min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

サハラ

2008-05-19 07:57:28 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『サハラ』徳間書店 2008.4.30初版 1600円+tax

オススメ度★★★☆☆

主人公である檜垣耀二は気がついた時には周りが一面の土漠で、墜落したヘリの残骸があり傍らにはAK47突撃銃があった。檜垣、いやこの男は自分の名前はおろか今、何故にこのような場所にいるのか皆目分からなかった。この男は全ての記憶を失って倒れていたのだ。
墜落したヘリにあったアタッシュケースにはほとんど黒コゲになったアラビア語で書かれた論文と、かろうじて名前が判読できる「檜垣耀二」名義のパスポートが入っていた。
やがて捜索の別のヘリが飛来し、それを撃ち落すベトウィン姿の男たち。彼らはポリサリオ戦線の戦士たちであった。
記憶がないまま聞くところによると、檜垣はポリサリオ戦線の招きで軍事顧問として赴任する途中、行方をくらましたらしい。
アラビア語の論文は判読できる部分から推して、西サハラにあると思われる新たな石油油田に関するものらしい。
これを檜垣はポリサリオ戦線に持ち込もうとしていたのか。ここから檜垣はポリサリオ戦線の軍事部門総司令官マンスールの全面的な助けを借り、自らの記憶を取り戻し本来の自分の任務が何であったのか必死に探ろうとする。
かっての傭兵仲間であるフランス人ピガールやパリ在住の日本人武器商人、戸崎と会うことによって、記憶を失う以前の檜垣がどのような男であったのかを知り、最近何かのミッションを密かに行う予定があったようだ。
更に調べるに従い、西サハラに眠る新たな油田をめぐって米国、CIA、ロシア、モロッコ、そして日本が絡む壮大な謀略が浮かび上がってくる。
檜垣が最も悩んだのはジュネーブかどこかにPTSDに苦しむ妻を残したままこのミッションに入ってしまった、ということが判明したことだ。
果たして檜垣は記憶を取り戻し、妻の行方を探し出すことが出来るのか?油田をめぐる陰謀とは一体何かを解明できるのであろうか?

どうも部分的な記憶喪失というのが気に食わない。今回は自白剤の投与によって引き起こされたらしいという設定であるが、どうもこの設定自体がご都合主義的に思えてならない。
本編では檜垣は自らが何者であるかを探す旅に出るのであるが、この過程で読者にも彼、檜垣ばかりではなく登場する人物たちを間接的に知らしめる手段として「記憶喪失」が利用されている。
実際、主人公を含めた登場人物及び物語の進行を理解する為には、以前に上梓された「フォックス・ストーン」や「マングースの尻尾」を読まなければ何も分からない。
記憶が戻るまでの半ば“説明”部分にページをとられ、肝心の陰謀の真相、顛末にさくべきページ数が圧縮されてしまい、妙にバランスがとれない構成となってしまったのは残念だ。
だが、陰謀の中味を知った時、よくもまぁこのような発想が出来るものだ!と感心させられるほど著者の国際感覚は研ぎ澄まされたものがある。
久方ぶりの著者の「国際謀略巨編」を楽しんでいただきたいものだ。


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