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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

泣きの銀次

2006-08-20 10:01:31 | 時代小説
宇江佐真理著『泣きの銀次』講談社文庫 2000.12.15 590円

死体を目にすると嗚咽ばかりかあたりかまわず慟哭し泣き崩れてしまう、という何とも締まらない十手持ちの銀次。いつしか人々は彼を「泣きの銀次」と呼ぶようになった。
だがこれには理由がある。彼は小間物やの長男としてうまれ何不自由なく育ち20才を前にして廓に現をぬかす、いわば放蕩息子であった。
そんなある日、彼の妹が変死したのであった。その現場に駆けつけた銀次は妹の死骸を前に身も世もないほど泣きじゃくりながらオイラが下手人をあげると泣き喚いたのであった。
これを見ていた同心で神道無念流の達人である同心勧兵衛は冷たく「おめえに何ができるか」と一喝したところ銀次は勧兵衛につっかかる。
百姓剣法を習っていたとはいえ神道無念流の達人にかなうわけもない。勧兵衛にこてんぱんにやられた銀次ではあるが勧兵衛にその意地を見込まれ彼の岡っ引きとなった銀次であった。

かくして何とも奇妙な十手持ちが誕生したわけであるが、妹の下手人の手掛かりが得られぬまま10年も経った頃ようやく事件に関係すると思われる人物に行き当たる。

その前に実家の小間物屋に奉公するお芳との結婚の約束やら、その実家が盗賊に襲われるやら一気呵成に銀次の身辺が慌しく変化する。
お芳との恋の行く末と妹を殺害した下手人の捜索を軸に物語はクライマックスを迎えるのだが・・・・

どうもこの作家、「髪結い伊三次」といい本編の銀次といい主人公の男に対しては偏り?があるようだ。
ともに男前でちょっと華奢なタイプが好みのようだ。ま、いいけどね。
特に本作品の銀次は現代でいえば典型的なイケメンであるわけだけど、仏を前にするとだらしなく泣き崩れるというその“落差”が逆に魅力となっていることは事実。このあたり作者も巧妙に考え抜いているわけだ。
「幻の声」に次ぐ宇江佐作品の2番目であるわけだがこれで宇江佐氏の実力も判った次第で今後とも安心して読み進めることができそう。次回は再び「髪結い伊三次」シリーズに進もうと思う。


幻の声

2006-08-13 13:21:24 | 時代小説
宇江佐真理著『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』文春文庫 2000.4.10

以前この題名を見ただけで敬遠してしまったことがある。だって髪結いですぞ。
それにどうも女流作家のようだし・・・・
かくしてこのシリーズを我が手にする機会はなかった。

だが、我が読書仲間であるディックさん、ゴンさん、まあちんさんといった「時代小説」にもうるさい?連中がハマッているようだ。ある日古本屋で手にとって解説を読んでみると函館出長の作家であるという。
また僕と同世代どころか全く同じ年であることがわかり俄然興味を抱いた次第。
北海道出身でかつ女性で江戸の捕物帳を描くなんて、興味が湧くじゃありませんか!

さて、読み始めて「髪結いの亭主ならぬ本人が髪結いで、そんで同心の下っぴきをやる?」という当然?にも違和感を感じた。
またこの上役の不破という同心が嫌な野郎で・・・・・

ところが主人公である伊三次よりもその取り巻く人物たちが面白いことに気づき始める。
先ず伊三次の恋人お文。現役の深川芸者のきっぷの良さが言葉のはしばしにキラリと光る。伊三次とのかけあいも見もの。
最初は嫌な野郎と思った同心、不破の意外な一面を知る。彼の恋女房となったいなみとの馴れ初めからその後いくつかの事件を通し不破の魅力が浮き出てくる。
いや不破よりも妻いなみのほうがもっと重要な存在となろうか。

はでな捕り物帳ではないのだが伊三次とお文の恋の行く末を案じながら彼らの周りで起こる事件に江戸庶民の情をからめながら進む物語の数々。これはちょっと先を読みたくなるではないの!

鬼平犯科帳(15)

2006-01-22 11:01:16 | 時代小説
池波正太郎著『鬼平犯科帳〈15〉特別長篇・雲竜剣』文春文庫

鬼平犯科帳の読書感想を書くのは初めてだ。(1)~(14)巻までは短編の物語から構成され、とはいえ時系列的には連続した物語となっているのだが、なかなか感想を書きづらいものだ。
この(15)でシリーズ初めての長編となり、物語の内容も読み応え充分。何より今までにみられないサスペンス&ミステリー仕立てで書かれている。

鬼平が黒頭巾をかぶった謎の剣客に襲われ、からくもその凶剣から逃れたもののその後何度もその凶剣をふるう黒ずくめの刺客のナイトメアーに苦しむ鬼平であった。
あろうことか部下の同心2名が何者かによって斬殺され、門番も殺される。何者かが「火付強盗改方」に対し公然と挑戦してきたようだ。
犯人像やその目的とするところの手がかりが得られない。平蔵は悪夢に現れる謎の剣客と今回の事案が繋がっていることを本能的に察した。そこで「火付強盗改方」の全員に“戒厳令”ともいえる布陣をしき、敵対する謎の人物、組織の解明に全力を傾ける。
舞台も江戸市中の枠を越え、茨城、静岡へと広がりをみせる。全編が短編では味わえないデティールが描かれスケールが大きく描かれる。本編は時代小説の姿を借りた“ハードボイルド”だ。

ゼーランジャ城の侍

2005-09-21 17:46:49 | 時代小説
新宮正春著 新人物往来社刊行 1989.4.15 第1刷 ¥1,350

17世紀台湾の台南、安平にオランダ人によって築かれたゼーランジャ城は鄭成功の軍船に包囲されていた。オランダ軍側と鄭成功側にそれぞれ日本人侍の傭兵がおり、鄭成功の暗殺をもくろむ勢力とそれを阻止せんとする勢力、同じ日本人傭兵同士が繰り広げる暗闘を描いた異色の作品。
全般的に著者新宮正春の文章に堅さが目立ち、構成が荒削りに感じるところがあり、せっかくの小説の素材が生かされなかった気がしてならない。

尚、余談ではあるが鄭成功に加担した日本の侍によって構成された「鉄面人隊」の活躍を描いた好書に 高橋和島著 『朱帆』『怒帆』がある。

鬼の剣

2005-07-12 13:48:11 | 時代小説
田中光二著 ハルキ文庫2005.6.18 620+tax

上背が七尺を超え五尺の長刀を背中に吊るした異形の剣士、その名は無双伝鬼。
仙台藩の松林道場を皮切りに江戸を迂回しながら各地の有名道場破りを繰り返し列島を南下している。この異形の者の正体と目的は何か。尾張柳生の里にある理由で蟄居を命じられていた柳生十兵衛はこの無双伝鬼の討ち取りを父から命じられる。
十兵衛は無双伝鬼の目的地は肥後の国であることを直感する。かの地には天下無双の剣客・宮本武蔵がいた。
天狗の落とし子かと思われる無双伝鬼の剣。その異常な膂力は人間離れしており、かつその敏捷さは空を飛ぶツバメさえも切り落とす。ま、ちょっと荒唐無稽な剣法ではあるが迫力は十分だ。
やはり最大の関心は宮本武蔵との一騎打ちだ。そして十兵衛は使命を全うできるのであろうか。

時代小説としてはかなり奇妙なテイスト(柳生十兵衛と宮本武蔵の組み合わせなど)を持っている。それもそのはず田中光二といえば初期の頃は優れたSF作家として鳴らした作家であり近年だと仮想戦記もので名を売っている。
一体いつから時代小説作家に転向したの?と聞きたくなるほど、個人的に作家イメージと内容が重ならない点にその違和感の理由があるのかも知れない。
軽く読み流す程度には楽しめる作品だ。

黒頭巾旋風録

2005-06-16 17:44:37 | 時代小説
佐々木譲著 新潮文庫

黒マントをまとい、黒の頭巾をかぶり、栗毛の馬に跨って蝦夷の荒野を駆け巡る。手にする武器は長い鞭ひとつ、アイヌに対する極悪非道の和人どもを片っ端から懲らしめる。
おお、正義の味方「黒頭巾」!ほとんど「怪傑ゾロ」ってぇところだろうか。
佐々木譲の、北海道がまだ蝦夷地と呼ばれた時代、あるいは開拓時代初期を背景にした小説には「雪よ荒野よ」「五稜郭残党伝」「帰らざる荒野」「北辰群盗録」といった作品群がある。
僕はこれらの小説を勝手に佐々木譲の「らーめんウェスタン」とよばせてもらっている。
さて、本作の黒頭巾であるが「そんな奴がいたわけねぇだろ」という読者側からの突込みを意識してか、冒頭部である程度の時代考証をしており黒頭巾の存在が全く根拠のない荒唐無稽なつくり話ではないことをさらりと述べている。
ともあれ、松前藩が先住民アイヌに対して行った強制労働に近い蛮行は歴史的事実であり、北米における先住民インディアン同様、彼らの固有の言葉、文化が後の征服民族によって絶滅されつつあるのは今尚今日的問題として残っている。


航海者

2005-05-25 17:50:15 | 時代小説
白石一郎著『航海者-三浦按針の生涯(上・下)』文春文庫 上下\610

戦国時代にかの徳川家康に召抱えられた唯一の外国人、三浦按針ことウィリアム・アダムスの生涯を描いた作品。
ウィリアム・アダムスはイギリスのケント州に生まれ、12歳で造船工となる。父は同じく貧しい造船工であったが一攫千金を夢見て北方航路開拓の船団に乗り込み消息を絶った。
息子はその後イギリス海軍に入り技を磨き、ついには航海長としてオランダの東方航路開拓の5隻の船団に加わることになった。
船団の出発時期が季節はずれであったため喜望峰経由を断念。一行は急遽アフリカ西海岸から大西洋を横断し南米に沿って南下、マゼラン海峡を経て太平洋に出て日本へと向かった。
だが彼らの行く手には熱病、栄養失調、寒さ、飢餓、大嵐、未開の現地人の襲撃などが次々とたちはだかり、当初5隻あった船団が日本へたどり着いたのはただの一隻であった。
最後の1隻となったリーフデ号の乗組員もオランダの港を出たときには百数十名いたものが最終的に生きて日本へたどり着いたものは14名のみという、いかに当時の航海が過酷であったかを物語る。
ここまでを描いたのが上巻。下巻では日本の九州へ漂着したウイィアム・アダムスがいかに家康に重宝され、あげく浦賀に領地を与えられ苗字帯刀を許されたかが描かれる。
全編を通じ、ウィリアム・アダムスというイギリス人の、その類まれなる航海者としての情熱と冷静かつ真摯な生き様が圧倒的筆致でもって描かれる。
この作品は白石一郎の海洋ものの一大集大成ともいえるもので、日本の時代海洋小説を描き続けた著者もまた偉大な“航海者”として三浦按針の中に自己投影されているような思いがした。

『あかね空』

2005-05-17 16:50:01 | 時代小説
山本一力著・文春文庫 2004.11.25 590+tax

時代小説であるが切った張ったのチャンバラは一切ない。何故なら登場人物が江戸深川の長屋に住む人々であり、博徒や鳶の衆もからむが武士は一切登場しないからだ。
物語はひとりの京都出身の豆腐職人が独立しようと江戸にやってきて、長屋で出会った
桶屋の娘と結婚する。そして結婚後の彼らの子供たち親子二代に渡る豆腐屋の繁盛記というか家族間の愛憎劇を描く内容となっている。
京都で培かわれた上方風の豆腐が果たして江戸で受け入られるのか、それを妨害しようとする狡猾な同業者がいて、一方思いもよらぬ協力者がいる。
この江戸の昔の商売繁盛記ともいえる下りが面白く、更に枝葉となるエピソードを織り交ぜながら活き活きとした深川下町の庶民の人情が巧みに描かれている。エピソードといっても実は最後に重要な落ちをつくるという巧妙な筆者の布石があることを読者は最後に知ることになる。このあたりの伏線のもっていきかたは作者の秀でた力量ともいえようか。
江戸時代を背景としながらも家族の愛というテーマは普遍的であり、ことに子育てに関する父親と母親の葛藤は極めて現代的テーマでもある。
本編が平成14年の直木賞受賞作であることに納得するとともに今後どのような作品世界を築くのか期待したい作家だ。

鬼平犯科帳

2005-03-27 22:10:35 | 時代小説
言わずと知れた池波正太郎さんの人気シリーズ。小説ばかりかテレビや舞台でも取り上げられているので今更説明の必要もないくらいでは。
だがしかし、私は全くの未読シリーズ。池波さんの他の単作は今までもけっこう読んでいて「夜の戦士」とかの忍者物も好きでした。
昨年、「剣客商売」シリーズをかじって以来、完全に嵌り全作品(含番外編)を読み漁り非常な感銘を受けました。今年はこのシリーズにしようとばかり現在せっせと全巻を揃えるべく中古書店めぐりをしております。
ま、ご存知かと思いますが本シリーズの主人公は幕府の火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵。火付盗賊改方というのは一種今でいえば“特別機動捜査隊”みたいなもので、特に凶悪な強盗団に対しては江戸市中はもちろん場合によっては他国へ踏み込んでの捜査権や逮捕権が与えられている。
徹底した捜査の陣頭指揮をとる長谷川平蔵長官は当時の盗賊たちにとってはまさに鬼のような存在であり、いつしか“鬼平”と呼ばれ恐れられた。
一作目は鬼平の生い立ちやら、取り巻き連中の係わりやら、ゆるゆると物語が進行し今後の活躍の期待やら、「剣客商売」にもあった江戸情緒、当時のグルメが大いにまた期待できそうな予感がいたします。