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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

百田尚樹著『海賊とよばれた男 上』

2013-02-05 13:08:32 | 「ハ行」の作家
百田尚樹著『海賊とよばれた男 上』講談社 2012.7.11 第一刷 1600円+tax

オススメ度 ★★★★★

恐らく百田尚樹氏の記念碑的作品となるであろう本作の感想を書くにあたって、凡庸な感想文を書く気になれない。感想というよりもいくつかの留意点を挙げようと思う。
本作はみなさんも御存じの通り実在の人物、出光興産の創業者である出光佐三氏のドキュメンタリー・ノベルである。
僕自身彼の存在を知らなかったし著者である百田氏も実はよく知らなかったらしい。
それでは何故百田氏が出光佐三氏を題材に取り上げたのか?この点が僕の第一に湧いた興味であった。

その答えがあった。
雑誌Voice 2013年1月号より抜粋

『インタビューア: すでに21万部突破のヒット作『海賊とよばれた男』は、石油などを精製、販売するほかにさまざまな事業を手がける国内企業・出光興産の創業者、出光佐三という実在する人物の生涯を下敷きに書かれています。なぜ、彼を小説に書きたいと思われたのですか?
 百田: いま書かなあかんと思ったんです。とにかくいまの日本人に彼の生き方をみてもらいたい。それだけ。
 この日本は、バブルが弾けて以降、もう長いこと、国民全体が自信を失っていますから。暗いじゃない? しかも2011年、東日本大震災があって、あそこでもう、壊滅的に「もうダメだ」という思いが国土を覆ったような気がした。だからこそ、出光佐三という男や彼と同じ時期に立ち上がった多くの人たちのことを知ってもらいたかった。戦争で負けて、国民のうち300万人もが命を失い、千数百万人もが失業者になった。その人たちって……会社はない。住む家はない。もちろん、カネもない。コメもない。戦前から築き上げたほとんどの資産を失ってしまったという、そんななかから立ち上がるって、考えられます? 欧米に追いつくなんて絶対に考えられもしない状況でしたよね。しかし、日本はそこからたった20年で追いつき、追い越したわけですからね。
 本書で中心に据えたのは昭和28(1953)年に起きた「日章丸事件」です。(以下省略)』


そう、百田氏は今だからこそ出光佐三氏に着目したそうだ。上の引用文の最後に述べているように、直接的なきっかけとなった事実は昭和28年の「日章丸事件」であったわけだが、この事件は下巻で語られる。上巻はそこに到るまでの序章であるのだが、その序章がまた凄い内容で読者を驚愕させる。本当にこのような人物が我が国に存在したのか!?と。

物語の内容は割愛させていただくが、P352で描かれる部分に作者の“遊び心”を発見して思わずニヤリとしてしまった。
それは上海の海軍航空基地でのほんの小さな出来事。
『零式艦上戦闘機(ゼロ戦闘機)の若きパイロットに出会う。二十歳をわずかに過ぎたくらいの背の高い痩せた男だったが、全身から精悍な空気が漲っていた。胸の名札に「宮部」と書いてあるのが見えた。』
と。
分かりますよね?あの「永遠の0」の若き日の宮部少尉との一瞬の出会いであったわけです。



S・ハンター著『ソフト・ターゲット 上・下』

2012-12-23 12:33:47 | 「ハ行」の作家
スティーヴン・ハンター著『ソフト・ターゲット 上・下』扶桑社ミステリー 2012.12.10 第一刷 各800円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

ボブリー・スワガー・シリーズかと思いきやさにあらず、主人公はレイ・クルーズという元海兵隊のアジア系スナイパー。本人がボブを父と呼ぶくだりで「あれ・ボブに息子なんていたか知らん?」と思う読者は本編の前作『デッド・ゼロ』を読んでいないせい。
かく言う僕も読んでいない。が、ボブの愛子ニッキはジャーナリストとして本編に登場する。
ま、とにかく前作を読まなくとも、ボブ・リーが何者か知らずとも読めばそれなりに理解できるストーリー展開となっている。

アメリカのミネソタ州ミネアポリスの近郊にある巨大ショッピングモール“アメリカ・ザ・モール”はクリスマス商戦の最中で多くの客で混雑していた。
そんな中、突然サンタクロースの頭蓋が銃撃によってふっ飛ばされたのを合図に十数人のテロリストが銃を乱射し始めたのだ。テロリスト達はアラブ風のスカーフを巻いたソマリア人であった。
ショッピングを楽しんでいた客たちは銃火から追われてモールの中央部アミューズメント広場に集められた。人質となった人数は約一千名。果たしてテロリストたちの要求は何なのであろうか。
この場にたまたま居合わせていた歴戦の戦士である元海兵隊スナイパー、レイ・クルーズは瞬時に身を隠し、たった一人で反撃のチャンスを伺うのであった。
一方、本件の事案を担当したのはミネソタ州警察本部長ダグラス・オボボというアフリカ系黒人であったが、次期FBI長官の座を狙う野心満々の男であった。
テロリスト集団の首魁と思われる男からオボボに連絡があり、現在服役中のソマリア人3兄弟の釈放を交換条件に千人の人質が解放される取引が成立したのであったが・・・・・

仔細を書くとネタバレになってしまうのだが、本編で語られる“血に飢えた殺戮者”“ゲーム感覚で殺戮を楽しむ”異常者の存在は決して架空の存在とは思われない。
最近の米国における“銃乱射事件”の多発を見ると、実際に他人を無差別に殺戮することに快感を覚えるモンスター的人間が存在するであろうことは確かだ。そんなモンスターが実行しようとする究極の殺人ゲームが本編の内容だ。
米国における銃規制、それも供給側の問題(カラシニコフ等の自動小銃までもが安易に入手出来る)が今一度問われる話題作。

今や老境に入ったボブ・リー・スワガーの活躍はもう見られないのだろうか?巻末の訳者あとがきによれば来年には再び復活する可能性が述べられているのだが・・・・





葉室麟著『蜩の記』

2012-12-16 17:18:51 | 「ハ行」の作家
葉室麟著『蜩の記』祥伝社 2011.11.10 第一刷 1600円+tax

オススメ度 ★★★★☆

豊後・羽根藩の元郡奉行・戸田秋谷は7年前、前藩主の側室と付議密通を犯したかどで家譜編纂と10年後の切腹を命じられ、城中より離れた向山村に家族と共に幽閉された。
そんな折、城内で刃傷沙汰を起こした奥祐筆の檀野正三郎はからくも切腹を間逃れたものの、同じく家老の命で戸田秋谷の元へ送り込まれた。
彼が命を受けた役目は家譜編纂手伝いという名目での戸田の監視と戸田が起こした事件の真実を探ることにあった。
庄三郎は戸田秋谷と共に時を過ごすにつれ、彼の武士としての矜持、清廉潔白さに心を打たれ、やがて事件が何者かによる陰謀で戸田は冤罪であることを確信するのであった。
やがて事件の真偽を明らかにする事件が発生するのであるが、戸田の無実は証明されるのであろうか?

第146回直木賞受賞作だけあって読み応え十分の時代小説。はでな斬り合いこそ少ないものの、一武士の気高さと壮絶なまでの死への覚悟は読者を惹きつけて止まない。親と子、家族の絆の強さは読む者に深い感動を与える。





樋口明雄著『標高二八00米』

2012-12-04 12:40:05 | 「ハ行」の作家
樋口明雄著『標高二八00米』徳間書店 2011.11.30第一刷

オススメ度 ★★★☆☆

本書は表題の「標高二八00米」をはじめとした8作による短編集でる。その短編もほとんどがホラー、伝奇小説の類のものと言ってよいだろう。
この著者にとっては短編集というのも珍しいが、更にこうしたジャンルの内容を書くのも珍しいのでは。
先に読んだ「竜虎」のような冒険活劇小説や「狼は瞑らない」、「男たちの十字架」といったガチガチの山岳冒険小説、更に「約束の地」、「光の山脈」といった南アルプスを主体にした環境問題を取り扱った作品、更に東京は阿佐ヶ谷に舞い降りて繰り広げるドタバタ活劇「武装酒場」などなど、著者の描く守備範囲は広いほうと言えるが今回のようなホラー・伝奇小説は他に見当たらない。器用な作家であることを今回証明してみせた。
さて、本編であるが「標高二八00米」と「リセット」の二つの作品がリンクしている。ある日突然標高二八00米以下に暮らす人類全てが消失するという荒唐無稽な物語であるが、その物語の設定そのものに無理はあるものの、人類が突然いなくなった後の最大の問題点は世界各地にある400箇所以上の原発の行く末にあることが分かる。
人類はこの地球、ガイアという生命体にとっては“悪性腫瘍”のようなものであったろう、という作中人物の発言には説得力がある。福島原発事故を起こして初めて知る“人類の所業”の業の深さを改めて考えてしまう。

樋口明雄著『竜虎』

2012-11-27 14:17:44 | 「ハ行」の作家
樋口明雄著『竜虎』双葉社 2012.4.22第一刷

オススメ度 ★★★★★

本書は『頭弾』(1997/5)『狼叫』(1998/9)に続く満州の女馬賊紫火(さいか)シリーズの第三弾、完結変である。
本シリーズはかって檀一雄が実在の日本人馬賊、伊達順之助(1892~1948 戦国武将伊達政宗の直系子孫)を描いた『夕日と拳銃』にオマージュを捧げた作品である。
本シリーズ第一作『頭弾』を読み、主人公の女馬賊紫火に一目ぼれした読者は多いと思う。次回作『狼叫』の結末はもう記憶の彼方に飛んでしまい、結局彼女はどうなったのだろう?と思いつつ本編を手にした。
冒頭より伊達順之助の処刑シーンから始まり、伊達が天を仰ぎ最後に想いを馳せたのは白馬銀公子にまたがり疾走する紫火の姿であった。
その彼女は顔面半分に醜い疵を受け、身体の半分にも傷を背負い、阿片で身体も心もボロボロの状態で徐輝英という馬賊の頭目に救われた。
その徐輝英の率いる馬賊も日本軍および傀儡政権の警察軍に追われ、馬占山という最後の大物馬賊を頼って紫火を伴って根拠地を脱出するのであるが・・・・・

一方、満州国軍、上将の地位にある伊達順之助は未だに見果てぬ夢、「満蒙を開放して日中融和の王道楽土を築く」という夢を抱いていた。そんな彼のもうひとつの夢はかって互いに雌雄を決して戦いながらも決着が付いていない紫火との邂逅であった。
本編で繰り広げられる激しい戦闘の果てに、ついに両雄が対峙しその雌雄を決する時を迎えた。血沸き肉踊る大活劇冒険小説とは本編のような作品を言うのである。樋口明雄さん、よくぞ完結編を描いてくれたものだ。このシリーズこそあなたの真骨頂と呼びたい!




長谷川卓著『逆渡り』

2012-11-08 20:38:27 | 「ハ行」の作家
長谷川卓著『逆渡り』毎日新聞社 2011.2.15 第1刷 
1,500円+tax

おススメ度:★★★★☆

本の帯にある“漂泊の山の民が独り戦国の山野を渡る”という表記を見て、「これはひょっとして戦国時代の山窩(サンカ)の物語か!?」と興奮と期待を持って読んだ。
歴史学者によると、山窩(サンカ)という言葉は江戸末期あたりから使われたものと言われ、山窩(サンカ)と呼ばれる山の民は昭和のなかば迄には消滅したと言われる。山窩を描いた映画作品では中島貞夫監督、萩原健一主演で「瀬降り物語」がある。
だが一方ではこのような山の民は古来より存在したと説く学者や作家もおり、その真偽は別として一種のロマンを感じさせる存在である。

著者長谷川卓氏の作品では「血路 南稜七ツ家秘録」のように、時代劇ではあるがそこに登場する人物は歴史上に名を残した武将や剣豪を描くわけではなく、士農工商の枠外に生きた人々に光を当て、彼、彼らの生きざま、死にざまを鮮烈に描くところに著者の最大の特徴がある。
ところで本編のタイトル「逆渡り」であるが、サンカの渡り(ある設営地ら別の設営地へ移ること)に対し、一種の「姥捨て」のような概念で男も女も60歳に到ると自らの死地を求めて仲間の元を去る、ということである。
これは著者の造語かと思われる。
主人公、月草は57歳にして最後の戦働き(彼らの役目は医者の役目を果たす医僧を助け戦場の負傷兵の手当てをする)に出た後、故郷の隠れ里に戻った時に少し早いが“逆渡り”の旅に出たいと一族の長に許しをこうた。
それは彼の亡き妻が死んだら遺灰を越後の山の中で見た素晴らしく大きな、そして美しい桜の木の根元に埋めて欲しい、という念願を思い起こしたせいであった。
長の許しを得た月草は翌年の早春に妻の遺灰と旅に必要な食糧、装具を持って出発したのであったが、彼が想像もしなかった事態が彼を待ち受けることになる。
平穏な鎮魂の旅であるはずのものが、否応なしの地獄のような旅となる。果たして彼は亡き妻の願いを叶えることが出来るのか?




C.J.ボックス著『震える山』

2012-07-13 01:01:07 | 「ハ行」の作家
C.J.ボックス著『震える山』講談社文庫 2010.4.15 第1刷 
819円+tax

おススメ度:★★★★☆

米ワイオミング州トゥエルヴ・スリープ郡の猟区管理官ジョー・ピケットシリーズの邦訳第4弾。このシリーズは過去「凍れる森」を読んでいる。
ジョーはある日上司よりジョーもよく知る隣地区の猟区管理官ウィル・ジャンセンが44マグナムをくわえ自殺したことを知らされた。
その報に驚愕したことは言うまでもないが、上司は更に彼の後任をジョーに命じたのであった。
その後任の管区とはジャクソンというところで、グランド・ティートン国立公園やイェローストーン国立公園の入り口にあたる、米国でも有数の観光地である。この地区はセレブ達が集まるリゾート地であるとともに、どこよりも広大で荒々しい自然を擁しており、現代の西部が抱える様々な問題の坩堝でもあった。それは過激な動物保護運動や違法な狩猟、そして金と権力の亡者とも言える開発業者の存在。
ジョーはそんな極めて難しい問題を抱えるど真ん中に放り込まれることになるのだ。それも単身赴任で。
ジョーには転勤を躊躇する家庭内の問題をも抱えていた。思春期を迎え、母親と何かと対立する長女のシェリダンの存在が頭をよぎる。更に最近幾度となくかかってくる不気味な無言電話。こんな状況の中、妻メアリーベスと二人の子供たちを残して赴任することに苦悩するジョーであった。
だが一方これは昇格へのチャンスでもあったし、何よりジョーはウィル・ジャンセンの自殺自体に疑念を持ち、その解明を是非したかった。結局、妻メアリーベスの心配をよそにジョーはひとり赴任した。

「凍れる森」を読んだ時の感想同様、主人公ジョーは極めて実直な管理官であり、目の前の不正を黙って看過できない男である。彼はけっしてアメリカン・ヒーロータイプの人間ではないし、腕力は銃器の取り扱いに優れているわけではない。どこにでもいそうな古きよき時代の西部男とでも言えば良いのかも知れない。
赴任先のジャクソンでは予想されたように、同僚や上司の冷たい視線にさらされ、ティートン郡保安官からも疎まれる。それは彼がウィル・ジャンセンの死の真相にせまるにつれ激しくなるのであった。
また、先に述べた違法狩猟者との衝突、過激な動物保護活動をするメンバーとの確執も生じたが、一番の難敵は開発業者の頭目ドン・エニスの存在であった。
著者C.J.ボックスはこうしたいわゆる“厭らしいアメリカ人”を描かせると抜群の才能を持った作家であり、そのことがより一層主人公ジョー・ピケットの実直さを鮮明にさせる。
果たしてジョーは新任地で責務を全う出来るのか?ウィル・ジャンセンの死の真相にせまることが出来るのか?残された家族はどうなるのか?
重厚な筆致で物語は進行し、ちょっとしたミステリー・サスペンス風味を加えながら終末を迎える。かなりお薦めの秀作である。



百田尚樹著『BOX!』

2011-08-13 00:22:16 | 「ハ行」の作家
百田尚樹著『BOX!』 大田出版 2008.7.8 第1刷 1,780円+tax

オススメ度:★★★★★

『永遠の0』『風の中のマリア』と読み進めてきたのであるが、友人たちから強く『BOX!』も読むべきだ!という声に押されて読むことにした。
正直言って、内容が学園ものでそれもアマチュアボクシングにかける2人の若者の成長譚らしいと分かった時、若干躊躇するものがあった。
というのもかって、いろんな作家がスポーツの種類は違えどこのジャンルを描いているのだが、何故か自分的には好きな分野とは言いがたい。よって、『永遠の0』から『風の中のマリア』へと手を伸ばした次第であった。
だが、百田氏の力量を考えれば自分の独断と偏見は捨てるべきと判断し読み始めた。冒頭、やはりボクシングと言えばこのような書き出しになるであろうと想像した通りの展開となり、いかにも陳腐なプロットの展開になるのでは?と危惧したのだが、今回も良い意味で百田氏に裏切られた。
とにかく主人公の少年ふたりと彼らに絡む先生や級友たち、そして強敵となって少年ふたりの前に立ちはだかる他校の選手(モンスターと呼ばれるほどの強敵)の人物造形とからみかたが絶妙に旨いのである。
本作は著しく成長をとげる少年のひとり木樽優紀とボクシング部顧問となった高津耀子教師のふたりの視点から描かれる構成となっており、とかく視点が絞られがちな少年からの一方的思考、行動をうまく抑えた表現で物語は進行する。
またアマチュアボクシングの中味やプロボクシングとの違いに関して、耀子の視点から読者にも旨いこと伝わるような手法を採っているのが憎いほど上手である。

さて物語のクライマックスを迎えるにあたって、作者は一体どのように結末を持っていくのか!?とハラハラドキドキしたのであるが、何とも見事に纏め上げてくれたではないか。
エピローグにおいて、優紀と鏑矢、そして耀子のその後が読者の想像力を刺激し余韻の残る終わり方にしている。この辺りはやはり作者の並みの作家とは違う優れた“構成作家”たる力量のなせる技と言えるだろう。拍手!

百田尚樹著『風の中のマリア』

2011-04-26 21:41:52 | 「ハ行」の作家
百田尚樹著『風の中のマリア』 講談社2009.3.3 第1刷 1,500円+tax

オススメ度:★★★★☆

自然界で最強のハチと言われるオオスズメバチ。その一匹のハタラキバチ=ハンターであるマリアの眼を通して語られる、あるオオスズメバチ帝国の興亡を描く異色の虫小説である。
登場する虫たちを擬人化した点では童話と言えるのであろうが、内容はオオスズメバチだけあって弱肉強食、冷酷無比のジャングル・ルールのみ存在するハード・ボイルドな世界である。
とにかくこの世界の過酷さのディテールが凄い。著者である百田氏はよほどオオスズメバチの世界を取材、調査したのかが伺われる。
一番驚いたのは、一匹のハタラキバチの命は成虫してから約30日間しかないということ。女王蜂はもっと長生きするのであるが。
ナチュラルボーンキラーとして生まれた本編の主人公マリアはこの限られた短い生のあいだ、女王を守り妹たちを養う為に容赦ない殺戮を繰り広げる。
圧巻は西洋ミツバチの巣を襲いその巣にいるミツバチの全てを、また女王蜂をも屠り、その幼虫全てを略奪する様は戦慄的である。更にオニヤンマや大蟷螂との死闘も見ものである。
帝国の存亡をかけてのキイロスズメバチとの死闘など、まさに戦争小説を読んでいるようだ。
かくも過酷なサバイバル戦を繰り広げる虫たちの世界に比べると我が人類の世界などまだまだ甘いともいえる。
人類はやがて自らの過ちで自滅するやも知れないが、虫たちはしっかり子孫を残し生き延びることだろう。自然界の厳しさと荘厳な営みをシンプルに受け止めながら。


樋口明雄著『武装酒場の逆襲』

2011-04-19 00:06:58 | 「ハ行」の作家
樋口明雄著『武装酒場の逆襲』 ハルキ文庫2009.12.18 第1刷 648円+tax

オススメ度:★★☆☆☆

東京阿佐ヶ谷駅ガード下にある居酒屋『善次郎』には風変わりな店主が店を切り盛りし、ヘンな常連客ばかりが屯している。
ある日、小汚いその居酒屋に16才の美少女が訪れ、常連客の注目を一心に浴びるのだが、この子はかっての常連客の娘であった。
失踪した父親が突然この『善次郎』で会おうとの連絡があり、懐かしさではなくこの父親のせいで早死にしてしまった母親の恨み辛みを父親にぶつける為に少女は八王子から出てきたのだ。
ところがやっと会えた父親は何かの病気に冒されており、異様な防護衣を装着した一団に射殺されてしまった。彼女をもまた抹殺しようとする一団から辛くも逃れた彼女は『善次郎』へ駆け込んできたのだ。
居酒屋『善次郎』を取り囲んだ異様な防護衣の一団はなんと自衛隊の化学防疫部隊であった。
この少女を守るべく、ユニークな酔客たちはもてる知力と体力、勇気を振り絞りそして何よりアルコールの力を武器に立ち上がるのであった。
という何ともまた荒唐無稽、無茶苦茶なストーリー展開とあいなる。どうもこの作品の前に『武装酒場』という前作があるみたいで、テンテコな店主並びにユニークま常連客のキャラ説明はこちらに詳しいようだ。
とにかく、作者樋口明雄は敬愛するサム・ペキンパーやらジョン・スタージェスといった映画監督にオマージュを捧げるべくハチャメチャな作品を作り上げてしまったようである。
樋口明雄氏は現在山梨の南アルプスに移り住んでいるのだが、移る以前に10年ほどこの阿佐ヶ谷の街に暮らし、小説の舞台のモデルとなった居酒屋で故永島慎二氏を初め濃厚な地元住民キャラたちとの交流があったらしい。同氏のノスタルジーが生み出した異色の作品である。

ところで樋口明雄氏といえば、僕が愛する冒険小説家の旗手のひとりであり、かっての作品、『頭弾』『狼叫(ランチャオ)』『狼は瞑らない』『約束の地』『光の山脈』などをお薦めしたい。