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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・026『冷えたたこ焼き』

2019-05-09 06:31:10 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・026
『冷えたたこ焼き』


 
 またたこ焼きだ

 我ながら芸が無いが気は心だと思う。

 航海長のたこ焼は、瞬くうちに艦内の名物になった。
 元は海自の女性隊員だったが、その何倍も長く学校食堂のオバチャンをやっているので、人に喜んで食べてもらうと調子に乗ってしまう。また、たくさん作るのに慣れても居る。

 小林艦長は、艦内が和気あいあいと弾んでいるのが嬉しいし、たこ焼は子どものころからの好物でもある。

 ツクヨミとの衝突で18人の犠牲者が出た。
 艦長付き従兵として他の乗員より早く個性化が進んでいたテルミ一士も犠牲になった。
 乗員はガイノイドなので人間的な意味での死亡ではないが、CP、特にメモリーが回復不能なまでに壊れてしまっては仕方がない。
 交換可能なパーツを外され外郭の生体組織だけにされた抜け殻がシュラフに入れられて宇宙葬にされた。
 十八個のシュラフは慣性が付いているので、舷側から宇宙空間に放たれても、なかなかカワチからは離れない。
 海葬の経験はある艦長だが、このいつまでも艦から離れようとしないシュラフには往生した。

 沈んだ艦内を少しでも明るくしようと航海長も烹炊所で奮闘した。その結果が艦長の土産になっている。

「予測は不可能だったと思ってるよ」
 中村清美船務長に切りだして一時間……いや二時間がたってしまった。

 飛行長兼飛行隊長の美樹が哨戒飛行の途中、艦首前方24シリアルのところで極小の歪を感じて報告してくれていた。
 歪の数値が誤差の範囲なので継続調査ということにしていたが、いま思うと、あれが時空の裂け目で、そこからツクヨミが出現したのかもしれない。解析中ではあるが、艦内の噂は、その方向に傾斜しつつあった。

「あれは、わたしの責任じゃありませんから!」

 清美は繰り返したが、繰り返しているということが、清美自身とても気にしていることの現れだろう。
 どうでもいい話題はとうに品切れになり、二人の間のは気まずい沈黙が支配した。
「嫌いなんです……冷めたたこ焼きの臭いって」
「あ、たしかにな」
 自分の好物であり評判のいいたこ焼きなので、三回目になる訪問にも持ってきてしまったのだ。
 改めて鼻を利かすと、もたれるような油やショウガ、つまりたこ焼きの臭いが立ち込めている。
「すまん」
 艦長は、残ったたこ焼きにラップをかけると、あたりを見回した。
「ちょっと洗面を借りるよ」
 洗面に向かうと、艦長は不自由な左腕を庇いながら濡れタオルを絞った。
「なにをするんですか?」
「こいつを部屋中でたなびかせると臭いの分子を吸着してくれる。空気清浄機を使うよりも即効性があるんだ」
 長年自衛隊で暮らして身に付いたテクニックだ。

「わたしって、冷え切ったたこ焼きみたいなもんです」

 臭い消しで解れかかった空気が、また萎んでいく。
「時空戦艦だとか、大阪の復権が世界を救うとか、X国が飛ばしたミサイルに核弾頭が付いているとか、そんなのは信じません」
「清美くん」
「こんな船に乗せられて、そんなの信じません。みんなフェイクです、ネトウヨよりもぶっ飛んだたわごとです!」
「できるものなら、君の日常に帰してあげたいが、変えるべき平穏な日本は、この遠征を無事に終えなければ取り戻せないんだ」
「そんなの……」
「じゃ、君にとって確かなことってなんなんだろう?」
「事故の事はリアルです、艦長が庇ってくれて、這いずりだした廊下で見えたものはフェイクじゃありませんでした」
 十八人の犠牲者が出た、あの艦内の惨状だけは疑いようがないのだ。
 自分の責任ではないと叫びながら、逆に胸は締め付けられている様子だ。

「冷え切ったたこ焼きです……誰も手を出しません」

 もうお手上げ……そう思った時キャビンのドアが開いて航海長が入って来た。
 
  
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