sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:パーフェクトデイズ

2024-02-14 | 映画


この映画の上映が始まる少し前に、読んでいた新聞の一面丸々使った
大きくてスタイリッシュな広告が出てて、
ヴィム・ヴェンダース監督の映画が、
日本を舞台にしているとはいえこんなに大きな堂々と出てるのは不思議だなぁと思いつつ、
見た人たちが絶賛しているので期待をして見に行き、そして期待以上にいい映画で感激した。

最近のヴェンダースのドキュメンタリーはピンとこないものもあるけど
「ベルリン・天使の詩」や「パリ・テキサス」はすっごい好きな映画だし、
あまり有名じゃないけど「ミリオンダラーホテル」はDVD持ってるくらい好きなのです。

悲しいかな映画慣れ?しすぎて、ああこれはジャームッシュの「パターソン」だなぁとか、
「ベルリン天使の詩」以来のいつものヴェンダースだなぁとか思ってしまうのですが、
(昔書いた映画「パターソン」の感想を読んでたら、あまりに「パーフェクトデイズ」の感想でびっくりした。
このまま固有名詞だけ変えて「パーフェクトデイズ」の感想に使えそうなくらい。
パーフェクトデイズを小津映画を引き合いに出す人が多いけどわたしはあんまりそれ思わないのよね。
むしろ何はともあれ「パターソン」でしょ。と思う。)そこから心を平らかにして静かに味わうことが大事だなぁ、などと邪念を払いながら見ました。
とてもいい映画で、自分がずっと焦がれていた生活がここにあるよなぁと思いながら
主人公と同じ側にいる人間の気分になって見ました。

お話は、公園のトイレ清掃の仕事を淡々と、でも丁寧に真面目にやる初老の男性が主人公。
朝は通りの掃除の箒の音で起き、植木に水をやり決まった手順で仕事に行く。
通勤の車ではカセットテープの音楽を聴き、仕事の帰りにはいつもの店で1杯だけ飲み
夜は古本の文庫本を読んで寝る規則正しい毎日を繰り返す中に起こるいろいろ。
聴く曲も読む本もこの役に対してセンスがよすぎると思ったけど、
途中でどうやら随分裕福な家の出の人物らしいということで納得しました。
本は、フォークナー幸田文ハイスミスという流れが、海外、日本、ミステリーと割と何でも読むし
それがいいものばかりというセンスで、ここも目指したいところです。

で、主人公の役所 広司の演技がめっちゃ褒められてるし、すごくいいと思うけど
やっぱりちょっとカッコ良すぎるかなとは思う。役(中身)もかっこいいけど本人(容姿)もかっこいい。
すらりと背が高く、波打つグレイの豊かな髪、毎日整えられる髭。
質素で地味ながら清潔感のある服。素足にサンダルでママチャリ乗っててもリラックスしたかっこよさがある。
これ、同じ中身の人物だとしても、たとえば小さくて禿げてて太ってるおじさんが演じたら
別の映画になっちゃいますよね。
たとえば温水洋一が主人公を演じるバージョンを脳内再生してみたけど
ヴェンダースの美意識で整えられた世界とは少し違う。
いや、でもその方が本当はここで描かれている平凡な日常の美しさにはふさわしいかもしれない。
まあそれだと、ここまでは評価されなかったかもね…

主人公の過去は描かれなくて謎のままだし、特に何が起こるということもない。
でもわたしが若かったら、この主人公(役所広司)を人生の最優目的形に置いただろうな。
寝て起きて働いて休む。
毎日同じように生きるけど、毎日ささやかに違うことが起こり違うことを見つける日々。
それが人生で何が悪いと思うし憧れる。

日常を淡々と描いて日常の中の小さな幸せや小さな美に気づかせてくれる、という映画は時々ありますが、
役所広司がやはり上手いし(まあちょっとカッコ良すぎるけどね)、全く退屈させないし、
この映画を見た後にはみんな晴々とした顔になると思います。
生活も仕事も、特にきれいな背景ではないところもカメラマジックできれいに撮られていて
ヴェンダースらしい映像も良いし、カセットテープで聴く音楽も素晴らしい。
音楽はこのリンクで各曲のさわりが聴けます→「ヴェンダースが音楽を教えてくれた」
(あと、このレビューはとてもいいです。色々と腑に落ちました)

こまかいところでは、写真を撮るシーンのカメラ、写真をずっと撮ってる年配の友達が
自分も持ってた、いいカメラだったといってたんだけど、
フィルムを現像に出す写真屋の店主がなんと翻訳家の柴田元幸さん!と後で聞いてびっくり!!!
映画を見る数日前に、柴田先生の朗読会に行って一番前でじっくり見て聞いたところだったのに
全く気がつかなかったとは不覚!笑

あと、スナックのママさんがやたら声の透人だなぁと思ってたら石川さゆりさんで
映画の中で歌を聞かせてもらえたのはサービス心があるなぁとうれしくなった。

などなど、誰にでもおすすめできるいい映画なんだけど、
この映画の発端になった渋谷トイレプロジェクトは、きれいでおしゃれなトイレを作る一方
行き場のないホームレスを追い出している渋谷再開発関連の事業だという話を見かけました。
この映画が、弱者を排除してできる「きれいな街」を目指すプロデューサーによって
作られたものならとても残念なことで、
いい映画だからといって耳を塞いではいけないことだと思うので、
すごく褒めたけど一応ここにそのことも書いておきます。
映画も街も、そりゃ美しい方がいい。でも美しい方がいいからという価値観が
東京のあのトイレプロジェクトの弱者排除と通底していると思うと残念、
かといってこの映画を見るなとはわたしは言えなくて、
映画を見た上でこういうことも知って考る機会になってほしいです。

あのお金のかかった大きな広告や、不思議におしゃれなトイレが少し謎だったけど、
そういうプロジェクトできれいなトイレを作る一方で、ホームレスを追い出したり
その人たちの荷物を勝手に移動させたりしたり公園での炊き出しができないようにしたり
してたんだと思うと、なんともねぇ・・・
監督は日本贔屓の外国人で、日本のいいところばかり見えるのかもしれないませんが、
ここに描かれる「美しい日本」が弱者排除の上に成り立っているのだとしたら、
この映画は矛盾を含む皮肉な作品になってしまいますね。
主人公は出自はどうあれ、今は排除される側に近い人として描かれてるのにね・・・

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