ライオネル・デヴィッドスン著『チベットの薔薇』 扶桑社ミステリー 2006,10.30 1,050円
ストーリーをごくごく簡潔に書くと、「名も無い英国の中学の美術教師がチベットに行き、片腕を失う大怪我をして大金持ちになって帰国した」というもの。
がしかし、この中に作者がちりばめた冒険小説のエッセンスと冒険小説の冒険小説たる仕掛けをほどこした様は、多少古臭い時代背景ではあるが在りし日の英国冒険小説の伝統、格調の高さがうかがわれ「ああ、これぞ冒険小説の王道だぁ!」と叫びたくなる出来ばえとなっている。
シッキムという過去実在したものの今やインドの属州となったヒマラヤの奥地の小国を舞台に、チベットに伝わる古来の予言をたくみに取り入れたプロットを用意した作者の膂力は並の作家のものではない。
登場人物がこれまた多彩であるが、ひときわメイ・ファというミステリアスかつ美貌の尼僧院長(時に大母、羅刹女とも呼ばれる)と主人公を献身的に助けるチベット人(インド系か)の少年の存在が大きく、この少年の活躍は感動的ですらある。
冒頭から中盤にかけややかったるい進行ではあるが、ひとたび逃避行に移ってからのくだりは読者をして息つく暇も与えない迫力に富んでいる。
もはやこの手の冒険小説の出現は望むべくもなく、極めて希少本といえる価値ある冒険小説だ。
巻末の解説によれば本書は同作家の「モルダウの黒い流れ」に次ぐ二作目の長編で1962年に英米で同時に出版され日本語訳にされたのが今回初めてで44年ぶりという。また同作家の「極北が呼ぶ」が本邦で出されて以来10年ぶりとも書かれている。
ほとんど日本では知られていない作家なのである。
本の帯にゴールド・ダガー3度受賞の巨匠、とあるのだがこの賞はCWA(イギリスミステリ作家協会)賞のその年の最優秀長編に贈られるもの。
どのくらいすごい賞なのかさっぱり分からないのであるが、自分で読んだことがある作家でこの賞を取ったひとはそうそういなくて、次にあげるこの作家のこの作品でもなかなか取れなかったのを知ればその凄さが分かろうというもの。
ちょっと古い受賞例なのであるが以下の如し。
1963年 ゴ賞 「寒い国から帰ってきたスパイ」 ル・カレ
1964年 次点 「もっとも危険なゲーム」 G.ライアル
1965年 次点 「興奮」 D.フランシス
・
・中略
・
1979年 次点 「利腕」 D.フランシス
尚、本編は北海道の地元紙にて冒険小説の批評家、北上次郎氏が紹介していたもので
、彼の推挙がなければまず手にしなかったであろうことを記しておく。
ストーリーをごくごく簡潔に書くと、「名も無い英国の中学の美術教師がチベットに行き、片腕を失う大怪我をして大金持ちになって帰国した」というもの。
がしかし、この中に作者がちりばめた冒険小説のエッセンスと冒険小説の冒険小説たる仕掛けをほどこした様は、多少古臭い時代背景ではあるが在りし日の英国冒険小説の伝統、格調の高さがうかがわれ「ああ、これぞ冒険小説の王道だぁ!」と叫びたくなる出来ばえとなっている。
シッキムという過去実在したものの今やインドの属州となったヒマラヤの奥地の小国を舞台に、チベットに伝わる古来の予言をたくみに取り入れたプロットを用意した作者の膂力は並の作家のものではない。
登場人物がこれまた多彩であるが、ひときわメイ・ファというミステリアスかつ美貌の尼僧院長(時に大母、羅刹女とも呼ばれる)と主人公を献身的に助けるチベット人(インド系か)の少年の存在が大きく、この少年の活躍は感動的ですらある。
冒頭から中盤にかけややかったるい進行ではあるが、ひとたび逃避行に移ってからのくだりは読者をして息つく暇も与えない迫力に富んでいる。
もはやこの手の冒険小説の出現は望むべくもなく、極めて希少本といえる価値ある冒険小説だ。
巻末の解説によれば本書は同作家の「モルダウの黒い流れ」に次ぐ二作目の長編で1962年に英米で同時に出版され日本語訳にされたのが今回初めてで44年ぶりという。また同作家の「極北が呼ぶ」が本邦で出されて以来10年ぶりとも書かれている。
ほとんど日本では知られていない作家なのである。
本の帯にゴールド・ダガー3度受賞の巨匠、とあるのだがこの賞はCWA(イギリスミステリ作家協会)賞のその年の最優秀長編に贈られるもの。
どのくらいすごい賞なのかさっぱり分からないのであるが、自分で読んだことがある作家でこの賞を取ったひとはそうそういなくて、次にあげるこの作家のこの作品でもなかなか取れなかったのを知ればその凄さが分かろうというもの。
ちょっと古い受賞例なのであるが以下の如し。
1963年 ゴ賞 「寒い国から帰ってきたスパイ」 ル・カレ
1964年 次点 「もっとも危険なゲーム」 G.ライアル
1965年 次点 「興奮」 D.フランシス
・
・中略
・
1979年 次点 「利腕」 D.フランシス
尚、本編は北海道の地元紙にて冒険小説の批評家、北上次郎氏が紹介していたもので
、彼の推挙がなければまず手にしなかったであろうことを記しておく。
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