泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
好きなものを見ると人間の瞳孔は大きく開く、特に女子はね。
赤ちゃんとか、恋人とか、大好きなスィーツとか見たら、女の子の瞳は、もうマンホールの穴かってくらいに開く。
「わー、すごいです! スゴイです! 凄いです!」
いろんなニュアンスでSUGOIDESUを連発している増田さんが、まさにそうだ。
遠くからしか見たことないけど、ノリスケを見る時もこういう目をしてるんだろうなあと思う。
ついこないだまでは、引きこもり寸前だった地味子の増田さんの両眼は緩みっぱなし。
「で、この太一というお兄さんは実在するんですか!?」
「え、あ……まあね」
覚悟はしていたけど、あの腐れ童貞が実の兄貴だと言うことを認めなくてはならない。
同じ神楽坂高校に通っていても、腐れ童貞は特徴のヘラヘラ顔からω(オメガ)で通っていて、本名の妻鹿で呼ばれることはほとんどない。
もし聞かれたら――遠い親類――で通そうと思っていた。でも、そんな心配はいらなくって、いまだに真実を知っているのは学校では、ほんの僅か。
今朝、増田さんは最初の信号の所で待ち伏せしていた。
「学校では、あんまりキャーキャー言えませんからね(^_^;)」
それで、校門を潜るまで、瞳孔開きっぱなしのキラキラ眼(まなこ)であたしを眩しがってくれている。
増田さんがこれなんだから、学校に行ったらさぞかしと覚悟はしていた。
……でも、意外に平穏。
なぜか昇降口の所に担任の田中先生が居て「新人賞おめでとう」と小さな声で言ってくれただけ。
教室に入るといつも通り、月曜日特有の倦怠感。
中には週末に試合を控えた運動部とかで、やる気満々という人も居るんだけど、そういうポジティブな空気は、なるべく出さないようにしているところがある。増田さんが「学校じゃキャーキャー言えませんから」と言った、あの空気。
何人かは、突破新人賞を知っている人が居て、瞳がオッキクなっている子がいる。
でも、キャーキャーとはならない。日本人特有の『そっとしてあげよう』感。
騒がれるのは苦手だから、ま、ありがたい空気。
「なあ、オメガが兄貴だって言っちゃだめか?」
渡り廊下で会ったノリスケが聞いてくる。
「だめ! 自然に知れるのはともかく、バラされるのは絶対だめだからね!」
「いや、一般ピープルにじゃなくて、増田さんにさ。彼女、授賞式のトーク聞いててさ、がぜん腐れ童貞クンに興味を持っちまってさ」
「んーーーーやっぱだめ。まだ作品は発表されてないんだしさ、最低、やっぱ読んでからだよ」
「そっか、じゃ」
そう言ってやり過ごしてから、再び声を掛けてきた。
「まだ用?」
「あんまりひどく書いてないよな?」
親友だからの心配なんだろうけど、カチンと来た。
でも、少し瞳孔が大きくなっていたので「出たら読んで」とだけ言って許してやった。
放課後、昇降口で下足に履き替えようとしたら、柱の陰から声を掛けられた。
「突破新人賞おめでとう、妻鹿小菊さん」
え(# ゚Д゚#)!?
校内で初めての正面切ってのおめでとうだったので、正直びっくりした。
「わたし二年二組の和田友子、うちの学校から突破新人賞が出るなんてすごい。それに、こんなに可愛い一年生なんだもの、ほんとにすごいわ」
「あ、ども、あ、ありがとうございます」
二年生なので、いちおう敬語でお礼を言う。
「ね、わたしとあなたで、学校にラノベ部つくらない?」
にこやかに言う和田さんだけども、瞳孔は開いていない……どころかめちゃくちゃ小さくなってたんですけど(;'∀')。
☆彡 主な登場人物
- 妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
- 百地美子 (シグマ) 高校二年
- 妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
- 妻鹿幸一 祖父
- 妻鹿由紀夫 父
- 鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
- 風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
- 柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
- ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
- ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
- 木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
- 増田汐(しほ) 小菊のクラスメート