min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

総理を撃て

2007-07-18 22:59:30 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『総理を撃て』光文社 2007.3.25 1,143円+tax
★★☆☆☆

三流私大を出てやっと就職出来た先は事務機や環境グッズを飛び込みセールスで売るしがない中小企業であった。
そこで25年間営業をとにもかくにも続けてきた主人公の明智は部下からも上司からも蔑まされる中間管理職の課長であった。
そんな彼があるとき社長から役員をおおせつかったのには明智自身が信じられなかったものの、やがて自らの地道な努力がやっと報いられるのだと有頂天になる。
しかしそれは社長と専務が仕組んだ周到な罠であった。そして明智の「悪夢」のような人生が始まる。
こんな主人公が「総理を撃つ」に至るギャップがあまりにも大きく、前半の明智のケチな会社暮らしの模様が執拗に描かれるのだが、転落してから一転、その後の世界は前半の饒舌さに比べあまりにも話が飛躍する様は読者を唖然とさせる。まさに、筆者が突然に白昼夢の世界に漂ってしまったかの感がするほどだ。
鳴海氏の“情念”だけが突っ走り始め、我々読者は置いてきぼりをくらったみたいだ。後半は完全に設定が無理と言わざるを得ない。残念な結果となってしまった。


微熱の街

2007-05-28 20:46:58 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『微熱の街』小学館 2007.05.11発行 1,700円+tax

寺多政道、通称テラマサは40歳を過ぎて「関東粋星会」の若頭心得をしているが、早い話“使いばしり”だ。
組が手を下した“死体の始末”や借金の取立てやらを、南米からやってきて帰化した扶利夫と組んでやらされているしがないヤクザだ。過去に離婚暦を持つ。
いつか一家を構えるのを夢想するものの到底実現するとは思えない。
そんなテラマサのぼろアパートの戸口にひとりの少年が猫を抱いて立っていた。その子をなんとなく家に泊めてやってから彼の身辺は一挙にきな臭くなる。
夜中にいきなり黒ずくめの暗殺者たちに襲われたのだ。からくも逃れた二人だが、子供を預けた先の一家が惨殺され、少年は行方不明に。
更に警視庁公安局テロ対策準備室なるものがまとわりつき、テラマサは何がなんだか分からなくなる。
全ての鍵はあの少年が握っているようだが、その背景は思いも寄らぬものであった。

「テロ活動の請負はこれから良いシノギになる」という極道の業態のリストラクチャーに対し、テラマサの大先輩である老ヤクザは晒しにダイナマイトを差し込んで出入りに向かう。そしてテラマサもまた古風な流儀の“落とし前”をつけようとする。
前編に渡り血なまぐさい世界が繰り広げられるのであるが、最後は何故かカタルシスを感じる作品だ。
鳴海章の多岐に渡る作品分野の拡がりを感じる一作である。

劫火1~4

2007-05-06 08:43:51 | 「ナ行」の作家
西村健著『劫火1,2,3,4』講談社文庫

劫火1 ビンゴR(リターンズ)
劫火2 大脱出
劫火3 突破再び
劫火4 激突

ストーリーは我が国の国政の深部で、ある極右の人物が率いる「日本再生」計画が練られていた。
東京に携帯型核爆弾を持ち込み爆発(金融機関のコンピュータがダウンする程度の制御された核爆発か?)させ日本転覆を企てる、というものである。そのために全ての金融機関のコンピュータのデータを沖縄に移しておこうというものだ。
一方、日本の「再生計画」のほかに米国による「伐採計画」(あるいは黄色い枝落とし)なるものも進行していた。
これは「再生計画」が始動すると同時に日本の富の全てを横取りしてやろうという米国のトップの陰謀である。
作中でも語られているが、現在日本国民の個人貯蓄の総額が1400兆円。この金でアメリカの国債の三分の一を買っているというのだから、アメリカならずともなんとかチャラにしたいところではある。
とにかく話のスケールはでかいのであるが内容はかなりハチャメチャである。ハチャメチャとはいえ、我が国が確実に右傾化していることは事実で、前首相の靖国参拝への固執(現首相の今夏の動向に注目!)、憲法改正への加速(特に第九条の撤廃)、更に武器輸出三原則の見直し論議などなど、こうした一連の動きの影に誰か秩父日照のような極右の黒幕がいるんではなかろうか?と思うほど。

4ヶ月に渡って刊行された文庫本。正直言って、過去の作品を読んでいなければピンとこない代物。オダケン、銀次、一徹の物語が各冊ごとに記され、それが最後の「激突」で3人が合流し日米双方の野望を粉砕しよう、ということになる。

日本人の“傷(ラーナ”と呼ばれる傭兵に率いられたロシアの「13人の兵士」という最強のクローン兵士?と対峙する3人は常人離れして強い、強すぎる。
敵の首領“傷”はもっと常人離れして強いのだが・・・・

著者渾身の2800枚に及ぶ大長編!
確かにご苦労さんではあるけど、なんかなぁ。全部読んでしまった素直な感想としては金と時間がモッタイナイって気もしないではない。
「日本冒険小説協会大賞」受賞作!とあるが、著者のバックグランドを考えると同協会の“身びいき”という側面はないだろうか。


フェイク

2007-05-04 20:49:47 | 「ナ行」の作家
楡周平著『フェイク』角川文庫

読み終わって二週間くらい経ってからあまり気が進まないまま感想を書こうと思ったら、何と作品内容を忘れてしまった。
そのくらいインパクトが無い作品とも言える。『Cの福音』でみせた著者のあの切れ味はどこへ行ってしまったのであろうか?
もう数年前からこの著者を見限ってしまった私であるが、たまたま友人から借りて本編を読んだ次第。
正直、心を揺さぶるシーンが出てこない。三流私大を出て銀座の高級クラブでボーイをする主人公がひょんなことから犯罪に組しのし上がって行く様をあまり深刻ではなく軽妙なタッチで描く“コン・ゲーム”小説である。
一箇所だけ感心したのは脅迫した金を「競輪」に賭けさせる下り。ああ、競輪ってこんな仕組みで掛け金が決まっているんだぁ、とそんな仕組みを巧妙に利用した著者のアイデアに感心。ま、そのくらいか。
後はなんかあまりに小説的すぎて何の現実感も緊迫感も湧かない凡庸な作品となっている。

えれじい

2007-02-18 18:19:06 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『えれじい』講談社 2005.9.9 1,785円

鳴海氏の「ニューナンブ」「街角の犬」の系列の警察小説。
愛崎警察署(神奈川県警管内の架空の警察署か)に転勤してきた佐倉。薬物銃器対策班に配属されたのだが相方は女デカであった。
愛崎警察署管内で薬物に錯乱したと思われる2件の犯罪が起こるが、その背後にはふたつの気にかかるものがあった。ひとつは通常の覚せい剤よりも強力な薬物の蔓延とマグナム弾を使用したハンドガンの存在である。
この二つの犯罪を追うコンビであったが、ある日佐倉の相方はマグナム銃に撃たれ死亡した。ふたりは実は密かに惹かれあっていたのだが・・・・・
彼女の殉職を機に帳場(事件対策本部)を仕切るのは本庁となり、佐倉たちには地取りをするだけで何の情報も与えられなかった。
何かが警察内部で動いている。彼女の死の背後に一体何が隠されているのか。佐倉は先輩のひとりからあるヤクザを紹介される。その名を跡見といううだつの上がらないヤクザだが、彼の協力で事件の糸口をつかみ核心へとせまる。
そんな中、中学校で乱射事件が発生し犯行に使われた銃が相方を撃ったマグナム銃であった。
全編ミステリー仕立てで、警察内部の複雑な勢力図があるのはこの作品に限ってのことではない。そして事件は驚愕の終末を迎える。

特に目立った内容の警察小説ではないものの、佐倉を始め彼を取り巻く人物造詣がしっかり描かれ緊迫しながらも楽しく読めた。



強行偵察

2006-12-30 00:15:30 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『強行偵察』 JOI NOVELS(実業之日本社)2006.10.25
838円+tax

鳴海章といえば最近何かと話題となった、北海道特有の競馬を描いた「輓馬」を思い起こす読者の方々が多いと思うが、そもそも「原子力空母信濃」とか「ナイトダンサー」に代表される海・空の軍事モノとして活躍してきた。一方「死の谷の狙撃手」などスナイパーものの著作も多く、本編はこのスナイパーもののひとつである。

物語は2歳の長女の臓器移植手術のため早急に1億円を必要とする現役の自衛官(北海道で強行偵察部隊に所属する海外訓練も受けたプロ)である澤崎を、元警察官僚で自衛隊の諜報分野に出向した経験を持つ古橋が“ある目的”のためリクルートしようとする。
古橋は官僚を辞め独立したのであるが闇金融に手を出し今や借金総額が2億5千万円にも膨れ上がり返済を迫られていた。
かって日米政府がからんだ謀略の中で死んだはずの元CIA工作員「ラックスマン」が生きており、ゴールデンクレセントと呼ばれるアフガニスタンの山中で莫大なヘロインを栽培、精製するクンサーとなっている。
この男を取り除くことで日本政府の“その筋”から相当の金をせしめることができる、と判断した古橋は澤崎とともにパキスタンに乗り込んだ。「ラックスマン」を暗殺するために。

ストーリーにはまるで現実感を伴わないし、主人公を含めた登場人物に肩入れする気持ちにもなれないのであるが、テンポある展開で気軽に読める娯楽作品ではある。

冬の狙撃手

2006-06-18 00:14:43 | 「ナ行」の作家
================================
題名:冬の狙撃手
著者:鳴海章
発行:光文社文庫 2002年12月20日 一刷  初出:2001年5月ケイブンシャノベルス
価格:819+tax
================================
独断と偏見というのは恐ろしい。昨年本作品が店頭に並んだ時、本の表紙のイラストと見て、さらに帯かカバーの後ろかに<子守唄>と呼ばれる伝説のテロリスト云々とあるのを読んで「ま、安手の対テロリストものでしょ、これは。」と判断。そのまま平積みの場所に戻して購入しなかった。

今回文庫になったのを機に買って読み始めた。これが面白い、とにかく面白いのだ。久しぶりの“ページターナー”というやつ。中味が満載という感じ。いろんな他作品のエッセンスが凝縮されちりばめられたとでも言おうか。

先ず、テロリストのスナイパーとの一騎打ち対決というのは大沢在昌の『標的はひとり』を想起させ、公安警察の暗部については逢坂剛の『百舌の叫ぶ夜』を彷彿とさせる。またその公安と刑事警察との対立については再び大沢在昌の『新宿鮫』にも通じる。
スナイパーの狙撃銃と狙撃術に関しては海外の作家、例えばS.ハンターに一歩譲るものの、国内では大藪春彦ばりの薀蓄をかたむける。前作『撃つ』でもしっかりディテールまで描写した知識が今回も披露される。

また、冒頭に近い部分でジャンボジェットのコックピット内の描写場面が出てくるのであるが、やはりこの方は国内作家では他の追随を許さないほどの航空小説の大御所であったことを思い出させてくれる。
エンターテーメント小説としては良くできた作品だ。


この感想は「第四の狙撃手」に関連して2002年に読んだ感想文を掲載いたしました。



第四の射手

2006-06-17 13:40:54 | 「ナ行」の作家
鳴海章著『第四の射手』実業之日本社(JOY NOVELS)2005.10.25 857円+tax

鳴海章氏はスナイパーに関する作品をかなり上梓している。古くは「撃つ」があり、続いて「死の谷の狙撃手」「長官狙撃」「冬の狙撃手」「バディソウル対テロ特殊部隊」そして本作「第四の狙撃手」となっている。
本作は「死の谷の狙撃手」の続編になる。

アメリカの軍部の一部で秘密裏に生み出された究極の殺人兵士軍団ポイズン(毒)。幼い少年たちが拉致同然に集められ、厳しく素質を選別された上更に薬物投与、脳への外科的手術をも行って作り上げた“二重人格”を持つ殺人者集団だ。
あるシグナルを与えられると殺すことへの何の躊躇も持たないキリング・マシーンと化す。
その一員、暗号名ダンテのが日本に帰ってきた。普段は自らが「毒」と知ることもなく。

帰国の目的は前作で殺したはずのボスニアヘルツェゴビナ出身の女狙撃手アンナが生きており、何らかの“狙撃”を目的に日本へ入国するらしいとの情報を得たためだ。
一方、「アフリカの曙光」と呼ばれるアフリカ某国のリーダーを警護すべく、かっての公安警察の特殊狙撃部隊に属していた仁王頭は現在道警に所属し、今回この護衛任務の為上京していた。
そして「アフリカの曙光」を成田から警護している途中、仁王頭の目の前で日本初の“自爆テロ”が行われた。
アンナの来日と「アフリカの曙光」更に米国大統領の来日が決まり、誰が狙撃のターゲットになるのか一挙に緊迫の度を増す。それに加えて謎の“究極の狙撃手”の影が・・・

前作「死の谷の狙撃手」でも感じたのだが、このポイズンを生み出した米国の軍部からはみ出したポイズン、その後の彼らを活用しようとする組織がますます不透明になっている。
その組織はシンジケートと呼ばれるのであるが同じシンギケートの内部で多様化されワケがわからない状態となっている点が今回もまた不満要素となってしまった。


リレキショ

2006-03-07 20:22:16 | 「ナ行」の作家
中村航著「リレキショ」河出文庫 490+tax

不思議な小説である。ファンタジーと呼んでもいいのだろうか。“半沢良”19歳。というのは彼を拾ってきた?「姉さん」が付けてくれた名前と想定年齢である。彼がどこの生まれでどのような人生を送ってきたかは一切語られない。
一方、何故「姉さん」が彼を拾ってきたかも明確には語られることはない。どうも彼女が「弟が欲しかったの」という程度しか確たる理由はないみたいだ。
姉と弟の生活が始まり、その弟が近くのガソリンスタンドにバイトで就職するために「履歴書」を作成する。ひとつは一応第三者がみて「履歴書」らしいものを書いて用意するのだがもうひとつ自分を創り、導く「リレキショ」なるものを書き留める。これは姉さんが言うところの「意思と勇気があれば大抵のことは上手くいく」を具現したものである。
さらに姉さんのお友達山崎女史が登場し、更に三人の不思議な人間関係が醸成される。その関係はほとんどセクシャルなものではない。
そして漆原(ウルシバラ)なる受験浪人の女の子の登場によって更なるファンタジーの世界が広がる。
半世紀以上生きてきたオジサンの感性の、はるか上空を物語りは進行する。

輓馬

2005-12-10 13:41:00 | 「ナ行」の作家
鳴海章著 文春文庫 2005.11.10 文庫化 単行本:2000年3月文芸春秋刊

鳴海章については前回このブログにて「もう一度、逢いたい」という作品の感想を書いた際紹介している。
http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/9c9092099526aded6139a5351138201a
「もう一度、逢いたい」で北海道の帯広を描いたおり、作中人物ばかりではなく鳴海章本人が故郷である帯広に戻った背景があることを述べた。

本作品は更に鳴海章の“原点回帰”の心象風景が描かれているような気がする。物語は、
極貧とも言える家庭環境で帯広時代を過ごした主人公矢崎が、兄の支援でかろうじて東京の大学を卒業。中堅商社で死に物狂いに働き、上司の死を機に独立。一時かなりの羽振りを見せたものの放漫経営がたたりあえなく破綻。妻とも離婚し、連日の借金取りから逃れるため東京を離れる。気がついた時には故郷帯広のばんえい競馬場でわずかな残額を全て失った矢崎。
当人の結婚式で大喧嘩して以来音信を途絶えていた兄に頼るしか方法はなかった。そこで初めて知った輓馬の世界。兄と、兄が経営する厩舎で働くそれぞれ濃いキャラクターの連中そして何よりも特別に巨大な輓馬の馬たちとの交流を通して、矢崎が破綻から再生への希望を持ち始める物語だ。

本作品は題名を「雪に願うこと」で映画化され、昨年の東京国際映画祭において最優秀作品賞ほか4冠を達成した作品である。きっと小説では表現しきれない輓馬のレースの迫力と北海道十勝地方の雄大な自然そして冬季の極寒の世界をあますところなく描いていることだろう。

さて、余談だが僕が学生時代、作品の舞台となった帯広市営ばんえい競馬で短期間ではあるがバイトしたことがある。
作中で矢崎が最初にさせられた「ボロの掃除」=馬糞の片付けをしたり、敷き藁の交換を行うのが主たる仕事であった。また、レース後のドーピング検査で馬の検尿の監視をするため、レース後の馬の側を離れなかったことを記憶している。
その時主人公矢崎と同様驚いたことは、レースに出場するペルシュロン種の巨大さであったり、そしてその捻り出す馬糞の大きさと膨大な小水の量であった。
作中交わされる北海道弁、そして厩舎の様子などなど、我が青春時代の記憶の断片が鮮明に思い起こされ感慨深い読書となったことを述べておく。