min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

憑神

2007-06-15 23:43:06 | 時代小説
浅田次郎著『憑神』新潮文庫 H19.5.1発行 514円+tax
★★★★☆(今回から星5つ評価を開始いたします)

別所彦四郎、260年続いた御徒士組に属すのだが見事なまでに“貧乏”である。
この男、そこそこ文武両道に優れ世が世なら他人より出世も望めたのであろうが幕末の混沌とした世相の中で次男の身でろくな仕事にありつけるものではない。
男子の嫡男がいない他家の嫁婿として迎えられたのはまだ運が良かったとも言えようが、男の子が誕生したとたん“お役御免”とばかり離縁されて実家に戻りゴロゴロするばかりの体たらく。
一杯の蕎麦と店主に酒をおごってもらって酩酊した帰り道、ひょんなことから土手の草むらに隠れた小さな祠に神頼みしてしまったのが運の尽き。
ここは「三巡稲荷」といい、神は神でも“憑神”といわれるとんでもない神様であった。
霊験あらたか、さっそく彦四郎の前に現れたのはなんと“貧乏神”であった。次は“疫病神”こうなれば残るは“死神”と相場は決まっている。
この神々がまたユニークで、擬人化しての登場となる。こうなるともう荒唐無稽な話で普通の作家が書くと噴飯ものになるであろうところを、さすが浅田先生、見事に読者を欺き笑わせてくれる。
だが単なるユーモア怪奇小説と思われると困るのである。浅田先生はここで極めて真面目に『人は何のために生きるのか』という大テーマを大上段に振りかざし読者に問いかける。読者にだけではない、先の神々にまで問いかける始末。
かくして神をも超える人間、彦四郎の感動的な終末が読者をして感動の極みに誘うのだ。いつもながらの浅田先生の天才詐欺師的技法の真髄が発揮されたストーリーテリングに拍手、拍手!

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2 コメント

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Unknown (ディック)
2007-07-17 22:53:20
>かくして神をも超える人間、彦四郎の感動的な終末が読者をして感動の極みに誘う
というほど素直には、ぼくは読めなかったです。やや、複雑な心境です。
まあ、相変わらず上手な作家であることに間違いありませんけれど。
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Unknown (min-min)
2007-07-19 19:48:10
確かに現代に生きる我々の価値判断からすれば、ナンセンスな行動かも知れませんね。
しかし、武士の本懐は「死に様」が一番であった当事、彼のとった行動はそれなりに筋が通ったものなのでしょう。

正直なところ、僕自身「感動の極み」までは行かなかったことを白状いたします(^^;)
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