百田尚樹著『永遠の0』 講談社2009.7.15 第1刷 876円+tax
オススメ度:★★★★★
健太郎は26才にもなって仕事もせずにぶらぶらしていた。それは彼が司法試験を4年連続受けたが不合格となり、今や何もする気力が湧かないからであった。そんな時、姉の慶子が電話をかけてよこしアルバイトをしないかと告げた。彼女はフリーのライターで、ある大手出版社が終戦記念特集を組む予定であることから、それに関連して彼らの祖父のことを調べてみないか、というものであった。
彼らの祖父はゼロ戦のパイロットだったそうで、最後は神風特攻で戦死したとのことであった。
健太郎は祖父とはいいながら、祖母がその後再婚し、その夫である健太郎の祖父にあたるお爺ちゃんがいまだ健在であるため、亡くなった実の祖父については何の関心もなかった。
だが、お袋の父親がどんな人物であったのか多少は興味が湧かなかったこともないし、何より退屈であったのとカネにもなるということで姉の願いをきいてやることにした。
戦後60年以上経過したことから、祖父を知る戦争当事者たちは皆高齢であった。あらゆる手段を駆使して幾人かの関係者がまだ生存していることを確認し、会って祖父のことを聞かせてほしい旨連絡を取った。
最初に会った人物から、いきなり祖父は臆病者で大嫌いだったと告げられショックを受けた。祖父は周囲のものに「絶対に死にたくない。自分は娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」と公言してはばかりなかったからだ、という。
だが、次に会った人物からは祖父は名うての優れた操縦技術を持ったパイロットであった。自分は宮部さんに何度も命を救われた、という証言を聞き健太郎は次第にある大きな疑問を抱き始めた。
それは、他人に臆病者と呼ばれようが、何としても生き残ることに執念を燃やしたはずの祖父が何故最後にカミカゼ特攻などしたのであろうか?という疑問であった。
最初は宮部という祖父の全体像が全く不明であったが、生存者の証言を得るにしたがい徐々にその実像が浮かび上がり、当時の軍人としては希有の存在であったことが生存者たちの口を通して語られる。
彼の、絶対に生きて帰るのだ、という強い一念を抱いて闘い続ける生き様は、当時の日本の軍隊組織の中でいかに異質であり、かつ戦況の過酷さを考え合わせるといかに困難であったかが健太郎にも次第にわかってきたのだ。
本編は平成の世に棲む26才の健太郎と同じく26才のカミカゼ特攻で命を散らせた祖父の生き様を対比し、祖父が何故自分の意思に反して死なねばならなかったのか、当時の軍部という巨大な官僚組織を解剖しながらその原因を追究してゆく。
単なる戦争小説、いわゆる反戦小説に終わることなく、一種の“日本人論”を展開する作者の手法は見事である。
最後に仕掛けられた“どんでん返し”とも言える“大技”に驚愕し、そして読者はその涙腺を一気に緩められ百田尚樹という作家に完全に一本取られたことを認めざるを得なくなる。
1年にわずか1冊か2冊、震えるほど感動する作品に出会えたら幸せであるが、本作はそんな作品の一つである。
オススメ度:★★★★★
健太郎は26才にもなって仕事もせずにぶらぶらしていた。それは彼が司法試験を4年連続受けたが不合格となり、今や何もする気力が湧かないからであった。そんな時、姉の慶子が電話をかけてよこしアルバイトをしないかと告げた。彼女はフリーのライターで、ある大手出版社が終戦記念特集を組む予定であることから、それに関連して彼らの祖父のことを調べてみないか、というものであった。
彼らの祖父はゼロ戦のパイロットだったそうで、最後は神風特攻で戦死したとのことであった。
健太郎は祖父とはいいながら、祖母がその後再婚し、その夫である健太郎の祖父にあたるお爺ちゃんがいまだ健在であるため、亡くなった実の祖父については何の関心もなかった。
だが、お袋の父親がどんな人物であったのか多少は興味が湧かなかったこともないし、何より退屈であったのとカネにもなるということで姉の願いをきいてやることにした。
戦後60年以上経過したことから、祖父を知る戦争当事者たちは皆高齢であった。あらゆる手段を駆使して幾人かの関係者がまだ生存していることを確認し、会って祖父のことを聞かせてほしい旨連絡を取った。
最初に会った人物から、いきなり祖父は臆病者で大嫌いだったと告げられショックを受けた。祖父は周囲のものに「絶対に死にたくない。自分は娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」と公言してはばかりなかったからだ、という。
だが、次に会った人物からは祖父は名うての優れた操縦技術を持ったパイロットであった。自分は宮部さんに何度も命を救われた、という証言を聞き健太郎は次第にある大きな疑問を抱き始めた。
それは、他人に臆病者と呼ばれようが、何としても生き残ることに執念を燃やしたはずの祖父が何故最後にカミカゼ特攻などしたのであろうか?という疑問であった。
最初は宮部という祖父の全体像が全く不明であったが、生存者の証言を得るにしたがい徐々にその実像が浮かび上がり、当時の軍人としては希有の存在であったことが生存者たちの口を通して語られる。
彼の、絶対に生きて帰るのだ、という強い一念を抱いて闘い続ける生き様は、当時の日本の軍隊組織の中でいかに異質であり、かつ戦況の過酷さを考え合わせるといかに困難であったかが健太郎にも次第にわかってきたのだ。
本編は平成の世に棲む26才の健太郎と同じく26才のカミカゼ特攻で命を散らせた祖父の生き様を対比し、祖父が何故自分の意思に反して死なねばならなかったのか、当時の軍部という巨大な官僚組織を解剖しながらその原因を追究してゆく。
単なる戦争小説、いわゆる反戦小説に終わることなく、一種の“日本人論”を展開する作者の手法は見事である。
最後に仕掛けられた“どんでん返し”とも言える“大技”に驚愕し、そして読者はその涙腺を一気に緩められ百田尚樹という作家に完全に一本取られたことを認めざるを得なくなる。
1年にわずか1冊か2冊、震えるほど感動する作品に出会えたら幸せであるが、本作はそんな作品の一つである。