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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

百田尚樹著『永遠の0』

2011-04-03 19:30:27 | 「ハ行」の作家
百田尚樹著『永遠の0』 講談社2009.7.15 第1刷 876円+tax

オススメ度:★★★★★

健太郎は26才にもなって仕事もせずにぶらぶらしていた。それは彼が司法試験を4年連続受けたが不合格となり、今や何もする気力が湧かないからであった。そんな時、姉の慶子が電話をかけてよこしアルバイトをしないかと告げた。彼女はフリーのライターで、ある大手出版社が終戦記念特集を組む予定であることから、それに関連して彼らの祖父のことを調べてみないか、というものであった。
彼らの祖父はゼロ戦のパイロットだったそうで、最後は神風特攻で戦死したとのことであった。
健太郎は祖父とはいいながら、祖母がその後再婚し、その夫である健太郎の祖父にあたるお爺ちゃんがいまだ健在であるため、亡くなった実の祖父については何の関心もなかった。
だが、お袋の父親がどんな人物であったのか多少は興味が湧かなかったこともないし、何より退屈であったのとカネにもなるということで姉の願いをきいてやることにした。
戦後60年以上経過したことから、祖父を知る戦争当事者たちは皆高齢であった。あらゆる手段を駆使して幾人かの関係者がまだ生存していることを確認し、会って祖父のことを聞かせてほしい旨連絡を取った。
最初に会った人物から、いきなり祖父は臆病者で大嫌いだったと告げられショックを受けた。祖父は周囲のものに「絶対に死にたくない。自分は娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」と公言してはばかりなかったからだ、という。
だが、次に会った人物からは祖父は名うての優れた操縦技術を持ったパイロットであった。自分は宮部さんに何度も命を救われた、という証言を聞き健太郎は次第にある大きな疑問を抱き始めた。
それは、他人に臆病者と呼ばれようが、何としても生き残ることに執念を燃やしたはずの祖父が何故最後にカミカゼ特攻などしたのであろうか?という疑問であった。

最初は宮部という祖父の全体像が全く不明であったが、生存者の証言を得るにしたがい徐々にその実像が浮かび上がり、当時の軍人としては希有の存在であったことが生存者たちの口を通して語られる。
彼の、絶対に生きて帰るのだ、という強い一念を抱いて闘い続ける生き様は、当時の日本の軍隊組織の中でいかに異質であり、かつ戦況の過酷さを考え合わせるといかに困難であったかが健太郎にも次第にわかってきたのだ。

本編は平成の世に棲む26才の健太郎と同じく26才のカミカゼ特攻で命を散らせた祖父の生き様を対比し、祖父が何故自分の意思に反して死なねばならなかったのか、当時の軍部という巨大な官僚組織を解剖しながらその原因を追究してゆく。
単なる戦争小説、いわゆる反戦小説に終わることなく、一種の“日本人論”を展開する作者の手法は見事である。
最後に仕掛けられた“どんでん返し”とも言える“大技”に驚愕し、そして読者はその涙腺を一気に緩められ百田尚樹という作家に完全に一本取られたことを認めざるを得なくなる。
1年にわずか1冊か2冊、震えるほど感動する作品に出会えたら幸せであるが、本作はそんな作品の一つである。




スティーヴン・ハンター著『蘇えるスナイパー(上・下)』 

2011-02-24 21:40:37 | 「ハ行」の作家
スティーヴン・ハンター著『蘇えるスナイパー(上・下)』 扶桑社ミステリー
2010.12.16 第1刷 

オススメ度:★★★★★

待ってましたぁ!と思わず叫びたくなるほどのスワガー・シリーズ第6作。

第4作の『四十七人目の男』は日本でチャンバラごっこにハマッテしまって読者を唖然とさせ、第5作の『黄昏のスナイパー』ではあまりにも軽めのエンタメ小説すぎて肩透かしを喰った感じで物足りなかった。
そんな中、本編は初期の『極大射程』や『狩りのとき』を彷彿とさせる内容の作品となって登場。
改めてボブ・リー・スワガーのスナイパーとしての本領、凄みと力量が鮮やかに描かれている。

米国が泥沼のベトナム戦争に突入していた当時、その反戦運動に関わった男女4人の元活動家が何者かに次々と狙撃される事件が起こった。
容疑者として浮上したのはベトナム戦争当時活躍し、その後NO.1スナイパーとして名声を馳せた元海兵隊兵士のカール・ヒッチコックであった。
彼は重大な精神障害を患った疑いがあり、その原因は彼が実はNO.2の射撃王であった事実が判明し、NO.1のステイタスを維持する為にベトナム兵ではなく当時ベトナム戦争に反対した反戦活動かを狙撃することで数字を合わせようとしたのではなかろうか?と疑われた。
事件の捜査はFBIに移管され、犯人はほぼこの元海兵隊スナイパーであると結論付けられたかに見えたのだが、捜査の担当責任者であるニック・メンフィスは何かひっかかるものを感じ取り、最終結論を出す前にスワガーに内密の捜査協力を行った。
ここからスワガーの単なる戦争屋・スナイパーを超える活躍が始まるのであった。スワガーならではの豊富な経験と知識そして鋭い洞察力をもってして、真犯人は別にいることを突き止める。

本編では圧倒的なハイテク装備を持つ敵スナイパーとスワガーとの凄まじい戦闘もさることながら、陰謀を暴く優れたエスピオナージ戦を繰り広げるスワガーの活躍が見ものである。
また、最後にセットされたガンファイトは、まるで映画の西部劇の決闘シーンを現代に再現させ、読者よりも作者自身が楽しんでいるのでは?とニヤリとさせる構成を創り出している。


東野圭吾著『夜明けの街で』

2011-01-05 19:48:56 | 「ハ行」の作家
東野圭吾著『夜明けの街で』角川文庫 2010.12.12 第8刷 

オススメ度:★★★★☆

2007年7月に角川書店より発行された単行本の文庫化


不倫小説である。アラフォーの妻子ある中年サラリーマンが、「不倫する奴はバカだと思っていた」と常日頃思っていたのだが、そういう本人が「でも、どうしようもない時もある」ということで、不倫にのめり込んでいく話。

自らが「どうしようもない」と語るほど、必然的な「不倫」とも言えないのであるが、もし、不倫の相手が「殺人者かも知れない」場合はどうするか?
この不倫小説の、通常とは大いに異なる点はまさにココにある。筆者東野圭吾氏は単なる不倫小説を、数カ月経てば時効となる殺人犯の可能性がある不倫相手を持ってくることで、スリリングなサスペンス小説のテイストを添えて読者をぐんぐん引っ張っていく。その手法は見事と言える。
「こんなミエミエの不倫をして女房に何故バレないの?」という読者の疑問に対しても最後に見事な“回答”を用意してくれる。
不倫の相手、そして妻という世の“女性の怖さ”を我々男性にたっぷりと味わせてくれるのだが、最後のダメ押しの章は蛇足というものだろう。

現在、この作家の作品は随分ともてはやされているようであるが(図書館あたりに行っても彼の作品の貸出率は断トツに高いようだ)、個人的にはあまり好きな作家とは言えない。前回読んだ作品は「天空の蜂」であったろうか。
本作品は今年大学を卒業する息子から借りて読んだのだが、アイツ、なんでこんな小説を購入したのか?オマエ、何を考えている?(笑)


火坂雅志著『蒼き海狼』

2010-11-19 22:47:51 | 「ハ行」の作家
火坂雅志著『蒼き海狼』小学館 2001.10.10 第一刷 

オススメ度:★★★★☆

二度にわたる元の襲来を台風によってからくも逃れた日本。鎌倉幕府が置かれた鎌倉の海のひとつ江の島の浜辺で一人の若者が波乗り(今でいうボディーボード)に興じていた。
彼の名は朝比奈蒼二郎。かって北条氏の支配に抵抗して反旗を翻した朝比奈一族の末裔である。
一族は北条氏との戦いに敗れ、今の韓国領済州島に逃れて一時平穏に暮らしていたが、やがてモンゴル軍が併合した高麗軍と共に済州島に襲いかかった。
高麗軍の反乱軍とともに済州島を守った朝比奈一族はこの島で壊滅した。父をこの戦いで失い、生き残った蒼二郎は奴隷として働かされたが隙を見て逃走。父の故郷江の島に辿りついたのであった。
鎌倉幕府の役人に捕えられた蒼二郎は執権北条時宗の懐刀、平頼綱によって斬首刑から救われたものの、命と引き換えに、元に渡り日本の間諜になるかあるいは斬首刑を再び選ぶかを迫られる。
蒼二郎としては宿敵北条氏が治める日本のために働くのはまっぴらごめんであったが、北条氏以上に憎いのは父と生まれた島を奪った元であった。

大陸に渡った蒼二郎は現地の宋人の秘密結社の協力を得て、元が三度日本を攻めるための造船を急いでいるという情報を探るため諜報活動に入った。
しかし、元の官憲に捕えられ、元の首都(今の北京)に移送された。
彼が唯一生き残る可能性があったのはフビライ汗の御前で催される格闘技の大会で勝利することであった。
秘密結社の差し金でそのフビライ汗を暗殺する意図で競技に参加し、今一歩のところで失敗し、逃走をはかる。艱難辛苦を乗り越え日本まで逃れた蒼二郎は元の造船情報を鎌倉に送ったのみで、自らは南方の大越(ベトナム)に密航する。
大越は時を同じく元の攻撃にさらされていた。蒼二郎はここで傭兵となって元と戦う道を選んだのだ。果たして蒼二郎の元への復讐はなるのか?そして蒼二郎は再び日本の地を踏むことができるのか?
海の一匹オオカミ蒼二郎の壮大な冒険譚が繰り広げられる。

元寇を日本ではなく大越(現在のベトナム)を舞台にして描く異色の時代小説。
主人公は北条氏に敗れ済州島に逃れた武士と中国の宋の女性との間に生まれた蒼二郎。故郷を喪失した若者は、どこの国に属するか?ではなく、自分の故郷は“海”と定め、何物からも束縛されることのない、自由な海人として己が人生を全うする姿は鮮烈だ。



C.J.ボックス著『さよならまでの三週間』

2010-08-27 13:16:22 | 「ハ行」の作家
C.J.ボックス著『さよならまでの三週間』(原題:Three weeks to say googbye) ハヤカワ・ミステリ文庫 2010.5.10 初版 987円+tax

オススメ度:★★★☆☆


コロラド州デンヴァーに住むジャックとメリッサ夫妻にはなかなか子宝が恵まれなかった。
思い悩んだ末に養子ををとることにし、アンジェリーナという2才に満たないかわいい女の子を養子にとることができた。
夫婦はこの赤ん坊のおかげで至福の時を迎えていたのだが、ある日突然実夫の少年が父親の連邦判事を伴って夫妻の目の前に現れ親権を主張し、三週間以内に子供を返してくれ、と主張したのだ。
夫婦とも黙って「ああ、そうですか」と返すつもりは毛頭無かった。この少年の背景をちょっと調べてみたところ、メキシコ系ギャング仲間を持つ悪ガキであった。
更に父親のほうにも何やらきな臭いにおいがするのであった。そうこうするうちに息子の仕業と思われるとんでもない嫌がらせが始まった。
何とか子供を手放さないですむ方法を探すジャックとメリッサ夫婦、彼らに協力する友人の刑事コディー、ゲイのウィリアムスが動き出すのだが・・・。
子供を引き渡すまでの限られた三週間の、彼らの息詰まる攻防戦を描くミステリー。果たして赤ん坊の運命は???

といった内容なのだが何故か読み進めるうちに違和感を覚えてくる。これは一体何なのであろうか?と自問し出す自分がいる。
そもそもアメリカの小説によく出てくる「養子縁組」への彼らの感情移入があまりよく理解できない、というのが原因のようだ。
彼らの異常なまでの「養子」に対する“思い入れ”が理解できないが故に主人公たちの言動、行動に共感出来ないのだろう。
それと、悪の権化の存在として多くの作家が「小児性愛者」を出してくるのであるが、今回もこの手の変態および関係者を敵として登場させる。
正直、これは反則である、自分にとっては。読んでいて胸くそが悪くなるだけだ。

ある意味極めてアメリカ人作家によるアメリカ人読者受けを狙った作品じゃないのだろうか。したがって解決の仕方もアメリカ的である。
前作の『ブルー・ヘブン』のほうがはるかに気持ちよく読ませていただいた気がする。

ジョン・ハート著『ラスト・チャイルド(上・下)』

2010-08-09 17:50:37 | 「ハ行」の作家
ジョン・ハート著『ラスト・チャイルド(上・下)』(原題:The Last Child) 早川書房 2010.4.15 初版 各800円+tax

オススメ度:★★★★☆

12歳の少女、アリッサが攫われた。行方は一年を経過してもわからない。
母親は心が折れてほぼ諦めたようだが、アリッサの双子の兄ジョニーは決して諦めないで探し続ける。父の行方もまたわからなくなった。ある日突然、失踪したのだった。
この事件の担当刑事ハントは事件解決のため全身全霊をこめて臨んだ。ために自らの家庭をも崩壊させてしまった。ハントのあまりののめり込み様に妻が愛想をつかして家を出たのだ。ハントには彼がジョニーの母親に惚れたという噂が立った。
母子はこのハントにはけっして心を開かなかった。が、ハントは捜査の手を緩めることはなかった。
ある日、ジョニーの目の前に瀕死の男が橋から降ってきた。そして「あの子を見つけた」、「やつが戻ってくる、逃げろ」という言葉を最後にこときれた。
少年ジョニーは恐怖にかられて逃げ出した。逃げる途中突然彼の身体を抱えた巨大な男が現れた。知恵遅れの巨人、リーヴァイ・フリーマントルであった・・・

本作はミステリーである。失踪した少女の行方を捜すうちに他の失踪したと思われる少女の死体がいくつも発見され、事件は連続猟奇殺人事件へと発展する。
謎は謎を生み、はたして誘拐された少女アリッサは生存しているのか?それとも殺されているのか?そして彼女は一体どこへいるのか?

本書は前作の「川は静かに流れ」よりも更にミステリー色が強く、テーマはより深く重たい。
解説で池上冬樹氏が述べているのだが、著者ジョン・ハートは米国における家庭崩壊の中に自らの文学性を見出しているのだと。
池上氏は触れていないのだが、この家庭崩壊の根源にあるのは、キリスト教社会の“欺瞞性”だと僕は思っている。
主人公の少年ジョニーは、牧師が告げるままに強く、更に強く神に祈った。妹のアリッサの無事を祈って。
母親も神にすがった。だが、母親はやがて酒と薬物におぼれ、土地の有力者の手に落ちていく。
妹は見つからず、頼りの綱であった父もだまって姿を消した。そこへ現れた土地の有力者ケン・ホロウェイによる母への性的嫌がらせ、加えて激化する母への暴行、更には幼いジョニーへも暴力的虐待の手がのびる。
母と子は絶望の淵に立たされ、やがて母親は完全に自らを見失う。正に地獄のような日々だ。
ジョニーは牧師の説くところの神に見放されと思い、やがて「神の無力」を悟る。
彼が頼ったのは遠いアフリカの奴隷の祖先たちと北米の先住民族が信仰したヴードゥとインディアンの祈祷であった。
その祈祷をしながら、かって牧師がジョニーへ贈ったネーム入りの聖書を焚き火にくべるシーンは衝撃的である。ジョニーはキリスト教への、その背後にある大人社会へ敢然と決別する。
この世に頼るべき大人及び大人社会の組織は何一つ存在しないのだ、妹を見つけるには自分の力だけで行動するしかない、とジョニーは認識するのであった。
わずか12,3才の少年が味わうにはあまりにも過酷な運命と言わざるを得ない。

ところで巨人リーヴァイ・フリーマントルが聞こえるという“神の声”とは、果たしてキリストの神の声なのか、それとも彼の祖先の神の声なのであろうか。







船戸与一著『夜来香海峡』

2009-12-11 07:16:34 | 「ハ行」の作家
船戸与一著『夜来香海峡』 講談社 2009.5.28 第1刷 1800円+tax
オススメ度:★★☆☆☆

船戸には珍しく(と言っても過去2,3作はあるが)国内を舞台にした小説である。
「国際友好促進協会」なるNPO法人を立ち上げ、主に中国東北部から中国人女性を仕入れ、東北の農業に従事する独身男性にあてがって、その斡旋料を取るというビジネスに従事する主人公の蔵田雄介。
ある日、かって斡旋した黒龍江省出身の中国女性青鈴が疾走した、という知らせが入った。この疾走事件にからみ何故か天盟会というヤクザ組織が介入してきた。さらに単独で疾走したと思われた青鈴にはロシアンマフィアの男と一緒に逃亡しているふしがある。
雄介はヤクザに脅されながら共に青鈴たちの後を追い、北海道の稚内まで行くことになるのであった。
青鈴が何故逃げているのかが不明なまま、行く先々で次々と殺人事件が発生する、その陰には中国人の楊五栄という殺し屋蠢いていることが判明した。
果たして青鈴は何の目的で逃走し、彼女を取り巻くヤクザ組織、ロシアンマフィア、謎の殺し屋たちの目的は何?物語は最後の怒涛の展開に向かって突き進む・・・・・

いつも思うのだが同作家が国内を舞台にした小説で面白かった例がない。唯一「蝦夷地別件」を除いて。

スティーヴン・ハンター著『黄昏の狙撃手(上・下)』

2009-11-13 07:05:37 | 「ハ行」の作家
スティーヴン・ハンター著『黄昏の狙撃手(上・下)』 扶桑社ミステリー 2009.10.30 第1刷 各800円+tax
原題:「Night of Thunder」(爆音の夜)
オススメ度:★★★★☆

言わずと知れた「ボブ・リー・スワガー」シリーズの最新作である。前作『四十七人目の男』にて現代日本を舞台にしたチャンバラ小説に挑戦?したもののあえなく頓挫。同シリーズの熱狂的ファンをがっかりさせたものだ。
著者のハンターさんもいよいよお終いか!?という周囲の危惧を覆すべく帰って来たのが本作である。
ボブももう63歳となり、往年の馬力、しなやかさそして鋭さは陰を潜めたかに描写されるも、「ここ一番!」という時の“爆発力”と“練度の高い技術”はしっかりと持っていることを証明した一書である。

さて、ストーリイであるが舞台を再びアメリカに移し、ボブは愛妻と新たな養子の女の子ミコ(日本人)と共に田舎暮らしを楽しんでいた。
そんな中、長女ニッキが交通事故に遭い意識不明の重態となった旨の一報が入り、ボブは一瞬自らの過去の亡霊の仕業か?と戦慄した。
ニッキはNYの大学を卒業しヴァージニア州ブリストルの新聞社に就職して記者となっていた。その彼女は最近地元に蔓延する覚醒剤を追って取材しており、どうも事の真相に近づき過ぎた為刺客が送られたものと思われた。
ボブは単身、独自の捜査に乗り出す。
正体不明の敵はそんなボブの命もつけ狙うことに。果たしてニッキは意識を取り戻すこが出来るのか、そしてボブは自らと家族を守り切ることが出来るのか!?ということになる。
原題からも推察されるが、舞台となるブリストルは「ナスカレース」が開催される地である。同レースには馴染がないが「インディー500マイルレース」のようなものであろう。
仕組まれた犯罪はこのレースに絡むようであることから、激烈なカーチェイスと銃撃戦が展開されよう事が期待できる。
だが、どうも本来のこのシリーズが持つ“重厚さ”に欠ける、という印象を持ったのは私ひとりであろうか?
この先本シリーズが存続する可能性を語る時、著者ハンター氏の健康上の問題さえなければ今後の展開は日本人の養子ミコの成長にかかっている!と断言しても良いのではなかろか?
というのもこれ以上スワガーサーガを続けるネタはなく、ボブ自身は引退せざるを得ないのが現状であるからだが。とまれ、異色でありかつ秀逸な同シリーズが存続することを切に願うものである。

東野圭吾著『さまよう刃』

2009-10-26 07:02:17 | 「ハ行」の作家
東野圭吾著『さまよう刃』 角川文庫 2009.9.5第18刷 705円+tax

オススメ度:★★★★☆

淫獣のような少年ふたりにレイプされた上に薬物を飲まされ、死んでしまった果てに川に流された娘の敵討ちを誓った父親の物語。
現代の日本で、頻繁に起きているこの手の犯罪が報道される度に僕は強い不満をいつも覚えていた。
何故「少年法」という“法”の下に加害者の「少年」だけが保護され、被害者側の親族の無念さだけが残されるのであるか。
誰がどう見ても「少年(未成年)の犯罪」という観点からだけでは許されるような内容ではない凶悪犯罪がたった3,4年の少年院ぐらしで再び世に放たれるのはあまりに理不尽である。
こんな報道をみるにつけ「もし自分が被害者の親であったらどうするか?」と自問したものだ。答えは明白だ。
法が的確に裁いてくれないのであれば自らの手で裁いてやる、というものだ。たとえどんな手段を取ろうとも。

本編の主人公は多くの人々が考えるであろうが、なかなか実行に移せない行動を果敢に選択する。少年の仲間のひとり(実行犯ではない)からの貴重な密告情報を頼りに逃亡する少年を追い詰める。そこには思いかけず彼の行動にシンパシーを感じて手助けするひとりの女性が登場する。
父親は最後に思いを遂げることができるように思われたのであるが・・・・・

こういうエンディングもあるであろうが、何のカタルシスも感じなくなってしまう。非常によく出来た小説でこの作家の並々ならぬ筆力に感心するものの、エンディングの不満さから★ひとつ削ってしまった。

この手の少年はけっして更生するとは思われない。18歳にもなれば自らの人生と自分によって生じさせた他人の人生の崩壊に対して責任を負うべきである。
したがって現行の「少年法」を改正してより厳しい罰則を盛り込むことを切に望む次第でる。

ジョン・ハート著『川は静かに流れ』

2009-10-17 07:39:08 | 「ハ行」の作家
ジョン・ハート著『川は静かに流れ』 早川書房 2009.2.15第1刷 980円+tax

オススメ度★★★★★

このところ国内物の読書が続き、かつ感動する作品になかなか出会えないでちょっとばかしイライラしていたので趣向を変える意味で“海外ミステリー物”に手を伸ばしてみた。結果、大正解!ビンゴ!
最近これだけ読書にのめり込めた事はない。まさに睡眠時間を削ってでも読みたい!という衝動にかられた作品であった。

主人公の僕(アダム・チェイス)は5年ぶりにローワン郡にある故郷に帰って来た。
5年ぶりに故郷に帰って来た理由は何か?僕は5年前、高校時代の同級生を撲殺した疑いで裁判にかけられたのであった。
からくも無罪判決を勝ち取ったものの、これ以上我が家にも故郷にも居づらくなってNYへ飛び出したのだ。
僕を殺人犯にしようとしたのは実は継母の証言であった。僕には少年時代にとてもつらい経験をした。実の母親が僕の目の前でピストル自殺したのだ。
自殺は僕のせいであったのであろうか?母親の死後、僕は荒れた。片端から悪いことをした。その時一緒につるんで悪さしたのが親友ダニー・フェイスであった。
今回、僕が5年ぶりに帰郷した理由は、このダニー・フェイスからの電話であった。自分を助けに帰ってきて欲しいという。理由は明かさない。
一旦は彼の願いを拒否したものの、かって自分が殺人犯の汚名を着せられた時に決して自分を疑うことのなかった親友の願いは断ることが出来なかった。

故郷で待っていたのは、むき出しの憎悪と戸惑いを見せる住民と家族の姿であった。
特に辛い再会はだまって置き去りにしたような存在の、かっての恋人ロビン・アレクサンダーと、実の妹のように可愛がっていた父の親友ドルフの娘グレイスであった。
そんな状況の中、彼を待ち受けていたのは更なる殺人事件であった・・・・

物語は主人公のかっての殺人事件と新たに発生した殺人事件をめぐる真相の解明、一方土地の名士として2世紀に渡って存在したフェイス家とその土地の買収を望む原発会社とその利権にからむ人々との確執などを描いたミステリー仕立てとなっている。
しかし、単純にミステリー小説と片づけられない“大河小説”の趣を有している。冒頭にも書いたが、本当に久々の感動の一作だ。