min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

欅しぐれ

2007-06-22 21:21:02 | 時代小説
山本一力著『欅しぐれ』朝日文庫 2007.2.28第1刷 600円+tax

★★★★★

通常ならけっして出会うことも、ましてや親交を結ぶなどありえようがないはずの男と男が出会い、ほぼ一瞬にして「相手の器量」を見切り互いに惹かれあう、という物語。
ただし、高村薫ばりの“やおい”の臭いは一切しない。

ひとりは江戸深川の大店、桔梗屋の五代目当主である太兵衛。いまひとりは同じく深川で賭場を張る貸元である渡世人、猪之吉。
このふたりが出会い、親交を結ぶさまは読んでいて気持ちが良い。ある程度年輪を刻み、内容は相互に違うもののそれぞれ“修羅場”をかいくぐって生きてきたふたり、互いに住む世界は違うものの「男気」あふれるふたりの生き様が眩しいほどだ。

物語は、太兵衛の店が何者かの指図により乗っ取りを図られる。その乗っ取り実行犯の親玉及びその手下どもは、最初はからめ手(経済的手段)から最後は正面から(暴力的手段)桔梗屋を付け狙う。
太兵衛から店の後見人を頼まれた猪之吉が、己の持つ全ての力を振り絞りこの敵に立ち向かう。現代で言えば壮絶なエスピオナージ戦がお江戸で火花をはなって繰り広げられわけだ。
猪之吉は戦う、全ては「友情」のために!
彼の「男気」、それは単に情念の世界にとどまらず、実務としての段取り、気配り、先読み等々、まさに「男の美学」といっても過言ではなく、平成の腑抜けの男読者たちを唸らせるに違いない。
『損料屋喜八朗始末控え』に続く山本一力氏の骨太な時代小説だと思う。出来はこちらのほうが上とみた。