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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・71《峠を越える》

2021-05-03 05:35:16 | 小説3

レジデント・71

《峠を越える》      

 

    

 ……地獄に行くのかなあ

 

 そう呟いたのは閻魔大王の娘エマのせいでもなく、ビッチェの消防車のせいでもない。

 地獄と関りがあるというには、エマはやんちゃながらも可愛い少女っぽすぎるし、ビッチェの消防車が亡者を護送する火の車というのはfire truckの拙い和訳みたいで切迫感がない。ビッチェも地獄の使いというような禍々しさを微塵も感じさせない女の子だ。

 それなのに真凡が地獄行にいくのかなあと呟いたのは、もう一時間以上も走っている坂道のせいだ。

 悪路と言うほどではないが、ガタピシとお尻に響く振動は、今どきの日本にはありえない。

 カリフォルニアのデスバレーなら、こんな感じかと思うが、消防車の前後十メートル先が乳白色のガスだか霧だかに覆いつくされて、景色がまるで見えない。

 そのために、上り坂であるにもかかわらず地獄の印象がするのだ。

「ここは黄泉平坂(よもつひらさか)、峠を越えると根の国底の国、地獄とは、ちょっと違うの」

「それって、日本の神話に出てくるんじゃない?」

「うん、外れてはいないけど、それとも違う。えと、言うならば……」

 

 ビッチェが言葉を捜しているうちに、長かった上り坂が平たんになり、ガスだか霧だかも晴れて景色が広がった。

 

「最初はここね」

「うわーーーー!」

 

 出てきたところは、お尻の振動に変わりはないが、山の中腹の葛籠折れの下り坂。

 山肌の木々の間からは涼やかな街並みが広がり、街の向こうは麗らかな瀬戸内海。

 舗装されていない地道、道路わきの電柱はことごとくが木製で、露幅の狭さや広島までの距離を示す標識がレトロなことから、どうやら2021年の今の時代ではないことがうかがわれる。

 退院してからの数時間が現実離れしているので、この程度の違和感は何でもなくなっている。

 ビッチェが大きくハンドルを切って、崖に差し掛かったんだろう、大きく海が広がった。

「おーーパノラマだ!」

 感激していると、彼方の沖、海が大きく盛り上がった。

「え?」

 グイっと消防車がカーブを曲がって衝撃音がした。

 

 ズズズーーーーーーーーーーーン!

 

 消防車のバックミラーには灌木の向こうに、大きな水柱が三本も立ち上がっていた。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 


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