明神男坂のぼりたい
角を曲がってジャンク通りに出るとえらいことになっていた!
ジャンク通りのオッチャン、オバチャン、オネーチャン、オタクにメイドさんたちが100人近く集まっての大歓迎。
『歓迎AKR47 鈴木明日香さん!』『ジャンク通りアイドル白石佳代子!』なんかのノボリやボードが生い茂った夏草みたいにそよいでる。わたしを見つけて「キャー!」とか「ワー!」とか声が上がると、ほとんど百姓一揆!?
人波の中にカヨちゃんと目が合って、一瞬で予定変更、百姓一揆のみなさんを引き連れ、十分にジャンク通りのロケーションを撮りながらAKRのスタジオへ。途中百姓一揆のみなさんは、自分の店の前に来くると、カメラを強引に店の方にパンさせる。自分たちも口々にお店のPR。だけど100人余りが、てんでに好き勝手に言うから、全体としてのガヤの勢いしか伝わらないんですけどね(^_^;)。
カヨちゃんが、ジャンク通り期待のアイドルだということがよ~く分かった。
「東京音頭に手を加えます!」
スタジオに着いて、レッスンの準備ができると、夏木先生が宣言した。
「ディープなファンの方々からご指摘を受けました。東京音頭は昭和七年にできたんだけど、以来、基本形は守られつつ、いろんなパターンがあるのね。ヤクルトスワローズの応援歌になってたりビビットなものなんかあったりするのよ。基本的なリズムだけ踏まえておけば、あとはやったもん勝ちの自由です。その自由と要所要所での統一感を出すレッスンをやります。テンポは基本の1・5倍でしたが、ラストは2倍にして、一気に盛り上げます。曲もニューミュージック風にアレンジしました。明日香は曲の練習ね。一時間で仕上げて、いっくぞー!」
「「「「オーーー!」」」」
AKRはいつもこの調子。その時その時のお客さんの反応や、テレビの数字などで、イケルと思えるところはどんどん変えて、イマイチなとこはあっさり切られる。
あたしはニューバージョンになった曲と歌詞を覚える。アレンジしたとは言え、基本は東京音頭なので、体を動かさないと曲も歌詞も勢いが出ない。この一時間のレッスンはきつかった。もう途中で取材カメラが回っていることさえ忘れてしまう。
OKが出ると、あたしはTシャツの裾を大きくパカパカ……しすぎてブラがカメラに映ってしまった。ラッシュで気が付いて「ここカット」ってディレクターは言っていたけど。あてにはなりません(-_-;)。
「すげーなあ!」
テレビのディレクターが思わず言うくらい、あたしたちの休憩時間はすさまじい。
「はい、休憩!」
その声がかかったとたん、あたしらの女の子らしさはスイッチ切ったみたいに無くなってしまう。スポーツドリンクをオッサンみたいにがぶ飲みする子。バスタオルでTシャツまくり上げ汗を拭きまくる子。シャワー室へ駈け込んで、ダイレクトに体を冷やす子。二台のカメラは、そんな子らを追い掛け回して大忙し。
「もう、明日香を映してくださいよ。これ『AKR47 佐藤明日香の24時間』いうタイトルなんでしょ!?」
「あ、そうだった!」
思い出したディレクターが、急きょあたしにインタビュー。
「車で言うとF1耐久レースですね。何百キロいうスピードで走りまくって、ピットインしてるのが今ですよ。体は一つだけど、エモーションは何人前もあるんです。一遍には出しません。F1が休憩のたんびに、ドライバーが入れ替わるように、新しいエモーション注入。え……教えられたこと……ちがいますね。この二か月間で、あたしたち自身で自然に会得した心と体のローテーションですね。キザに言うと青春の完全燃焼のさせ方ですか!?」
我ながらうまいこと言葉が出てくる。そう言ってみんなを見ると、バテかけてるメンバーの姿が、いかにも美少女戦士束の間の休息に見えてくるぞ。
午後からは、東京音頭がバージョンアップした分、バランスをとるためにVACATIONも手直し。
ヘゲヘゲになったとこで、市川ディレクターから嬉しい知らせ。
「ユニオシから予算が付いたんで、週末は三日かけて、プロモの撮り直し。ハワイで!」
一瞬間があって、みんなから歓声があがった……!
キャーーーーー(≧∇≦)!!
ワンコかニャンコみたくピョンピョン喜ぶ!
その中に、さつきと出雲阿国が見えたような気がした。