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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

雨の影

2007-11-11 12:23:19 | 「タ行」の作家
バリー・アイスラー著『雨の影』ヴィレッジブックス 2004.1.20初版 800円+tax
原題:『Hard Rain』

オススメ度★★★★☆

前作にて、日本政府を転覆させるほどの内容を持った一枚のCDをめぐり死闘を繰り広げ、最愛の女性と決別したレインは東京から大阪へと身を隠した。
CDをめぐる警察庁、影の右翼勢力、CIAの攻防はまだ決着はついていなかった。レインと奇妙な友人関係にある警察庁の部長であるタツがどのような手段を使ってレインの居場所を突き止めたのか不明であるが、ある日そのタツがレインの前に姿を現し、仇敵の山岡との対決の助力を要請してきた。
一度は断ったものの、かけがいのない若き友人が、そして別れたはずのみどりにまで脅威が及びかねない事態を知ったレインは再び陰謀渦巻く東京へ舞い戻ったのであった。

本作でも著者のエスプリの効いた会話、知的なユーモアのセンスが随所に散りばめられ読者を魅了する。
著者の日本文化への造詣の深さ、愛着を本編でもしっかりと認識させられた。ところで、主人公ジョン・レインは軍隊でもたった2%としか存在しないと言われる「接近戦でも躊躇無く敵に銃の引き金をひける兵士」のひとりではあるのだが、けっしてキリング・マシーンであるわけではない。
殺人のシーン、手口は恐るべき内容なのではあるが、嫌悪感を与える描き方とならないのが不思議である。それは読者が彼の生い立ち、経歴を知るに及び、ジョン・レインが唯一生きる手段として暗殺者になったのではないかとおぼろげな“共感”を抱くせいかも知れない。
人生への深い“諦観”というか、非常に繊細な虚無主義に満ちたレインが、非常に稀にみせる友人への、そして愛する女に向ける“表面以上に芯が熱い情”をみせる時、読者はその落差に戸惑いながらもそこに“共感”を抱くのではなかろうか。
日本での活動にもいよいよ制限を感じさせられるレインの身辺状況であるが、大三作から舞台は世界へ広がる模様である。
次回作ではよりスケール・アップした物語展開を期待できそうだ。

スピカ・原発占拠

2007-09-30 22:11:06 | 「タ行」の作家
高嶋哲夫著『スピカ・原発占拠』2007.9.15第3刷 800円+tax

オススメ度★★★★☆

かって麻生幾氏が『宣戦布告』という作品で北陸地方の原発を北朝鮮ゲリラが占拠する、という小説があった。
この作品はこのような事態が発生しても現状の日本政府はその法体系の未確立のために何らの対処も出来ないことを我々に訴えた。
ま、それが事実ではあろうがあまりの日本政府の不甲斐なさに途中で読むのを放棄したくなったほど。

さて、同じようなシチュエーションの内容ではあるが、テロリストはかっての北朝鮮ゲリラではなく旧ソ連の共産主義体制派とも言える特殊部隊兵士の生き残りと「日本赤軍」を名乗る日本人過激派との共同作戦となる。
今回は日本国首相として設定した首相はなかなか気骨のあるところを見せ、麻生作品で感じたいらだたしさはない。
だが、そもそも原発を占拠する彼らの目的がしっくりとはこない。やはり設定に無理がありそうだ。
原発の暴走に関する描写はさすが著者がその道のプロである経歴がものをいい、なかなか迫力がありかつ説得力がある。
ストーリー展開もテンポがあり楽しめた。


*本のイメージ画像は文庫本のではなく単行本であることをお断りしておきます。

チベットの薔薇

2007-03-05 01:40:25 | 「タ行」の作家
ライオネル・デヴィッドスン著『チベットの薔薇』 扶桑社ミステリー 2006,10.30 1,050円

ストーリーをごくごく簡潔に書くと、「名も無い英国の中学の美術教師がチベットに行き、片腕を失う大怪我をして大金持ちになって帰国した」というもの。
がしかし、この中に作者がちりばめた冒険小説のエッセンスと冒険小説の冒険小説たる仕掛けをほどこした様は、多少古臭い時代背景ではあるが在りし日の英国冒険小説の伝統、格調の高さがうかがわれ「ああ、これぞ冒険小説の王道だぁ!」と叫びたくなる出来ばえとなっている。

シッキムという過去実在したものの今やインドの属州となったヒマラヤの奥地の小国を舞台に、チベットに伝わる古来の予言をたくみに取り入れたプロットを用意した作者の膂力は並の作家のものではない。
登場人物がこれまた多彩であるが、ひときわメイ・ファというミステリアスかつ美貌の尼僧院長(時に大母、羅刹女とも呼ばれる)と主人公を献身的に助けるチベット人(インド系か)の少年の存在が大きく、この少年の活躍は感動的ですらある。

冒頭から中盤にかけややかったるい進行ではあるが、ひとたび逃避行に移ってからのくだりは読者をして息つく暇も与えない迫力に富んでいる。
もはやこの手の冒険小説の出現は望むべくもなく、極めて希少本といえる価値ある冒険小説だ。

巻末の解説によれば本書は同作家の「モルダウの黒い流れ」に次ぐ二作目の長編で1962年に英米で同時に出版され日本語訳にされたのが今回初めてで44年ぶりという。また同作家の「極北が呼ぶ」が本邦で出されて以来10年ぶりとも書かれている。
ほとんど日本では知られていない作家なのである。
本の帯にゴールド・ダガー3度受賞の巨匠、とあるのだがこの賞はCWA(イギリスミステリ作家協会)賞のその年の最優秀長編に贈られるもの。
どのくらいすごい賞なのかさっぱり分からないのであるが、自分で読んだことがある作家でこの賞を取ったひとはそうそういなくて、次にあげるこの作家のこの作品でもなかなか取れなかったのを知ればその凄さが分かろうというもの。
ちょっと古い受賞例なのであるが以下の如し。
1963年 ゴ賞   「寒い国から帰ってきたスパイ」 ル・カレ
1964年 次点   「もっとも危険なゲーム」 G.ライアル
1965年 次点   「興奮」 D.フランシス

・中略

1979年 次点   「利腕」 D.フランシス

尚、本編は北海道の地元紙にて冒険小説の批評家、北上次郎氏が紹介していたもので
、彼の推挙がなければまず手にしなかったであろうことを記しておく。


赤・黒

2006-09-28 06:41:57 | 「タ行」の作家
石田衣良著『赤・黒』 文春文庫 2006.1.10 514円+tax

売れない映像ディレクター小峰は私設カジノでの負けがこみ、カジノの売上金を強奪する計画の誘いにのった。
この強奪はカジノの支配人もグルとなり簡単に成功するかに思われたのであるが・・・。実際、犯行はすんなりと実行され成功、強奪した金を分けようとしたところ思わぬ内部の裏切りがあり逆に5千万という借金を、カジノを経営するヤクザ・羽沢組から強いられ最悪の事態に陥る。
小峰は彼の機転というか怒りから、裏切り者を探し出し金を回収すれば借金をチャラにし加えて1千万円の報酬をよこせ、という提案を羽沢組みにもちかけ了承させる。
ここから小峰探偵?が誕生しその監視役、相方に指名されたのが池袋ウエストゲートパーク・シリーズで何度か登場した羽沢組組員のサルであった。

サルは同シリーズでもなかなか味のある役割を果たしているのであるが、本編では更に彼の並みのヤクザにはない魅力も描かれ、小峰のちょっと軽すぎる言動とは対照的な渋さを発揮する。作中には“外伝”らしくまことの名前があがったりキングにいたってはちょっとではあるが実際に登場し読者を楽しませてくれる。

最後に起死回生を賭けたカジノ対決があるのだがこの辺りの緊迫感はなかなか読ませる。ただ結末が容易に想像されるのには苦笑してしまったが・・・・

英雄先生

2006-01-18 15:14:22 | 「タ行」の作家
東直己著『英雄先生』角川書店 H17.12.20 1,700+tax

東直己の主要なシリーズ、「すすきの便利屋」や「畝原」シリーズは舞台が全て札幌であった。もはや北海道の札幌だけでは描く世界に限界を感じたのであろうか、舞台は島根に移った。登場する主人公の教師や生徒達の「質」は東がかって描いてきた人物像とたいして乖離はしていない。また扱う内容も「マルチ商法+カルト集団」まがいの団体が登場、これもまた今までの作品群で登場したものと異質とは思わない。
だが、さりげなくテレビのニュースで流される外部の状況は大変に今までとは違っている。
報道されるニュースは何と北朝鮮から韓国へ多くの人民がなだれ込んでいるのだ。何がどうしてこうなったのか詳しい背景は語られないのであるが、これは国際的にみても大事件である。物語もまたある時点から北朝鮮がからんできて、公安の謀略までが語られる。
確かにこんなプロットは札幌中心を描いていては無理なのであろうが、なんかまたそれが「取ってつけた感じがする。
今後の東直己流“ハードボイルド”がどこに向かっていくのかを占う一作となったようであるがその前途はけっして明るいとは思われない。