意外な人が周恩華さんの身元引受人になってカタがついた。
なんと、裏のアパートの冴えない住人、四ノ宮忠八クンだ。
「よかったら、さつきさんもどうぞ」
というので、迎えのタクシーにいっしょに乗った。
違和感は、ここからだった。
四ノ宮クンと言えば東京大学に籍があることだけが取り柄の、冴えない上に貧乏な学生という認識しかない。
「四ノ宮クン、どこに行くの?」
「恥ずかしながら、僕の実家」
そう言ったなり黙りこくってしまった。タクシーは山の手の高級住宅街に入って、ひときわ大きなお屋敷の前で……と思ったら、八の字に開いた門を潜って玄関の前の車寄せで止まった。タクシーのドアが自動で開くのは当たり前だけど、開いたドアの前に執事さんとメイドさんが出迎えているのにはタマゲタ。
「四ノ宮クン、あなたって……」
「めったに、ここには来ないんだけどね……」
「奥の座敷になさいますか? それとも坊ちゃんのお部屋で?」
「僕の部屋。肩の凝らないところがいいだろうから」
「若奥様は、間もなくお出でになります」
「え、まだ来てないの。桜だけが頼りなのに」
「え、さくら!?」
「あ、来てから説明するけど、あの『さくら』じゃないから。ま、どうぞ。南さん、お茶だけおねがいします」
「かしこまりました」
アキバや渋谷のまがい物ではないメイドの南さんがお辞儀をする。メイドも本物になると迫力と気品がちがう。
四ノ宮クンの部屋は広いだけが取り柄のガラクタ部屋だ。
プラモデルやフィギュアの類なら、まだ理解はできるけど、かなりの量のプラレールや、骨董品屋さんの倉庫のように鎧があったり、模擬刀なんだろうけど、刀があったり、壺や茶わんや掛け軸。よく見ると、なんかの専門書や漫画などがゴタマゼで平積みになっていた。天井からは、モビールやら、模型飛行機なんかもぶら下がっている。
あたしはぶっタマゲタだけだけど、恩華さんは不快を絵にかいたような顔になっていた。
二三分すると、メイドではないかわいい子がワゴンにお茶とケーキを乗せて現れた。若奥さんではないと思った。身に着いた気品や、そこはかとなく感じる人としての幅が四ノ宮クンとはかけ離れ過ぎている。言ってみれば、この娘さんはドラマで主役がはれそうだったが、四ノ宮君は、どう見ても通行人のエキストラ。
「妹の篤子。こないだまではオレのお目付け役だった」
「過去形で言わないでくれます、お兄様」
「おいおい、じゃ、お目付け役が二人も居るってことかい?」
「たった二人だと思ってたの? まあ、頼りない兄で申し訳ありません。そういうわたしも盲腸のときはさくらさんにお世話になりましたけど。どうぞ恩華さん」
恩華は、お茶を受け取るふりをして、少し先にあった脇差を抜くと自分の喉元に当てた。
「恩華さん!」
「近づかないで!」
それ以上近づけば、自殺しかねない勢いで、誰も身動きができなかった……。