あたしのあした・69
『智満子んちの表札』
あーーーーこんぐらがってきたあーーーー!!
雲母祭りが終わったあと、市役所の裏側でサイレンサー付きのマシンピストルで撃たれるハメになった!
「ごめん、やっぱ巻き込むわけにはいかない」
そう言って、ショートヘアにイメチェンしたきららさんは去って行った。
市役所の裏庭、それも雲母市のビッグイベント『雲母祭り』が終わった直後に祭りのヒロイン雲母姫と、その侍女が撃たれたというのになんのリアクションも無い。
これは騒がない方がいい。
直観でそう思った。
だから、あくる日からは普通に学校に通った。
「「よく食べるわねぇー」」
智満子とネッチの声が揃った。
「そっかなー」
そう言いながらラーメンのスープを飲み干す。
「そーよ。ランチのデザートに大盛りラーメンてどーかと思うわよ」
「スープまで飲み干しちゃって、2000キロカロリーはいってるよ」
「どれどれ……」
ウキャ!
いきなりわき腹をつままれた。
「ちょ、スープ飲んでるのよ!」
「その割に贅肉になってないんだ」
「ひょっとしたら……」
「キャプ! 胸触んなあ!」
「あいかわらずの憐乳だしい」
とりあえずは弄られる。このままで終わったらイジメられていたころと変わらない。
「海岸で死んでたのは王女様一人だけにされちゃったね」
智満子なりに調べているようだ。
智満子の家でお泊り会をやった翌朝、雲母ヶ浜で男女三人の水死体に遭遇した。
――雲母ヶ浜に身元不明の水死体!――
ニュースに出たのはそれだけだった。ようやく昨日になって――水死体はゼノヴィア公国のシャルロッテ王女!――と発表された。
「男二人の死体は無かったことにされたのよね」
若草色のプラコップにお茶を入れながら智満子がため息をつく。
「お父さんからのルートでも分からないの?」
ネッチの瞳も真剣モード。
「この件には関わるなって、いつになく真剣な声で言われた」
あのお茶目なお父さんが真剣……お風呂で裸同士で遭遇した時の様子からは想像もできない。
「かなりヤバイことが背景にありそうね」
「学校に爆弾予告した犯人も分かってないし……思うんだけど、王女様の事件と爆破予告は連動してるんじゃないかあ」
「ネッチ、鋭いよ。あたしもそうだと思う」
「爆破予告は雲母市始まって以来のことで、警察なんかも、かなり人を割いて警戒したらしいの……これって、王女様のことから目をそらせるためのフェイクなんじゃ……」
「でもね、深入りはしない方がいいような気がする」
智満子は、そう言いながらスマホの画面を見せた。
「ん……智満子んちの表札じゃん」
「こーするとね……」
智満子は指を添えて画面を拡大した。
「「え……あ!?」」
ネッチと二人息をのんだ。
苗字の「横」と「田」の間に穴が開いている。
「これって……」
「たぶん銃痕、で、あくる日の表札がこれ……」
あくる日の表札に、その穴はなかった。