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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・19『服部課長代理』

2022-09-12 09:05:44 | 小説3

くノ一その一今のうち

19『服部課長代理』 

 

 

 東京駅中央口で地上に上がって二回角を曲がると徳川物産の本社ビル。わたしのバイト先。

 地上に出ると、信号が赤になったところで、変わったばかりの赤信号が服部課長代理のネクタイピンの飾りに見える。

 見えたから、思い出してしまう。

 

「豊臣家の係累は二つある。一つは、君も知っている鈴木まあやだ」

「え、まあやが?」

「そうだ。秀頼から数えて五代目で別れた家柄でな、代々江戸の薩摩藩邸で饗応を受け持っていた」

「キョウオウ?」

「ああ、接待係だな。大名の付き合いというのは格式に縛られている。たとえば、徳川と云っても、宗家以外に御三家、御三卿、分家があってな。三つ葉葵の紋所だけで28種類もある。都の貴族や寺社とのつきあいもあるしな。相手に寄って、対応を変えなければならない。豊臣家は秀吉の代から朝廷との関りも深くて、そういう格式に明るい。そこをかわれて、いわば接待指南係という扱いだった」

 まあやが指南役……ちょっとイメージが違う。

「話は途中だ」

 み、見透かされてる(;'∀')

「江戸も元禄を迎えるころになると、付き合いの半分は江戸や大坂の大商人たちだ。こういう道にも豊臣家は長けていた。曾呂利新左衛門や道頓、堺の会合衆との絆があったし、商人たちの中には、鈴木家が豊臣の末であることに薄々気が付いていた節がある」

「そ、そうなんですか」

 まあやの人懐っこさと、可愛らしさが、とんでもないものに思えてきた。

「もう一つの豊臣家は、秀吉の旧姓の木下を名乗って幕末を迎え、現在に至っている」

「そうか、それで、鈴木の豊臣家を援助してるんですね」

「先走るな」

「はい」

「徳川物産は、鈴木、木下、両方に関りを持っている」

「両方?」

「今は、鈴木まあやにだけ関わっていればいい。ただ、そういう背景があるということを理解していればいい」

「はい」

「何度も言っているが、お前は、早とちりの傾向がある。さっき、警官姿で近づいた時のリアクションは、完全に失敗だ」

「あ、はい……」

「いきなり信号機の上になんかジャンプしおって、三人写真を撮っていたぞ」

「え、三秒も無かったと思うんですけど!」

「三秒あれば、十分に撮影できる。ブロガーやユーチューバを甘く見るな」

「すみませんでした」

「分かればいい、写真はスマホごとクラッシュさせてある」

 ああ……自己嫌悪で天井を仰いで、視線を戻した時には、もう課長代理の姿は無くって、例のロボットが、いろいろ説明してくれた。

 で、ロボットの説明によると、今日は総務二課の模様替えをやるらしい。

 作業着も新品を支給してくれるらしい。百地芸能に不満は無いんだけど、あのヨレヨレの石鹸臭いジャージはごめんだからありがたい。

 

 昨日のあれこれを思い浮かべて、二つ目の角を曲がる。

 

 え!?

 

 本社ビルの前には、百地芸能のトラックが大荷物を積んで停車していた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・62『覗いたら殺す!』

2022-09-12 06:26:32 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

62『覗いたら殺す!』オメガ 




 うちはお客さんが多い。

 客商売だったということもあるし、最後の家業だったパブの設えが、そのまま残っていて、ご近所さんが気軽に訪れてくるのに適していることもある。

――んじゃ、そういうことで!(^^)!――
――ひとつよろしく(*^-^*)――


 いまも、町会長さんと婦人会長さんが、夏祭りの打ち合わせを終えて帰って行ったところだ。

「お、先に行きな」

 祖父ちゃんが小菊に譲った。

「ちが、トイレじゃないわよ」

 トイレ前でソワソワしていた小菊はドスドスと階段を上がってきた。

「見てんじゃないわよ、変態!」

 バタン!

「変態はねーだろー」

 腐れ童貞には慣れているが変態には傷つく。

 ピンポーン

 階段を下りると店のドアホンが鳴る。

「俺が……」

 台所から顔を出したお袋に目配せして店に向かう。小菊がバタンドタドタと階段まで出てくる。

「夜分に恐れ入ります……」

 ドアを開けて現れたのは六十がらみの立派な紳士だった。

 ご近所の人は、いきなりドアを開けて「コウちゃんいるかい!」と気楽に入ってくる。ちなみにコウちゃんとは祖父ちゃんのこと、ユウちゃんは親父のことだし、ゆう君とくれば俺のことだ。

「ご近所の方がこちらから出てこられましたので、こちらから伺いました、失礼ではなかったでしょうか?」

「いえ、玄関は分かりにくいですから、えと……」

「もうし遅れました、徳川と申します」

 すごい苗字を言いながら差し出された名刺には――徳川家友――とある。

「しょ、少々お待ちください」

 一瞬で緊張した俺は祖父ちゃんを呼びに行こうとした。

「あ、いや、あなたが妻鹿雄一さんですか?」

「あ、はい自分ですが……」

 紳士の顔がパッと明るくなった。

 それからの展開はあわただしかった。

 紳士はいったん道路まで出て、なにやら通りの方に合図をされている。

 家の前に出てみると一筋向こうに黒塗りの高級車。うちの前は狭いので大型車は入り辛い。

 で、運転手さんに介添えされて高級車から出てきたのは、紺のワンピに身を包んだ木田さんだ!

 やっぱ一人で対応しちゃいけないと思って、廊下から祖父ちゃんに声を掛けた。

 残念そうなため息で小菊が部屋に戻り、祖父ちゃんが落ち着いて出てきた。

「一昨日は孫の友子がたいへんお世話になりました」

 家友さんが深々と頭を下げる。

 ゴチン!

 威厳のある人なので、位負けした俺はテーブルにぶつけるくらいに頭を下げてしまう。

 祖父ちゃんが程よい挨拶を返したのが気配で分かる。

 家友さんの横、木田さんはお嬢様というよりはお姫様って感じで品よくお爺さんに習っている。

「大事をとって今日まで休みましたけど、来週からは学校にもどります。その前にお礼を申し上げなくてはとお伺いしました。一昨日はほんとうにありがとうございました」

 この言葉でやっとわかった。

 一昨日の避難訓練で怪我をした木田さんを、俺は保健室まで連れて行ったんだ。

 情けないことに、その時のイメージは、気絶した木田さんが蹲って、計らずも見えてしまったスカートの中の景色だ。
 こういうことは分かってしまうのか、木田さんは美しく俯いてしまった。

「訳あって芳子は徳川を名乗ってはおりませんが、たった一人の孫娘です。怪我を知った時はほんとうに驚きました」

「うちの雄一がお役に立ったのなら、何よりのことです」

 熟年二人の挨拶は、なんだか大河ドラマの一コマを見ているようだった。

 祖父ちゃんに声を掛けて正解だ、親父やお袋では、こうはいかない。

 木田さんがお祖父さんと帰ってから検索すると、家友さんは徳川宗家ではないけど、いくつか残っている徳川家の名門であると知れた。

 その日、三度目にやって来たお客が小菊の待ち人だった。

「覗いたら殺す!」

 で、気配しか分からなかったが、大人二人の来客のようだ。

 いったい何をやってるんだ?

 廊下で祖父ちゃんと首をひねる俺だった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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