大橋むつおのブログ

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くノ一その一今のうち・89『再び草原の国』

2023-12-16 06:15:08 | 小説3
くノ一その一今のうち
89『再び草原の国』そのいち 


 散らばった破片に見覚えがある。


 以前、米軍の輸送機で草原の国に潜入した時に戦った跡だ。

 破片の向こうに城壁が聳えている。

 大きい!

 以前来た時は、城外で戦っただけで、中に入ることはしなかった。

 あの時は月も半ば雲間に隠れ、城壁は篝のある正面がぼんやり浮かぶ程度で、その果てまでは見通せなかった。
 作戦の目的は王子の奪還であり、やっと奪い還した王子は猿飛佐助が化けていたものだった。正体を現した佐助と城外で戦った、その時の跡が片づけられることも無く、そのままになっている(32『王子を逃がす』33『猿飛佐助の陰謀』)

 あの戦いは、おそらくは時間稼ぎ。そして、鈴木豊臣家への警告。

 あるいはブラフ。

 すでに敵は高原の国への工作には失敗している。

 B国の同時多発の爆破には成功しているけど、機甲旅団は壊滅させた。

 テストの点数で言えば30点。赤点のオンパレードで追試験。

 しかし、城壁の外から伺う限り、このまま赤点を認める風もなく、来たらば来たれと待ち受けている様子。

 ようし、赤点を確定させてやる!

 下忍には過ぎた判断かもしれないけれど、高原の国への攻撃を断念させるという命令は生きている。

 取りあえず潜入、懐の鉤爪に手を伸ばす。

『空から行きましょう!』

 魔石を包んでいるえいちゃんが力強く提案する。

「空から?」

『はい、ちょっと自信がつきました。空からの偵察にも慣れました、機甲旅団も空から攻撃できましたし、ソノッチ一人ぐらいなら城内に運べると思います!』

「そうか、じゃあ……」

 すぐにその場から飛び立つようなことはしない。

 姿勢を低くし、岩や灌木の陰を拾いながら城の西側に周る。とっくに太陽は西に傾いているので、太陽を背に侵入するには西側に出なければならないのだ。

 長い……皇居は東西方向に、永田町―桜田門―日比谷と地下鉄で二駅分、1.5キロほどだけど、この草原の城は優に2キロ四方、それ以上はありそうだ。

 ようやく南東の櫓が見えて城の西側。

 300mほど走ると、城壁の向こう側にさんざめきや車の音、陽気な呼び込みの声やらがしはじめて……どうやら西側は商業地域のようだ。

 よし!

 えいちゃんを西風に載せ、わたしは、軽く地面を蹴った。

 グーーン

 太陽を背に、無事に西の城壁を超えた……

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 

 

 

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