とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

あちこち「SYOWA」 11 白い道

2016-03-23 00:14:35 | 日記
みんなのうた 白い道


 人は歌とともに生き、四季それぞれに似合ったメロディーを胸のうちに秘めている。私にも冬のテーマ曲がある。渋滞と凍結の中、神立橋を渡る苦しさから私を救ってくれた曲である。
 その年の冬も猛烈な寒波が当地を襲ってきた。橋(北神立橋かどうか思い出せない)の東西はいつもの通り何キロもの渋滞。私は車の中で白い巨大な冷凍マグロのようになって並んでいる車の列を眺めていた。すると突如、この閉所から、いや、私を取り巻くすべてから逃れたい!      という衝動を抑えきれなくなってきた。そこへカーラジオから軽やかな若い女性歌手の歌声が流れてきた。「どこまでも白い/ひとりの雪の道/遠い国の母さん今日も/お話を聞いてください……」
 メロディーに聞き覚えがあった。ヴィヴァルディの協奏曲集「四季」の中の第四番「冬」に違いなかった。車窓の外に広がる凍結した出雲平野を白く貫いている大小の農道を見つめながら曲を聴いていると、衝動的な気持ちがしだいに癒されるのを感じていた。
 後でその曲のことを調べてみた。NHKの「みんなのうた」の「白い道」だった。私がその時聞いたのは定時の放送ではなかったかもしれない。だが、歌詞の全体が分かった。三番の初めは、「あしたもこの道/歩きますひとりで/母さんが歩いたように/風の中も負けないで……」。「遠い国」へ旅立った優しい「母さん」を偲びながら、「白い道」を踏みしめて、私も「母さん」のように生きていきます。そういう娘の決意を爽やかに謳いあげた曲であった。
 ……私はその時、渋滞の車列の中で、新聞や米の配達をしながらバイクでひた走って父亡き後も働き続けている母の姿が、凍てついた白い農道の中から浮かび上がってくるのを感じていたのである。その母は、平成九年に「遠い国」の人になってしまった。(2005年投稿)

ヴィヴァルディ 「四季」より「冬」 高音質 FULL


これは原曲です。

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