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佐伯 泰英著『声なき蝉-空也十番勝負 青春篇 上・下』

2017-05-27 20:30:01 | 時代小説
佐伯 泰英著『声なき蝉-空也十番勝負 青春篇 上・下』双葉文庫 2017.1.11第1刷 

おススメ度 ★★★☆☆

「居眠り磐音江戸双紙」シリーズが実に51巻という長大な物語となって終えた記憶はまだ新しい。かのシリーズの最終場面で磐音の息子空也が武者修行に出るのを妻おこんと共に見送った時、読者の多くは必ず息子空也を主人公とする物語がきっとはじまるであろうことを予感したと思う。
そして本書が上梓され、タイトルに空也十番勝負とあることから、少なくとも10話のシリーズとなると思われる。
さて、空也が武者修行として最初に選んだのが南国薩摩であった。かの地で薩摩示現流の太刀を学びたいという事であったが、薩摩は江戸時代最も他国者、特に江戸幕府の隠密の潜入を拒んだ藩として知られる。果たして何の回状も持たない空也が無事薩摩藩に入ることが出来るか否かが最初の大問題であった。
著者佐伯 泰英はここに「外城衆徒」なる闇の国境監視集団を登場させ、空也の入国を徹底的に阻止しようとする。上巻はほぼこの外城衆徒との暗闘に費やされ、空也は毒矢を浴びながら滝つぼへ真っ逆さまに落下して終える。この滝壺へ落ちて命が助かったものはなくその骸すら上がらないと言われる所であるが、空也が死ぬわけがない。死んだら下巻は無いわけだから。
もう一つ特筆すべきは空也が薩摩藩に入るにあたって自らの口を閉ざしたことである。つまり聾唖者のふりをした訳だ。この設定は中々考えた設定であると思う。下手に口を開けばたちどころにその出自がばれるからだ。本書のタイトル「声なき蝉」とはまさに空也自身のことであった。
とにかくそんな聾唖者を装った若き修行者は口はきけないが、その人となりと行動で多くの支援者を得る。最大の支援者を薩摩の地で得られたのが本書のキモであろう。物語の詳細は省くが、僕が最も本書を読んで嬉しかったのは我が愛する霧子が出て来たことだ。消息を絶った空也が心配で心配で亭主にも黙って空也が無事薩摩入りを果たしたかどうかだけでも確認したいと彼の足跡を辿る霧子。
霧子の胸中を想うと、なんとも切なくなる。霧子の人生はこれだけでも一遍の小説と成り得るほど数奇な運命を背負ったおなごである。
ともかく、磐音の息子は偉大な剣客である父を超えることが出来るか!?というのが本シリーズの最大のテーマかも知れない。
著者も齢70代の後半を迎え、何時まで健筆でいられるか分からないが、渾身の力を込めて書き進めていただきたい。

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