ちょっと大人向け?のお話書いてます。
よい子は読まないように(笑)。
(それほどでもないと思うけど・・・)
ミツという女の子とダメ男のぼくとのお話。
男の人の一人称で書くのは初めてで
ダメ男っぷりが書いてて楽しい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
よく、肩をかじられた。
肩をかじるとミントの匂いがするって。
肩はスペアミント。
首筋はペパーミント。
そんなはずないじゃん、何でミントなんだよ、と言うと
だってそうなんだもん。
ね、今度うちの店でおいしいモヒート飲ませてあげる。
今年はプランターでミント育ててるから
特別おいしいモヒートなんだよ。
わたしは、こっちの方が好きだけど、と
また肩をかむ。
ミツはバーテンをしている。
背があまりに高いので、カウンターの中にいても
偉そうすぎて、なんか決まらないんだけどね~といいつつ
もう10年近くなる。
ミツの店は駅からは近いけど、小さな建物の細い隙間の奥を
階段を下りて行く地下の店だ。
そうきくと、おしゃれな隠れ家バーみたいだけど
それが全然違って、さびれた居酒屋みたいな入り口なので
あまり流行ってはいないらしい。
とはいうものの、ミツの店には実は行ったことがない。
ないけど、店の出来事を全部ミツが話してくれるので
ぼくは会ったことのないたくさんの人のことを知っている。
だからミツが何か言うと
さすが加藤さんだね。とか
長井さん、そりゃまずいだろ。とか
ヘぇ、すぎちゃん、頑張ったね~、とか
ああ、カナちゃんたち仲直りしたんだね、とか
相槌をうつことができるくらいだ。
ぼくはドーナツの移動販売をやってる。
自転車に乗って、朝揚げたドーナツをビジネス街で売るのである。
ワゴン車で売ればもっと儲かるかと思うけど
ワゴン車を改造するお金がないし、何か許可とかいるようだったら面倒だし
ひとりでそんなにたくさんのドーナツ揚げられないし、で
自転車販売でいいや、と思ってる。
家の台所で、フライパンを2つ並べてドーナツを揚げるんだけど
大体一日40個くらいかな、作るのは。
それ以上だと自転車に上手く乗せられないし
台所にずっといるのも疲れるから多くて40個。
40個全部売れたら6000円の売り上げになる。
結構売り切れる日が多い。雨の日とかダメだけど。
でも週に5日働いても、それだけじゃ一人暮らしは無理。
それでミツの家にいる。
ミツのところに来る前、ぼくは結婚してた。
いや、正確には今も婚姻状態にあるし子どももいる。
その頃は妻の実家の会社で営業の仕事をしてて、
働き以上のお給料をもらってたけど
その頃のことは、もうあんまり覚えていないな。
いいことも悪いこともあっただろうけど。
ミツは子どものピアノの先生だった。
ぼくより4つ年上で、その頃は30歳くらいだったか、
いろんな家に出張レッスンしにいくのが仕事で、バーテンはまだしていなかった。
ぼくの息子は3歳で、ぼくはまだ早いと思ったけど
妻の意向でピアノを始めることになり
公園ママの口コミでお願いしたのがミツだった。
最初の印象はあんまりない。
年上だとわかってたし、いくらぼくだって
子どものピアノの先生を どうこういう気持ちで見たりしない。
息子はピアノに全く興味がなく、ミツを手こずらせたが
一年目の発表会を見ると、妻は大満足でミツにお礼をすると言い張り
有名フレンチレストランの夕食を予約してきた。
でも当日、息子が熱を出し、キャンセルするのも店に悪いからと
ぼくとミツにふたりで行かせた。
そして、その夜からぼくはミツのところにいるのである。
唐突だったし、子どももいるのにひどい男だと言われる。
全くその通りだなぁと思う。
その夜、何かドラマチックなことがあったわけではなく
ロマンチックな流れになったわけでもなく
レストランからの帰り道、駅までの間にミツの家があって
そこで急にお腹が痛くなっただけのことだった。
トイレを貸してもらうことになり飛び込んだけど
かなり長い間出られなかった。
そりゃ、恥ずかしくて困ったけど仕方ない。
熱い昆布茶を入れてもらって、トイレに何度かこもりながらも、
なんとなく話が弾んで、朝になってしまった。
結婚して以来、朝帰りなどしたことがなかった。
仕事は妻の父親と一緒だから、ぼくの行動は全部把握されてたし
妻の父親は若い頃アメリカに住んでいたことがあるせいか
家庭を何より大事にする人で、家族で夕食を食べられる時間に仕事が終わるよう
いつも上手くスケジュールを組んだ。
ぼくは営業だから、取引先と食事をすることも多かったけど
義父がそんなだから、取引先もこの会社は夜が早いと言うのが暗黙の了解で
あまり遅くまで付き合わされることはなかったのだった。
そこへ、朝帰りである。
朝になり、ミツがさすがに眠そうな顔になってきても
帰らなきゃと思いつつ、あれこれ面倒なことになるな、と思うと
中々立ち上がることができず、
ミツもミツで、ぐずぐずしているぼくに無理に帰れとも言わないので
そのまま何となくミツの家に住み着いてしまったのだった。
もちろん、その後いろいろあったけど
とにかくミツは何も言わず、ぼくはぼくで家族や面倒からできるだけ逃げ回って
何も解決しないまま10年が過ぎた。
自分でも、なんてだらしない男だろうと思う。
だらしないというか、情けない男だな。その結果ひどい男。
ぼくが転がり込んでから、ミツはピアノの先生ができなくなってしまった。
そりゃそうだ、公園ママの口コミはすごいのだ。
それで、ピアノの先生の他に、
ときどきピアノのあるレストランで演奏してたツテで、
家から電車で20分くらいの小さなバーでアルバイトをはじめた。
最初はそこのピアノを弾きながら雑用をしていたのだけど
バーテンダーがやめたのをきっかけに、彼女がずっとカウンターの中で
バーテンをするようになったのだった。
その後、改装の時にピアノは売ってしまって
彼女はもう、家でしかピアノを弾かなくなってしまった。
ぼくは自分がだらしなく居着いたせいで
彼女の人生がどんどん薄暗くなっていくようで申し訳なくてかわいそうで仕方ない。
仕方ないと思いつつ、ドーナツを揚げながら半日だけ働いて
後は本を読んだりしてるだけの生活を変えることもできないのだった。
ミツと二人きりの時、彼女は随分甘えん坊になる。
はたから見たら見苦しい眺めだろうなぁと思う。
40歳過ぎの女と、少し若い甲斐性のない男が、
手入れされてない雑草ぼうぼうの庭のある古い平屋で
ミッちゃん、タァちゃんと呼び合って、
毎日窓辺のソファに並んで腰掛け、見つめながらおしゃべりしたり
何となく手を握り合ったりしてるのだ。
ミツがぼくのどこを気にいったのかわからないけど 、
なぜかぼくみたいなダメ男は案外モテて、結婚する前もよく告白とかされたものだ。
ダメ男ではあるけど、二股かけたり、浮気したりしたことはない。
いや、ミツのことが、妻からみたら浮気ということになるのだろうか。
そう思うと、またミツがかわいそうになる。
ぼくの自分勝手な思い込みじゃないと思うけど
だからといってミツが不幸とも思えない。
ミツは朝方仕事から戻るとお化粧を落としながら
店での話を全部してくれる。
ぼくは相づちをうちながら、
彼女の話が終わるまでドーナツの準備をしながら聞いてる。
そして揚げたての一番おいしそうなのを
丁寧に入れたブラックコーヒーと一緒にミツにあげる。
すると、タァちゃんのドーナツ、毎朝一番に揚げたてを食べられるなんて
タァちゃんのドーナツのファンの人に申し訳ないわ、と必ず言う。
ぼくのドーナツには確かに常連さんがいるけど、ファンと言う程のものでもない。
雨が降ると、まあいいか、となるのか買いにきてくれないし
自分で言うのもなんだけど、ぼくのドーナツは特別ではない。
普通の、普通程度においしいドーナツで
その辺のチェーン店より特においしいとも思えない程度だ。
何しろ研究とか探求とかが苦手なぼくだから
これで売れるなら、これでいいや、と思ってしまい
普通のドーナツの域から決して出ないのだ。
・・・・・・・・・・・・・
続く
(続きは多分来週くらい。でも面白いのかどうかわかりません・・・)
よい子は読まないように(笑)。
(それほどでもないと思うけど・・・)
ミツという女の子とダメ男のぼくとのお話。
男の人の一人称で書くのは初めてで
ダメ男っぷりが書いてて楽しい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
よく、肩をかじられた。
肩をかじるとミントの匂いがするって。
肩はスペアミント。
首筋はペパーミント。
そんなはずないじゃん、何でミントなんだよ、と言うと
だってそうなんだもん。
ね、今度うちの店でおいしいモヒート飲ませてあげる。
今年はプランターでミント育ててるから
特別おいしいモヒートなんだよ。
わたしは、こっちの方が好きだけど、と
また肩をかむ。
ミツはバーテンをしている。
背があまりに高いので、カウンターの中にいても
偉そうすぎて、なんか決まらないんだけどね~といいつつ
もう10年近くなる。
ミツの店は駅からは近いけど、小さな建物の細い隙間の奥を
階段を下りて行く地下の店だ。
そうきくと、おしゃれな隠れ家バーみたいだけど
それが全然違って、さびれた居酒屋みたいな入り口なので
あまり流行ってはいないらしい。
とはいうものの、ミツの店には実は行ったことがない。
ないけど、店の出来事を全部ミツが話してくれるので
ぼくは会ったことのないたくさんの人のことを知っている。
だからミツが何か言うと
さすが加藤さんだね。とか
長井さん、そりゃまずいだろ。とか
ヘぇ、すぎちゃん、頑張ったね~、とか
ああ、カナちゃんたち仲直りしたんだね、とか
相槌をうつことができるくらいだ。
ぼくはドーナツの移動販売をやってる。
自転車に乗って、朝揚げたドーナツをビジネス街で売るのである。
ワゴン車で売ればもっと儲かるかと思うけど
ワゴン車を改造するお金がないし、何か許可とかいるようだったら面倒だし
ひとりでそんなにたくさんのドーナツ揚げられないし、で
自転車販売でいいや、と思ってる。
家の台所で、フライパンを2つ並べてドーナツを揚げるんだけど
大体一日40個くらいかな、作るのは。
それ以上だと自転車に上手く乗せられないし
台所にずっといるのも疲れるから多くて40個。
40個全部売れたら6000円の売り上げになる。
結構売り切れる日が多い。雨の日とかダメだけど。
でも週に5日働いても、それだけじゃ一人暮らしは無理。
それでミツの家にいる。
ミツのところに来る前、ぼくは結婚してた。
いや、正確には今も婚姻状態にあるし子どももいる。
その頃は妻の実家の会社で営業の仕事をしてて、
働き以上のお給料をもらってたけど
その頃のことは、もうあんまり覚えていないな。
いいことも悪いこともあっただろうけど。
ミツは子どものピアノの先生だった。
ぼくより4つ年上で、その頃は30歳くらいだったか、
いろんな家に出張レッスンしにいくのが仕事で、バーテンはまだしていなかった。
ぼくの息子は3歳で、ぼくはまだ早いと思ったけど
妻の意向でピアノを始めることになり
公園ママの口コミでお願いしたのがミツだった。
最初の印象はあんまりない。
年上だとわかってたし、いくらぼくだって
子どものピアノの先生を どうこういう気持ちで見たりしない。
息子はピアノに全く興味がなく、ミツを手こずらせたが
一年目の発表会を見ると、妻は大満足でミツにお礼をすると言い張り
有名フレンチレストランの夕食を予約してきた。
でも当日、息子が熱を出し、キャンセルするのも店に悪いからと
ぼくとミツにふたりで行かせた。
そして、その夜からぼくはミツのところにいるのである。
唐突だったし、子どももいるのにひどい男だと言われる。
全くその通りだなぁと思う。
その夜、何かドラマチックなことがあったわけではなく
ロマンチックな流れになったわけでもなく
レストランからの帰り道、駅までの間にミツの家があって
そこで急にお腹が痛くなっただけのことだった。
トイレを貸してもらうことになり飛び込んだけど
かなり長い間出られなかった。
そりゃ、恥ずかしくて困ったけど仕方ない。
熱い昆布茶を入れてもらって、トイレに何度かこもりながらも、
なんとなく話が弾んで、朝になってしまった。
結婚して以来、朝帰りなどしたことがなかった。
仕事は妻の父親と一緒だから、ぼくの行動は全部把握されてたし
妻の父親は若い頃アメリカに住んでいたことがあるせいか
家庭を何より大事にする人で、家族で夕食を食べられる時間に仕事が終わるよう
いつも上手くスケジュールを組んだ。
ぼくは営業だから、取引先と食事をすることも多かったけど
義父がそんなだから、取引先もこの会社は夜が早いと言うのが暗黙の了解で
あまり遅くまで付き合わされることはなかったのだった。
そこへ、朝帰りである。
朝になり、ミツがさすがに眠そうな顔になってきても
帰らなきゃと思いつつ、あれこれ面倒なことになるな、と思うと
中々立ち上がることができず、
ミツもミツで、ぐずぐずしているぼくに無理に帰れとも言わないので
そのまま何となくミツの家に住み着いてしまったのだった。
もちろん、その後いろいろあったけど
とにかくミツは何も言わず、ぼくはぼくで家族や面倒からできるだけ逃げ回って
何も解決しないまま10年が過ぎた。
自分でも、なんてだらしない男だろうと思う。
だらしないというか、情けない男だな。その結果ひどい男。
ぼくが転がり込んでから、ミツはピアノの先生ができなくなってしまった。
そりゃそうだ、公園ママの口コミはすごいのだ。
それで、ピアノの先生の他に、
ときどきピアノのあるレストランで演奏してたツテで、
家から電車で20分くらいの小さなバーでアルバイトをはじめた。
最初はそこのピアノを弾きながら雑用をしていたのだけど
バーテンダーがやめたのをきっかけに、彼女がずっとカウンターの中で
バーテンをするようになったのだった。
その後、改装の時にピアノは売ってしまって
彼女はもう、家でしかピアノを弾かなくなってしまった。
ぼくは自分がだらしなく居着いたせいで
彼女の人生がどんどん薄暗くなっていくようで申し訳なくてかわいそうで仕方ない。
仕方ないと思いつつ、ドーナツを揚げながら半日だけ働いて
後は本を読んだりしてるだけの生活を変えることもできないのだった。
ミツと二人きりの時、彼女は随分甘えん坊になる。
はたから見たら見苦しい眺めだろうなぁと思う。
40歳過ぎの女と、少し若い甲斐性のない男が、
手入れされてない雑草ぼうぼうの庭のある古い平屋で
ミッちゃん、タァちゃんと呼び合って、
毎日窓辺のソファに並んで腰掛け、見つめながらおしゃべりしたり
何となく手を握り合ったりしてるのだ。
ミツがぼくのどこを気にいったのかわからないけど 、
なぜかぼくみたいなダメ男は案外モテて、結婚する前もよく告白とかされたものだ。
ダメ男ではあるけど、二股かけたり、浮気したりしたことはない。
いや、ミツのことが、妻からみたら浮気ということになるのだろうか。
そう思うと、またミツがかわいそうになる。
ぼくの自分勝手な思い込みじゃないと思うけど
だからといってミツが不幸とも思えない。
ミツは朝方仕事から戻るとお化粧を落としながら
店での話を全部してくれる。
ぼくは相づちをうちながら、
彼女の話が終わるまでドーナツの準備をしながら聞いてる。
そして揚げたての一番おいしそうなのを
丁寧に入れたブラックコーヒーと一緒にミツにあげる。
すると、タァちゃんのドーナツ、毎朝一番に揚げたてを食べられるなんて
タァちゃんのドーナツのファンの人に申し訳ないわ、と必ず言う。
ぼくのドーナツには確かに常連さんがいるけど、ファンと言う程のものでもない。
雨が降ると、まあいいか、となるのか買いにきてくれないし
自分で言うのもなんだけど、ぼくのドーナツは特別ではない。
普通の、普通程度においしいドーナツで
その辺のチェーン店より特においしいとも思えない程度だ。
何しろ研究とか探求とかが苦手なぼくだから
これで売れるなら、これでいいや、と思ってしまい
普通のドーナツの域から決して出ないのだ。
・・・・・・・・・・・・・
続く
(続きは多分来週くらい。でも面白いのかどうかわかりません・・・)