな。それで出版社に圧力をかけたのかもしれない。 

それと金融犯罪の手口を言わなくても良いことまで細かく書いている。それだけ一生懸命取材をしたのだろうが、オレオレ詐欺(この小説はそうではないが)の手口を紹介するようなもので警察としては待ったをかけたくなるだろう。

滑稽なのは、何回もマカオの取材に行った作者の成果をぶちまけたいのだろうが、カジノでの描写が細かすぎて興味索然とする。小説の流れから言うとこんな説明は全く不要である。

カジノで葉巻を吸う場面があるが、爪楊枝で吸い口を開けるというのを得々として書いている。専用のカッターがあるのを取材しなかったのかな。歯で噛み切ると吸い口がバラバラになるから、というのだがカッターが無い場合は吸い口を噛み切るのが普通じゃないの。葉っぱがバラバラになるなんてことは経験したことがない。田舎者が大根をかじる様に噛み切るとそうなるのだろう。よほど安物の葉巻ならしらないが、一本300ドル(香港ドルらしいが)もする高級葉巻が吸い口を噛み切ったからとバラバラになるとは有り得ないことだ。そんな巻きの粗雑な葉巻にはお目にかかったことがない。